22なる物語 子供が欲しい旦那とベルティア

 ベルティアは、この日とても幸せな気分だった。

 ゲオンと2人でキョロギルの街へ行き、ちょっと洒落たレストランで、夕食を2人で食べるのだ。


 いつも毎日が幸せで満たされていたが、今日は夜、お出かけをする。彼女の心は、いつもよりも浮き立っていたのだった。


 夕ぐれになり、ゲオンが帰ってくると、ベルティアは洒落た服に着替えた。またゲオンもきちんとした服装に着替え、キョロギルの洒落たレストランへと足を運んでいった。


 広いレストランの中は、魔光球で明るく照らし出され、各々の着る美しい衣装が、際立って見えていた。


 ああ、嬉しい! 今日はゲオンと2人で、豪華なお食事だっ!

 ベルティアは嬉しさで、胸が破裂しそうだった。


 だが、ゲオンの様子に、その嬉しさが一変して、気分が奈落へと落ちてゆく。


 ゲオンは、周囲を珍しそうに見渡している。彼自身、このような場所には、あまり来たことが無いからもある。


 レストランには、恋人同士のカップル、家族連れなど、様々な客が入っていた。


 そんな中ゲオンは、家族連れの子供たちばかり見ているのだ。

 ベルティアは、そんなゲオンの姿に、恐怖を感じていた。


 子供なんてものを作ってしまっては、これから先、どうなってしまうのか、見当がつかない!

 それなのに、ゲオンは子供たちの方ばかりを見ている。


 しばらく、周囲の様子をキョロキョロと見ていたゲオンだった。


 ゲオンが、口を開く。

「ベルティア。本当に、子供を作らなくてもいいのか?」

 ゲオンの表情は真剣そのものだった。彼の灰色の瞳がベルティアの2つの目を見ている。


「……ええ」

 ベルティアは、気まずく思いながら、小さく頷いた。


「子供は、俺たちを成長させてくれる大切なものとなる。俺は、そう想う。君との子供なら、俺は全身全霊で、可愛がるよ。やっぱり、嫌か?」

 真剣に、純粋で真っすぐな目でそう言われ、ベルティアは、目をそらした。純粋な男心に、ベルティアの胸が痛む。


 ……そうだよね。結婚したんだから、子供が欲しいよね……。普通の人が持つ喜びが欲しいよね。その心は、彼女もよく分かる。


真っすぐな想いだからこそ、居心地が悪かった。



 時が流れていった。

「あのね……。私は、子供が嫌いなの。だから、作りたくないのよ」

少ししてベルティアは、言いにくそうに、しどろもどろに言葉を吐き出した。


「そうか……。分かった。だったら、2人で過ごそうな」

 ゲオンは、普通にそう言った。が、どんなに感情を隠していても、目に悲しみを帯びた輝きが宿っている。


「ごめんね……」

 ベルティアは、下を向きつつ、料理を喉へとかき込んだ。

 この店は美味しいと評判のはずなのだが、この時は、全く味がしなかった。



 数日の時が流れた。ゲオンは、子供が大好きのようだ。


 今日の休日も、手習いの学校が休みの近所の子供たちを、ゲオンが遊んであげている。

 そんな景色を見ながら、ベルティアは、決意を固めた。



「ねえ、ゲオン。私とは、別れましょ!」

「ええっ!?」

 ベルティアの突然の発言に、ベッドに半身を起こしたゲオンの目が、大きく見開かれた。


 ベルティアは、横になりながら言葉を続けていく。

「私は子供が嫌い、でもあなたは子供が大好き。だから、私とは別れて、他の女の人と一緒にならなくっちゃ。」


「何を言ってるんだ!? 正気なのか!?」

 目を見開き、驚きを露わにするゲオンに、ベルティアは、言葉を続ける。


「本気の本気。大マジよ。あなたは、子供が大好きな女の人と一緒になって、子供を産んでもらうほうが、幸せに過ごせる。だから、別れましょう」

 ベルティアは、笑顔で言う。時間をかけて全てを悟り、結論を出した人の顔だった。


「嫌だ!」

 ゲオンが甘えん坊の子供のように言葉を出し、ベルティアの小さな体を抱きしめた。


「ぬいぐるみがないと絶対に眠れないっていう可愛いクセを持つお前と別れるのは、俺は、死ぬよりも辛いよ! だからずっと、2人で生きて行こうな。

 そして、子供がいる人たちよりも、うんと濃い時間を持って、世界一、いや、宇宙一の幸せな夫婦になろうな!」

 ゲオンのベルティアを抱きしめる腕に、力がこもる。


「ありがとう……。」

 小さな声で礼を言ったベルティアの心は、複雑だった。



「……ごめんね。本当に、ごめんっ……!」

 眠りの世界に旅立ったゲオンへ、ベルティアが呟くように言葉を発しつつ、涙を流していた。


 ゲオンの期待に答えられない自分が嫌になった。でも、そんな自分に合わせてくれる彼の優しさに、またもや甘えてしまっている。……本当に、これで良いのかな? ベルティアは、涙を流しつつ、自問自答していた。


 すると、眠っているとばかりに思っていたゲオンが、いきなり目を開き、ゆっくりと半身を起こしたのだ。

「……何だか俺、旦那失格だな。可愛いお前を悲しませちまうなんてな……」

 涙を流すベルティアを、ゲオンが抱きしめた。その晩、もう一度彼女を抱いた。



泣きながらゲオンに抱かれた夜、ベルティアは、不妊の魔術をかけ忘れていたのであった。

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