第3章 結婚生活
21なる物語 子供がほしい!?
ベルティアとゲオンは数か月お付き合いしてから、結婚した。結婚式は、ヴォヴゥレの皆に祝福される大変幸せで優しいものだった。
ゲオンと結婚するとベルティアは、ミリアの家の近くに魔術で建てた家を、魔術で簡単に取り除いた。
それから、ミリアの家からやや離れた場所にある空き地へ、小さな家を、これまた熟達した魔術で建てたのだった。
「何だかお前、凄い魔術を簡単に使うな。ダンジョンの難しい魔術の込められた扉だって簡単に魔術で開けるし、ほんと凄いな!」
「そう思う? そう見えるだけよ。家を建てる魔術だって、めっちゃ想像力とかが必要で、テクニックも複雑だから、本当は大変なのよ」
驚くゲオンに、ベルティアは落ちついた表情で答えた。
凄いと言われても、ベルティアには、正直ピンとこなかった。他の人には凄いと映るかもしれない。
けれども、これも試行錯誤の上、失敗を繰り返し、苦労して修得したもので、当たり前の成果であるから、別に凄いとは思えなかった。
ゲオンは、ベルティアの建てた小さな家を、好奇心を持った目をしながら、見回っていた。
暖炉に続くだろう煙突を見上げ、窓から中をじっとのぞき込み、それから、家の周囲のレンガに触れ、そのザラザラとした様を感じているようだった。
彼は外見を一通り見てまわると、それから好奇心旺盛な顔で、家の中へと入ってゆき、家の中の様子を見て回っているようだ。
しばらくして、ゲオンが出てきた。何だかもの足りなさそうな顔をしている。
「あのな、ベルティア。家を建ててくれて、本当に感謝しているんだ。けれども、もっと広い家の方が良かったんじゃあないか?」
ゲオンが、やや不満げに言葉を綴る。
「何で?」
「子供ができた時に、この家じゃあ、小さいと思うんだ。それで、部屋数がもっとある二階建ての家の方がいいと思ったんだ。もっと広い家を建て替えるって、できないかな?」
「えええーーーーーーっ!?」
ベルティアは、ゲオンの本心を知り、驚いた表情を向ける。子供のことを考えるのは、正直なしだと思っていたからだ。
「子供が欲しいなんて、当たり前だろ? 何でそんなに驚くんだ?」
今度は、ゲオンが驚いている。
ゲオンが子供が欲しいと言い出した瞬間、ベルティアの心の中には、黒いものが立ち込めた。
……私みたいな存在が、子供を作るって、……それって、ありえなくねぇ?
「ねえ、ゲオン。しばらくは、2人でイチャイチャ♡したいから、2人っきりで過ごしたいのよ♡」
ベルティアは、内心焦りつつも、笑顔を取り繕って言葉にする。
「そうだなぁ~……」
ゲオンが考えこむ。
ベルティアは、ゲオンに言われて、初めて考えた。自分のような存在が子供を産む? そんなことは、考えたことがなかった。
「分かった。当分は、そういうことにしよう。でも、いますぐじゃあなくてもいいけど、そのうち、子供は作ろうな」
ゲオンが男として、夫として当然のことを言う。
「……うん」
返事を返すベルティアは、言葉にできない複雑な想いを抱いていたのだった。
結婚したのだから、子供が欲しい。人として、そして男、夫としては、当然のことだろう。
……だけどもな……。
ベルティアは、この時、ついに「本当の事」を言い出せなかった。彼女は、真実を告げられないでいたが、年月は待ってはくれない。
そのまま年月だけが、数か月流れていったのだった。
「ベルティア。子供は作らないのかい?」
ある時、ミリアが彼女の目をじいっと見つめながら言葉を放った。
イチゴジャムを多く作りすぎたとのことで、ベルティアの家へミリアがジャムを持ってきた、その時の言葉だった。
「……えっとぉ~……。」
ベルティアは、ミリアから目をそらす。そして、急いで言葉をたぐり寄せる。
「私は、子供が嫌いだから、それで……。」
「あんたはそれで良いかもしれないけれども、ゲオンもいるんだよ。結婚したならば、子供を産んであげることも、1つの仕事だよ。
ベルティア。あんたとゲオンは違う。その違いを見極めながらもすり合わせてゆく。それが結婚生活ってものだよ。
よくゲオンと話し合って、そして決断を出すことだね」
ミリアにビシリ! と言われ、ベルティアは、下を向いた。
正直、子供のことを考えると、憂鬱だった。
優しいゲオンは、子供は作りたくないなら、それでも良いと言ってくれている。そして、正直ベルティアは、それに甘えてしまっているのだ。
……私は、普通とは違う。だから子供を産むことは、どうしても避けたいのだった。
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