15なる物語 ゴシック調の扉
この場が、ダンジョンの深淵なる場所だろうことは、容易に想像できた。
先ほどまで見られた金色苔も無く、辺りを、重苦しい暗闇が包み込んでいる。
新月の夜のように全てを覆い隠すその暗闇の中、ベルティアは、右手の上に、魔法で金色の光を作った。
ベルティアの右手と、ゲオンのいる右上へ金の光を出現させると、互いに互いを見合うことができるほどまで明るくなる。
ゲオンは、不思議そうにベルティアの出現させた2つの光を見つめ、ベルティアは、用心深く辺りを見回しながら進んでいく。
すると、1つの広場に出たのだ。
だが、その広場の中へ入ることができない。
広場中を、青白い炎が包み込んでいたのだ。なるほどね。ベルティアには、その仕組みがすぐに分かった。
暗きダンジョンの深みの中で燃え上がる青白い炎は、神秘的にゆらゆらとゆれうごき、まるで宇宙生物か何かのように怪しく光輝いている。
「ベルティア!」
ゲオンの瞳が、驚きで大きく見開かれ、冷や汗がしたたった。
ベルティアが、何の装備もせずに、普段着のまま、青白い炎の中へ入り込んでしまったのだ。
「ベルティア、ベルティアっ!! 焼けて死んじまうっ!!」
ゲオンが、内臓中から絞り出すかのような悲鳴をあげる。
すると。
「ゲオン? なにビビってるの? 普通に炎の中へ、入れるわよ」
怪しく揺れ動く青白い炎の中から、ベルティアの声が聞こえてくる。
「あっ……熱くないの……か!?」
ゲオンは、気がおかしくなってしまうかのような勢いで叫ぶ。
「熱くなんてないわ。この炎は、単なる幻なの。形は見えても、熱も触れる感覚も何もない、ただの幻よ。ゲオン。普通に炎の中に入れるわよ!」
青白い炎の中から、ベルティアの元気な声が聞こえてくる。
ゲオンは冷や汗をかきつつ、人差し指を、おそるおそる炎へ向けた。
熱くねぇ!!!
熱を感じないと知った彼の顔のこわばりがほぐれ、ゆっくり、ゆっくりと、恐る恐る炎の中へと入っていく。
ベルティアは、炎の中を歩いていた。
用心深く辺りに気を張り巡らしながら、青白い幻の炎の中を進んでいく。
この炎は幻だ。魔法で出現させた幻の炎だわ。ベルティアの鋭い感覚が、炎の正体を見破っていた。でも、何で、幻の炎を出現させたりしたのかしら?
ベルティアは、炎について、試行錯誤を繰り返す。だが、なぜここに人工的な魔法の炎が作られているのか、その謎をどうしてもとくことができないでいた。
「……この炎、本当に幻なんだな。でも、この炎が本物だったら、うまいブタの丸焼きができるぜ!」
ゲオンが明るい声を出す。
「面白い発想するのね! 何だか緊張がほぐれたわ」
ベルティアが、ゲオンの方へと笑顔を向ける。
しばらく青白い炎の中を進んでいくと、いきなり岩の壁が出現し、その岩の壁に、扉があった。
扉は教会にあるかのようなゴシック調の頑丈な作りになっており、その扉の装飾は声にならぬほどに美しい。扉は金色で、ガラスのように透きとおった幼子の天使の像が2体、扉の上についている。
その天使たちの目はエメラルドで、キラキラと美しく輝いている。
「何て美しい扉なのかしら!」
ベルティアが、感嘆の声をあげる。
「そうだな。もしかしたら、この扉を開けると、お前の欲しい剣があるかもな!」
ゲオンは、扉の近くへゆくと、その扉を開こうと、ドアノブにつかまり、一気に力を入れる。
少しの間、ゲオンは力づくで扉を開こうとしていたのだった。が、筋肉質のゲオンが開けようとしても、一向にその扉は、開かない。
ベルティアは、扉をまじまじと見つめた。
すると、扉全体と、この扉を包み込む青白い炎からも、古代魔術を思わせる魔力が伝わってきた。
「これ、相当な力を持った魔術師が作った扉だわ。へぇ~、すごい! 古代の魔術師が作った扉で、この扉が開かないようにしているみたいね」
「ベルティア。つまり、かなり昔の時代の魔術師が、この扉を作ったっていうのか?」
ゲオンの言葉に、ベルティアは首を縦にふると、その美しいマリンブルーの瞳をゲオンへ向ける。
「扉だけじゃあなく、この幻の炎も、その魔法使いが作り出したものなの」
「そうなのか!」
ゲオンは、周囲の炎をまじまじと見つめ、それからゴシック調の美しい扉の装飾を見つめる。
「つまり、古代の魔術師がこの扉を開かないように魔法かけてあるんだったら、この扉、開くのが難しいってことだよな?」
ゲオンが、何ともいえぬ複雑な表情をする。
しかし……。
「私だったら、この扉、簡単に開くこと、できるわよ」
何でもないことのように、ベルティアが甲高い声で言ったのだ。
「えっ!?」
ゲオンの2つの瞳が目玉焼きのように大きく見開かれる。ベルティアの少女体系の幼い体を見つめた。
こんな小さな少女が、古代魔法で閉じた扉なんてものを、開けられるというのか!?
