37なる物語 ベルトルス王の怒り!

 それは、今から1億年ほど前のことになる。

 世界創造の神は、自らの涙の粒を落とし、このタファールジアの世界を創った。


 神は世界を創ってから、人間や亜人、動物、魔物たち、様々なダンジョンを地上へ作り、しばらくの間、見守っていた。


 人の生は永遠ではなく、老い衰える苦と共に歩む。

 そんな限られた時間しか生きられぬ人間たちは、地上生活をしていく上で、様々な苦しみに見舞われた。


 そんな時、地上にいる多くの人間たちは、涙を流しながら、神へと助けを求めていた。


 その助けを求め、祈る人々は膨大な数だった。それだけ、人や亜人の地上生活は、困難を極めたのだ。


 神は、地上に暮らす人々や亜人を哀れんだ。


 そこで、神は自分がいるその下に天界を作り、そこに神の使いとなる天使たちを多数生み出し、住まわせた。


 最後に、天使と人間をつなぐ調整役として、ベルトルス王を配置した。


 天使王ベルトルスの指示のもと、天使たちは人間界へ行き、悲しみに暮れる人間たちの涙の数だけ、願いを聞き届けていった。


 清く厳しい心を持つベルトルス王は、清き天界で、満足そうに天使たちが、人間の苦しみを排除し、幸せにしていくその過程を見守っていた。


 ベルトルス王は、とても幸せだった。

 目をかけた人間たちが、送り出した天使によって救われていく、その清らかな様を、幸せな心地で見守っていた。


 だが、そんな穏やかな時に、ヒビが入るような事件が勃発する!


 人間界へ行くうちに、天使たちは、人間たちの恋愛を真似るようになっていった。


 天使たちは、人間たちが美しい恋をするその様に惹かれ、次第に天使同士で恋をするようになっていったのだ。


「汚らわしい!」

 恋し合う天使たちを見かけるたび、ベルトルス王は、天使の誇りを汚された気分に陥っていった。


 人が繁栄する生殖などという行為は、動物的で、汚らわしきものだ! 恋という人の感情も、やがては動物的な生殖に繋がる! 人間は動物であるけれども、天使は、動物などではない! 天使と人間は、そういう意味で、全く異なる!


 そんな清い存在である我ら天使が、人間の繁殖行動の一種である恋をまねるなど、あってはならないことだ! ベルトルス王は、恋の話題を聞くたびに、怒りが込みあげてくるのを感じていた。


 そこで、彼は天使たちに恋し合うことをやめさせようと、躍起になった。


 だが、天使たちは、人間界の恋し合う男女の場面を目にすればするほどに、恋愛というものに惹かれていった。


 天使たちの情動は止まらなく、ベルトルス王の言葉を聞かなくなっていったのだ。


 ベルトルス王の言葉を守ることなく、恋し合う天使たちが増えていった。



 天使同士で愛し合って子供まで生まれるようになった時、ベルトルス王の怒りは頂点へ達した!


 恋し合って子が生まれるなど、動物と同じではないかっ! そんな汚らわしいものは、この天界にいるのに、ふさわしくないっ! 未来永劫、動物として生きるがよかろう!!


 そこで、ベルトルス王は、恋をした天使、それによってできた赤子の天使共を、辛い人間の永遠の輪廻転生の輪に放り込みだしたのだ。


 一旦人間の輪廻転生の輪に放り込まれると、生まれ、死に変わりする短い人間の生を未来永劫味わうこととなる。


 その時ベルトルスは、自分は正しい事をしている! そして、正義の鉄槌を恋をした天使共にくだしている! わしは正しい!! 完全にそう思っていた。


 友人が間違っていると通告を出したが、彼は、それが誤りであると絶対に認めず、自分が一番正しい! そう本気で思い込んでいた。


 恋をした天使たち、そしてそれによってできた赤子の天使たちを見つけると、ベルトルス王は、人間の輪廻転生の輪に、彼らを放り込み続けていった。


 それが、とてつもなく長い間、続いた。


 わしは正しい! 汚らわしいのが、悪いことなのだ! ベルトルス王は、己の決意を疑うことをせず、自分の意見が絶対であるとその時、心の底から想いこんでいたのだった。



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