16なる物語 ゲオンの死
夜闇よりもさらに暗い真っ暗な空間の中に、無数の青白い光を放つ雷が落ち続けていた。
“ゴロゴロゴロ――――――……ドシャ――――――ンッ!!!”
辺りには雷の鳴る音や落下する音が、空間中に鳴り響いている。地に落下する轟音で、耳がおかしくなりそうな勢いだ。
その中を、小さな体のベルティアが、たった1人で進んでゆく。
空間中に轟音が轟き、彼女の小さな体に複数の雷が落ち続けていたが、ベルティアは、元気にこの空間の中を進んでいった。
しかし……。雷に打たれ続けながら、ベルティアは考えた。
この雷に1度でも当たれば、普通の人は死んじゃうわね。ってことは、かなりの魔術を極めた人とか、人ならざる者しか、剣は取れないってことか……。
ってことは、金貨千枚の剣をこの場に隠した古の者は、人ならざる者なのかもしれないわね。
ベルティアは、轟音鳴りひびく暗闇の中、雷に打たれながら、1人考えにふけっていた。
ベルティアが、ある程度歩を進めた時だった。
後方で雷が落ち、地に落下するそれらの轟音に紛れ、悲鳴のようなものが聞こえてきたのだ。
その数秒後、肉の焦げる嫌な臭いが漂ってくる。
その悲鳴と臭いに、ベルティアは、胸に冷たいものが込み上げてくるのを感じた。
同時に、冷や汗のしたたる感覚が感じられた。心臓の鼓動が速くなる。
「!!!」
ベルティアは、夢中で走った。その悲鳴のした方角に。
嫌な胸騒ぎが小さな胸にこみ上げるのを感じつつ、ベルティアは夢中で、そちらへと走った。
その間にも、彼女の小さな体へ、無数の雷が落ち続けていく。
「いやぁぁっ!!!」
彼女の口から、絶望を多分に含んだ悲鳴が、轟音の中に入り混じる。ベルティアの体から、血の気が引いていく。
そこには、雷で焼けただれた肉の塊があった。
その肉塊は剣をしょっており、その剣は……!
「ゲオンっ!!」
ベルティアの心に、強い衝撃が走ると共に、深い悲しみが込みあげてくる。
その肉塊が持つ剣は、ゲオンがいつも手にしていたものだった。
それはもう、黒焦げになった、ただの死体だった。雷が落ち続け、轟音の中、肉の焼けこげた臭いが、辺りに充満している。
空間中に落ち続ける雷も幻だと勘違いし、ゲオンが飛び込んできただろうことが、容易に想像できた。
「……さっき、もっとちゃんとゲオンに言い聞かせればよかった……!」
ベルティアは、思わずその場に座り込んだ。
頬に涙が流れ落ちてゆくのを感じていた。胸の奥底が、ズキズキと痛む。
魔物が死んで消えていった場所に花を置いていく優しいゲオン。ベルティアが先ほど大変な時に、ずっと抱きしめてくれていたその大きなぬくもり。そして、心から心配して、ずっと傍にいてくれたゲオン……。
そして、最初に言い争ったあの場面……。
胸が苦しすぎるほどに、苦しいっ!!
そこで、完全にゲオンに惚れてしまった自分に、ベルティアは、気付く。
この世界のどこにも、もうゲオンがいないっ!! 単なる動かない焼けこげた死体になってしまったことに、胸の奥底が痛んで、涙が止まらない。
彼女が見つめるその前で、死体と化したゲオンの体に、無数の雷が落ち続け、肉片を割いてゆく。
言い知れぬ恐怖と不安が、ベルティアの胸を支配した。
「いやだっ! 雷でゲオンの体が、崩れてなくなっちゃうっ!!!」
ベルティアは、パニックに陥った。
ベルティアの目には、次々と雷に破壊されてゆく『肉塊』が映し出されている。
パニックになった彼女の目から、悲しみの涙が流れ続けている。
「ゲオンが死んじゃった! ゲオンの体が、雷で壊れちゃうっ!!」
先ほどのゴシック調の扉を探すが、見当たらない。この空間から完全に姿を消してしまったようだ。
強烈なパニック発作が、ベルティアをおそった。
パニックの中、どうすれば雷空間から脱出できるかが、思い浮かばない。
しかし、そんなベルティアの苦しみとは関係なく、肉塊は、落ち続ける雷によって、削ぎ落とされてゆく。
息が荒くなっていった。涙が流れ落ち続けて動悸が速くなる。
剣のことは、もう完全に頭にはない。早くゲオンを抱えて、ここから出たいっ!! その大きな想い1つにベルティアの心は、支配された。
冷静になろうとすればするほど、動悸が速くなり、パニックに陥っていく。私のせいで、ゲオンが死んじゃった……!!
真っ黒いパニックの渦にのまれ、ベルティアの周囲が黒く染まっていくかのように感じられたのだった。
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