42なる物語 涙

 しばしの間、ゲオンは、黙ってベルトルスの悲し気なマリンブルーの瞳を見つめていたのだった。


 が、

「それは、本当に辛いことだな……。なあ、ベルトルス。お前はさっきから強がっているようだがな。でも……。悲しい時は、泣いてもいいんだぜ!」

 ゲオンが、静かに言った。


「俺は、こういう事は何度もあって、慣れているんだ! だから、大丈夫だ」


「お前って、体全体が、プライドだけでできてるような奴なんだなぁって、つくづく思うぜ。

 そんなちんけなプライドなんて、捨てちまえって! いつでも強く見せなくたって良いんだ。」

 ゲオンは、静かに言った。


「だっ……大丈夫だから……。」


「泣いてもいいんだよ。ミリアが死んで、俺と同じく、お前もとても悲しかったんだろ?

 男だって、時には泣くことが、必要なんだよ」

 ゲオンが優しい言葉をかけたその瞬間、ベルトルスの2つの綺麗なマリンブルーの瞳が潤み、悲しく輝く涙を流しはじめた。


 ベルトルスは、声をあげ、号泣し続けた。

 ゲオンの胸に、顔をうずめながら、ずっとずっと、堰を切ったかのように、泣き続けているのだった。




 その後、ベルトルスは、ベルティアとして過ごしながら、3人の子供たちを育てあげた。


 3人の子供たちがそれぞれ独立し、ベルティアの元を去った後、少ししてゲオンが病気になった。


 ベルトルスは、彼の病を癒そうと必死になったのだった。が、今回も寿命らしく、癒しの効果はなかった。


 その後、ゲオンとは死に別れた。

 


 ベルトルスは、黙ってゲオンの黒い墓石の傍に立っていた。


 彼は、白く清らかに咲く花をゲオンの墓に備えた瞬間、こらえられなくなり、マリンブルーの美しい瞳から、涙を流した。


『ベルトルス。俺はずっとお前を見守っているよ。』

 ベルトルスには、確かにゲオンの『声』が、聞こえたような気がした。


「見守っているって、死んじまっては、もう、ずっと会えないだろっ!!?」

 そう言って涙を流すベルトルスを、フワリと柔らかい空気のようなものが取り巻き、消え去った。

「ゲオ……ン?」

 一瞬、ゲオンがベルトルスに優しく触れたような気がする。


 その後、何も感じなくなり、辺りを静寂が支配した。


 ベルトルスは1人、悲しみの涙を流し続けているのだった。



 ベルティアの産んだ子供たちは、1人は200年、あとの2人は300年ほど生きて、それから亡くなった。


 ベルトルスは責任を取り、子供たちが亡くなるその時まで、優しい母ベルティアとしての姿でずっと過ごし、子供たちを、支え続けた。


 それからまた、悲しみの涙と共に、子供たちを、この世から見送ったのであった。

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