エピローグ―再会―

 ベルトルスは、今日もダンジョンの中を、探索していた。


 そして、彼はこの日、ダンジョンの中で、魔物に襲われそうになっている美少女を助けた。


 魔物を完全に倒し、彼女のその青色の美しい瞳を見つめた瞬間、様々な記憶と想いとその断片が複雑に交錯し合い、胸の奥が強く痛むのを感じる。


「……やっとまた、会えたな!」

ベルトルスは、胸の奥底から湧き上がってくるその情動を、言葉にせずにはいられなかった。


 しかし……。

って? 私、あなたに会うのは、初めてなんですけど?」

 桜色の髪をした美しい少女は、目を見開き、まじまじとベルトルス。と、ベルトルスが左手に抱える赤ん坊を交互に見つめる。


「おい、ベル! ミリファエルの奴は、また俺たちのことを、忘れてっぜ。」

 ベルトルスの胸元の赤ん坊がしゃべる。オヤジの声で。


「そうだな、ジェム。ところでお前、いつまで俺に抱かれてんだよ! 早く離れろよっ!」

 ベルトルスのうんざりしたかのような言葉に、ジェムは、コウモリのような黒い羽を生やしながら、宙に浮きあがる。


 彼の背中にはもう、あの清らかな白い羽が無く、代わりにコウモリのような黒い羽が生えている。


「あっ……赤ちゃんがしゃべった!! しかも、声がオヤジ! キモっ!!」

 目の前の16歳ほどの美しい娘は、小さな赤ん坊がしゃべったのと、コウモリのような黒い羽が生えて宙に浮いているのを見て、目を大きく見開いている。


「……俺は、堕天使になることで、人間界へ来ることができたんだが、……ミリファエルはまた、完全に人間に生まれ変わってるな。」

 ジェムが、物憂げに言葉を吐き出した。


「ちょっと、あなたたち何を言っているんです? 私はミリファエルじゃあなく、ミランジェアって言います!」

 美少女の言葉で、ジェムとベルトルスの目線が、彼女の美しい顔へ向いた。


「ミランジェアちゃんか。よろしく。俺の名は、ベルトルス。そして、このガキが、天使から、堕天使に落ちたジェム。俺の親友だ。よろしくな。」

 ベルトルスは、ミランジェアと名乗った彼女の柔らかい右手を握り、握手を交わす。


 彼女の手の温もりに、ベルトルスの繊細に積み重ねられてきた時の重みの深淵に光がさしてゆく。


 その時、ミリアの家事慣れしたゴツゴツした手と、若い少女のスベスベで柔らかい手の像が記憶の中で重なり、ベルトルスの目から、思わず涙が流れ落ちた。

「ちょっと、ぼく? 私、何か変なことした? 何か、ごめんね。」

 ミランジェアの言葉で、ベルトルスは、急いで涙を拭う。


「ミランジェアちゃん。俺、小さいけど、子供じゃあないんだ。」

「えっ?」

 ミランジェアが、まじまじと、12歳程にしか見えない少年の姿のベルトルスを見つめる。



 嬉しかった。

 また、記憶が飛んでしまっている。が、とにかくまた、ミリファエルの生まれ変わりに出会えた事が、本当に心の底から嬉しくてたまらない。


「おい、ベル! ずっとダンジョン潜りっぱなしで、俺、くたびれたわ。

 家帰ってビールを、ジョッキで飲みてぇぜ!」

 ベルトルスの感動を、ジェムのオヤジの声が打ち破る。


「えっ!? 赤ちゃんなのにビールって!? ダメよ、せっかく可愛い赤ちゃんの顔してんのに、ビール飲んだら、おじさんの加齢臭が出てきちゃうわよ! そして、おじさんの顔した赤ちゃんになっちゃうっ! うわっ! 何だかキモっ! 大変だわっ!!」

 ミランジェアが、ジェムの言葉を聞き、びっくりして、赤ちゃん姿、声はオヤジのジェムを見る。


「お嬢ちゃん! 俺は、こう見えても大人なんだぜ。そして、下半身もな! ちゃんと種付けもできっぜ!」

「いやあっ!!」

 ジェムの発言に、ミランジェアが赤面する。


「バカやろ!」

 ふざけたおっさん声の赤ん坊の頭を、ベルトルスが、思わず殴る。



 とても幸せだった。

 ジェムは堕天使となり、自分がいるこの人間界へとやってきてくれた。


 堕天使となり、魔界へ落ちることで、人間界と通じやすくなるのだ。


 いつの世も、人の心は邪を含む。ゆえに、人の世界は魔界と太いパイプで繋がっている。


 それゆえ、悪魔は実体化して人間界へ来れる。同じく、魔界へ落ちた堕天使も、人間界へは、実体を持って生身の体として来ることができる。


 ジェムは堕天使となり、人間界へ来ることで、ベルトルスといる現実をえらんでくれた。

 永遠を生きる親友が、今は共に時を重ねてくれている。


 そして、何よりも大好きな恋人がまた、人間として生まれ変わってきてくれた!


 今度こそ、何が何でも彼女の記憶を取り戻させて、この世界で、彼女と永遠を共に生きるぞ!

 ベルトルスは、深く、心の奥底から誓ったのだった。


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