ゲオンは、信じられない現実を目にしたような目で、ベルティアを見つめる。
ベルティアは、得意げな顔になり、鼻を鳴らす。
「普通の魔法使いだったら、この扉は、絶対に開くことができないわ。この場所に使われている魔法は、普通の魔法使いにはとけないものだけど、私にはできる!
古代の魔法使いが、この扉を開かないように、この扉に魔法を施し、さらに誰かが入ってこれないように、幻の炎を出現させたと思う。
でも、私は最初っから、炎は幻だって、ちゃんと分かった!
それに。これだけ頑強な強い魔法で扉を閉じてあるんだから、ますます開けてみたくなっちゃった!」
ベルティアが、いたずらっぽく舌を出す。
やってやろうじゃあないのっ! こんなに厳重に強力な古代魔術をかけて、この扉の中の、一体何を封じているのかしら?
ベルティアの好奇心が動いていく。
ベルティアは、古語の混ざった魔法の呪文を唱えはじめた。その呪文が段々大きくなるにつれ、扉全体が、真っ赤に輝き、反応を示した。
そして、ゲオンの目の前で、あれよあれよという間に、扉が開いていった。
「すげぇ~! このドアを閉じてる魔法って、かなり高度な魔法なんだろ?」
ゲオンが真ん丸くなった目をベルティアに向ける。
「高度かどうかなんて、分からないわ。何せ、私はタファールジア中の魔法を極め尽くしちゃっているから、それはよく分からない。でも、開いたわ!」
ゲオンは、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべるベルティアを、不思議な生物を目にしたかのような目で見つめる。
ゲオンがビックリしているその横で、ベルティアは、もうすぐ最高額の剣と出会えるその興奮で、ウキウキしていた。
この扉の先へ行けば、金貨千枚の剣が手に入るかもっ!
さあ、入ろ……!!
だがそこで、ベルティアの足が止まる。
「どうしたんだ?」
ゲオンがベルティアの先を行き、扉へ入ろうとするのを、彼女が手で止める。
「入らないで!! ゲオン! この扉の先は、あなたは、入ると死んじゃうわ!」
「えっ!?」
ゲオンが、開いた扉の先の空間を見つめ、恐怖に、冷や汗をかく。
扉の中の真っ黒い空間には、多数の青白い雷が、延々と落ち続けていたのだ。
「この先は、普通の人間が入ると、死んでしまうわ。だから、この空間に人が入っていかないように、魔法使いが魔法をかけて、この空間を封じていたのね。」
そこで、ベルティアは、真剣な表情でゲオンを見つめる。
「ゲオン! ここから先は、普通の人は入れない! 入ったら本当に死んじゃうわよ。私が剣を持って戻ってくるのを待っているか、そのまま帰るか、どちらかにして!」
ベルティアは、厳しい表情でゲオンをみる。
すると、ゲオンはここで待っていると答えたため、ベルティアは、青白い雷が多数落ち続ける真っ暗闇の空間へと入っていったのだった。
「ベルティア! ベルティアっ!!」
悲痛な声でゲオンが叫んでいたが、ベルティアは、その先にある剣の気配に気を取られていた。
そして、これから起こる悲劇に、この時はまだ、気付いていないのだった。
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