35なる物語 天使の王ベルトルス

 それは今から4600年前。


 タファールジアの神は、金色の大きな光だった。

 天上界に神の大きな光が輝き、その金色に輝く光の下に、天使たちが住まう街があった。


 ベルトルスは、神様の傍で天使の王をしており、天使たちを束ねていた。


 天使の王の仕事は、神に願いを乞う人々の願いを、どの天使に預け、叶えさせるかを割り振る役回りを持っていた。


 タファールジアの神は、人々からの切なる良き願いを叶えるために、天使たちを生み出した。



 ある時、呼び出した天使が、ベルトルス王の元へやってきた。


「ひょっとこルクス!」

 ベルトルス王は、目の前にいる天使へと、言葉を投げかけた。


 ベルトルス王の真ん前には、変てこなひょっとこの面をかぶった男の天使がいる。


 ベルトルスは、ひょっとこルクスへ、さらに言葉を投げかける。

「お前は、そのお面も変な顔だが、素顔は、もっと笑える変な顔だってことを、わしは知っている」

「その通りです、王!」

 その瞬間、ひょっとこルクスが、面をはずした。


 ちっちゃすぎる目が、片方はつり目で、もう1つの目はたれ目。目の上の濃い眉毛は繋がっている。

 鼻が大きく、かなりのおちょぼ口。そのおちょぼ口に真っ赤な口紅なんて塗っているものだから、ひょっとこルクスの顔の面白さが余計に引き立っている。


 その笑える顔に、ベルトルスも、思わず噴き出した。

「その通りです、王! 私は、この面白い顔で、人間の夢の中へ出てゆきます! それで、悲しみのどん底に沈んでしまった人間たちを、いつも笑わせて、元気にしております!」

「その顔だ!」

 噴き出したベルトルスは、真顔に戻ると、話を続けてゆく。


「両親を失って悲しみにくれている小さな少女ジョシアがおる。彼女の夢の中へ、ひょっとこの面を取ったその顔で出てゆき、その顔のまま、笑える踊りをせよ! その際、ふんどし姿でもよろしいし、ビキニ姿なんて、変な格好でもよろしい。また、ゴスロリなんてものも、良いかもしれぬ!」

 「ゴスロリ」その言葉を言う時、ベルトルスが、わずかに笑ったように見えた。


「……って、ベルトルス王! 恐れながら申し上げます! ゴスロリは、王の趣味でござりましょう!? ここは、ますます笑えるために、男天使の私が、女性用のいちごのおパンティー姿で、彼女の夢に現れます。そして、この顔と踊りで笑わせましょうぞ!」

「……!」

 ひょっとこルクスに自分の趣味を見透かされ、ベルトルス王の顔が、一瞬引きつった!!


 だが、沢山の天使たちを束ねる王である。すぐに厳しい表情へと戻る。


「よい! では、ジョシアを笑わすよう、今から人間界へと出向け!」

「ははぁ~~~~~!!」

 ひょっとこルクスは、深く頭を下げると、ベルトルス王の前から去り、人間界へと飛んでいったのだった。


 ああ……。これでもう、天使に用事を申し付けるのを、3万回以上やってるな……。人間や亜人たちは、厳しい試練の中を生きておるから、数も多くて、疲れることよ……。


 ベルトルス王は、今までの申し付けの数を想い、肩で大きく息をした。


 そんな時だった。

「おい、ベル! 相当くたくたじゃあねぇか!」

 宮殿の大柱の後ろから、オヤジの声が聞こえてきた。


「ジェムか? わしが疲れながら申し渡しをするのを、又もや覗き見ていたのか?」

 大柱へ向け、声をかける。


 すると、大柱の後ろから天使の羽を生やした小さな赤ん坊が出てきたのだ。


「見てたぜ! お前が何度となく申し渡しに全集中してたんで、俺は、今まで出て行くタイミングが無かったぐらいだ! 真面目なのもいいが、少しは休憩はさめよ」

 小さな赤ん坊姿の天使が、オヤジの声で言葉を綴る。


「真面目に申し渡しをしなければならぬであろう? 人間の世界というものには、キツイ試練がつきものなんだ。

 そんな試練の中で、苦しんでいる人間がいるかと思うと、なかなか仕事を休めなくてな。

 それにしても……」

 ベルトルスは、赤ん坊姿でオヤジの声でしゃべるジェムをまじまじと見つめる。


「ジェムは、赤子の体に、似つかわしくないオヤジの声……。いつお前を見ても、シュールだな!」

 ベルトルス王の言葉に、ジェムは顔をしかめた。


「それは、言わねぇ約束だぜ!」

 ジェムは一瞬むくれて見せた。


「分かった。それで、わしに何の用だ?」

「これ!」

 ジェムが持っている箱を開けた。


「!!」

 その瞬間、ベルトルス王の瞳が、少女漫画の主人公のようにキラキラになる。


「いつもの差し入れ! キラ街の8つ角にある店の焼きチョコだ。お前が疲れていると思って、今日も買ってきた! 一緒に食おうぜ!」

 ジェムの言葉に、ベルトルス王の目の輝きがますますキラキラしてゆく。


 ジェムが差し入れてくれるこの焼きチョコの味は、絶妙にうまいのだ! いつも申し渡しで忙しいが、この焼きチョコで、力をもらえ、元気力が最大限に回復する!     ベルトルスは、8つ角の店のこのチョコが、大好物なのであった。


 その後、友人のジェムと共に、焼きチョコを堪能したのだった。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る