その後の物語④ 猫壺堂

 つぎの日の朝、住宅部分から早速、猫壺堂の店に私は案内された。


 多数の装飾の多い剣が置かれ、他に王冠や大粒の宝石のついたジュエリーなどが棚に置かれていた。


 古いものが多く、でも美しいものばかりだ。


 そこから左側を見ると、カウンターのような場所があり、その後ろの棚には、液体の入った透明な瓶や、薬草のようなものが入った瓶が多数置かれている。


「ねえ、猫壺堂って、何屋さんなの?」

 私は、王冠や大粒のジュエリーの美しさに見とれながら言葉を発する。


「猫壺堂では、俺とジェムが、普通の人が入れねぇようなダンジョンの深みに入って取ってきた宝を売っているんだ。

 それから俺が、治癒魔法もやっている。あと、様々な病に対応できる魔法の薬を作って売っているんだ」

 ベルトルスが説明した。


 そこへウルファーがやってきて、店内にある黒くて大きな壺の中に入り込んだ。


 私が中を見てみると、既に彼は丸まっている。


「そして、ウルファーは、看板猫かしら?」

 私は、まん丸くなって腹を上下させて呼吸している毛玉を見た。


「いや……。ウルファーは違う。殺しだ。殺しの依頼を受けた時に、殺す殺し屋だ。恨みを買う仕事なんで、普段は、猫になって、過ごしているんだ」

 ベルトルスが説明する。


 彼が説明すると、ウルファーが壺の中からぴょこん! と出てきた。

「俺、ずっといつも猫の姿だけども」

 飛び出て来たウルファーの姿が、いきなり大きな真っ黒な狼に変身したのだ。


「おっ……狼!?」

 私の胸の鼓動が速くなる。

「安心しろ、取って食ったりしねぇよ」

 そう渋い声で言うと、何と今度は背の高い黒髪の人間の姿になったのだ。


 左目が潰れ、右目の金色の瞳が爛々と輝いている。

 その顔はとても整っていて、年齢はだいたい21歳ぐらいだ。


 正直、ベルトルスよりもずっと、ウルファーの人間姿の方が、格好よく、魅力的だ。私が好みの年上の男性である。


 しかも顔が整っていて、美しい。


 私はしばらく、そんなウルファーに見とれていた。


 ウルファーは、殺しの依頼を受けるという。その人間姿の彼は、とてつもなく格好良い。


「おい、ウルファー! いつまで人に変身してやがんだっ! 人の姿ずっとしてっと、警邏の連中にお前、追われちまうぞ!」

 ベルトルスが、面白くなさそうに声を発する。


「ベル、安心しな。お前の嫁さんは、取ったりしねぇからよ!」

 って……嫁さん!?

「ちょっと! 私はこんなお子ちゃま、ぜんぜん好みじゃあないんだからねっ!」

 私は、思わずブチ切れた。 嫁って……! しかも、何!? こんな11歳かそこらぐらいのお子ちゃまの嫁って……。こんなエロガキの!?


「それに、私、絶対にお子ちゃまのお嫁さんになんてならないんだからねっ!!」

 私は、強く言い放つ。


 ベルトルスがまた、落ち込んだポーズを取ったが、冗談じゃない! こんなにちっさい子と結婚するなんて、ありえるはずがないのだからっ!

「私は、おねしょしてそうなお子ちゃまの店長よりもずっと、背の高い大人の男がタイプなんだからねっ!」

 私はその場で、はっきりと、そう言ってやったのだった。



 猫壺堂の仕事をしていると、おばあちゃんを思い出した。

 おばあちゃんも魔法で薬を作って具合の悪い人のために売っていた。


 猫壺堂のお仕事の中でも、魔法の薬を作って売ることが多い。


 この猫壺堂に来てから、私は悔しいけれども、ベルトルスから、色々な薬を作る方法を教わった。


 いくつもの薬草を組み合わせ、それに魔術を込める。

 その魔術を込める作業を私も見てやったのだが、まだまだ雑で売り物にならないと言われた。


 ……そういえば、おばあちゃんにもずっと、そう言われてきたっけな。

 魔法で薬を作れるようになるには、ある程度の時間が必要だとか、おばあちゃんが言っていた。

 そして、店長も、そう言っている。


 店長に薬づくりを教わりながら、スケベでお子ちゃまだけれども、そんな店長に、私は心の底から感謝していたのだった。


 なぜなら、私は、ここにお世話にならなければ、未だに女の子1人で過ごし、ストーカーがつくかもしれない危険と隣り合わせの生活だったからだ。


 夜になると、途端に治安が悪くなるため、私は、この店で店長たちに守られながら生活できることが、何だかんだ言って、とても嬉しいのだった。

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