39なる物語 ベルトルス王の恋

 ミリファエルといると、心が楽しくなり、ウキウキした気分になってゆく。

 一方ミリファエルと会えない日は、何だか悲しく想うのだ。


 この気持ちは、何だろうか?

 親友のジェムに相談すると、

「それは、恋だろ!」

 いきなり、そう言われた。


「わっ……わしが……天使王の、このわしが、恋だって!?」

 ベルトルスは、驚かずにはいられなかった。


 ミリファエルといると心がワクワク楽しい気分。そして、彼女と会えないと、泣きたいほどに、悲しくなっていく。会えない時、辛くて、時々隠れて泣いていた。


 これが、恋!?


「お前もついに、恋をしたか! これが、天使たちがしている恋というものだ。もう、恋する天使たちの邪魔を、やめることだな!」

 ジェムが厳しい表情で、ベルトルスの2つのマリンブルーの瞳を覗きこんだ。

 

 ジェムもベルトルスの行為に反対していたのだった。だが、ベルトルスは、かなりの堅物なため、何を言っても聞き入れず、それで諦めていたようだ。


「わしが恋!? うっ……嘘だっ!!」

「ベル!!」


 ベルトルスは、宮殿を飛び出していった。自分が汚らわしき恋なるものに落ちたことを、絶対に認めたくないのだった。


 ベルトルスは、深い自己嫌悪に囚われた。わしが、人間がするような恋に落ちるとは……っ!!

 信じたくないっ! わしは、繁殖を目的とした下等な動物などではないっ!! だが、ミリファエルのことが心から気になっていつもいつも、離れないっ! ……どうしたものか……。


 何時間も業務を放り出し、空間を飛び続けた後、ベルトルスは、無意識のうちに、ミリファエルの住む家へと行きついた。


 もう、夕暮れ時の時間だった。


「……ジェムの奴が言う……! わしが、恋など下等な感情に囚われてると! ……わしは、恋などに悩まされる下等な動物ではないというのにっ……!!」

 ベルトルスは、悔しさに顔を歪めながら、言葉を放つ。


 恋とは、とてつもなく汚らわしい動物的な感情だ! 高貴な天使であるこのわしが、天使の王であるこのわしが、恋に落ちたなど、そんなことを、ジェムの奴が言うのが、腹の底から気に食わない!!


「でも、何? ジェムさんにそう言われて苦しくなったから、私の家へ来たんでしょ? それって、私のことが好きってことよね?」

「……いや、行く場所が、ここしか思いつかなかっただけだ……」

 しどろもどろに言葉を出すベルトルスだった。

 今さらながら思う。……無意識に、ミリファエルに会いたくて、ここへ来てしまった!


「行く場所って言ったら、常連のご飯屋さんもあるんじゃない?」

「それは……」

 ベルトルスが、赤面して、気まずそうに下を向く。


「本当にあなたは、堅物ね! いい加減、あなたが私に恋しちゃったってこと、認めなさいよね。

 私も、あなたの事が好きになっちゃったの……!」

 ミリファエルが、真っ赤な顔をしながら、ベルトルスの目を見つめ、言葉を綴る。


 そんな可愛らしいミリファエルを見て、ベルトルスは、彼女が愛おしくてたまらなくなった。

「……わしは、本当に、恋しちゃったのか?」

「そうよ……」

 ベルトルスは、ミリファエルの言葉に、体中が熱くなるのを感じた。


 それから、ミリファエルを抱きしめたい強い衝動にかられた。

「……何か、体が変だ……。わしは、どうなっちゃったんだ……?」

「大丈夫。あなたの想うままに、動いていって」

 ミリファエルの言葉に、ベルトルスは、静かにミリファエルに口づけすると、彼女をソファへ押し倒し、体が命じるままに、動いていった。


 その日、ミリファエルとベルトルスは、結ばれたのであった。


 今まで悪いものと思っていたのだが、恋は、悪いものではない。それを悟ったベルトルスは、恋し合った天使たちと、それにより生まれた天使たちを、人間の永遠の輪廻転生の輪へ放り込むことをやめよう! そう決意したのだった。

 

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