11なる物語 萌えオヤジで勝利!
大ダコの腕に力が入り、ベルティアの体中の関節という関節、そして内臓を、締め上げてゆく。その鋭い痛みに、ベルティアの意識は朦朧としていった。
「うわぁーーーーーーーーーっ!!」
ゲオンの悲鳴が、ベルティアの耳を貫く。だが、今のベルティアには、その悲鳴も、どこか遠い世界から聞こえてくるかのように、感じられた。
大ダコは、ベルティアとゲオンを握りつぶして殺そうとしているようだった。
だが、大ダコに自分が囚われている感覚すら、どこか遠いできごとのような感じがする。
いつもは、スター・エンジェルに変身するベルティアだった。が、ネガティブで辛すぎる記憶が頭の中を取り巻き、その辛さでスター・エンジェルに変身することすらできない。
つらい、つらい、つらいつらい、つらい……!!
過去の記憶が、ベルティアの心を、押しつぶしてゆく。
辛い記憶が湧き出てくると同時に、体をしめつける大ダコの力も増してゆく。
どこか遠くで、ゲオンの悲鳴が聞こえている……。
過去、犯してしまった重い罪……。その罪と、犠牲になった者たちが、ベルティアの頭の中を占拠しつくしていた。彼らの自分を恨む恐ろしい瞳に、ベルティアの信念の炎が小さくなってゆく。
このまま、握りつぶされてしまおう……!! 自分は握りつぶされて、当然の存在だ。
ベルティアのマリンブルーの瞳から、涙が溢れ出る。
いつの間にか、ゲオンの声も聞こえなくなっていた。
……私も、もうすぐ握りつぶされる、か……。別に、それならそれでいいじゃあないの……。
心の底からそう思い、自虐的な笑みを浮かべたその瞬間、
「何やってるんだい! ゲオンを助けないといけないよっ!!」
ミリアの姿が、浮かんできたのだ。
その瞬間、懐かしい様な悲しい様な、愛おしい何とも言えぬ大きな感情が、ベルティアの心を支配する。
『でもね、ミリア……。私は本当にだめな存在なの。悪い事もやってきたし、それにもう生きているのも辛いのよ……! ……思えば、この世は辛いことばっかり……。だから、私が消えればいいのっ……!』
見えているミリアの姿に、ベルティアは、ネガティブで弱い念をぶつける。
「なにバカなこと、言ってるんだいっ! よ~く考えてみな! 本当に辛いことだけだったの!?」
えっ!? 本当に辛いことだけだったのか……? そこで彼女の意識に小さな灯が灯った。
ベルティアは、目を閉ざし、その小さな灯に意識をむけた。
昔の幸せだった感覚に包まれていた頃は、心の奥底から満たされて、そして完全な時の中を生きていた。
マドレーヌとは死に別れた。けれども、彼女の温かい笑顔、よく作ってくれるシーフード風味の手作りのドリアの温かさ、2人で笑い合って過ごしたやさしい日々の数々……。
そのマドレーヌという女性といた時の温かさを思い出した瞬間、ベルティアの眼から、暖かな涙が流れ落ちた。
「ベルティア? 楽しかったこともあるんだろ? よ~く、もっとよく、思い出してみな!」
ミリアの言葉がもう1度ベルティアの脳全体に響き渡ったその瞬間、ベルティアの心の中の思い出が、全てポジティブで、いきいきした鮮やかな感覚で満たされた。
そうね! 逃げちゃあだめよね! ポジティブな感覚に、ベルティアの体全体が包まれたその時、彼女の体が輝き出す。
ベルティアの体が、瞬時にしてピンク色の光に包まれ、スター・エンジェルと化す。
絶対に、ゲオンを死なせないっ!
ベルティアの心が、大きな爆発を起こす。
ベルティアは、強いしめつけを感じつつも、今回は杖ではなく、ブリーフ一丁姿のあの萌えオヤジを出現させた。
ピンク色のキモオヤジは、今回は顔だけではなく、きちんと体がついている。その裸体に一丁のブリーフをはいている。その体は、筋肉質で立派なものだった。
「えーーーーーーいっ!!」
キモオヤジを両手で抱えると、大ダコの口目がけて、思いっきり投げつけた。
当たれ! そして、壊れろ!!
強く念じつつ、大ダコの口へ、キモオヤジを投げつける。
「ビィビィビィッ!!」
「萌え~~~~!!!」
ブリーフ一丁姿の萌えオヤジが大ダコの口へ当たった瞬間、巨体がぐらりとゆらいだ。
大ダコは、バランスを崩し、その場へ倒れこむ。
その瞬間、ベルティアとゲオンを包み込む腕がゆるみ、2人は、振り落とされる。
ゲオンが落下し、たたきつけられる音が、ダンジョン中へと響きわたる。
ベルティアは、落下するその瞬間、受け身を取った。
「ビィビィビィビ!!」
大ダコは立ち上がると、その2つの紫色の瞳で、ベルティアを睨みつける。
「萌え!」
受け身を取って、立ち上がった彼女の傍に、ブリーフ一丁姿のオヤジが共に立つ。
今までずっと、脳みそ無さそうな、おバカにしか見えない大ダコにやられっぱなしだったことに、強い怒りが込み上げてきた。
「聖・エンジェル・シャワー!!」
呪文を詠唱した魔法少女姿のベルティアは、両掌を上へと向ける。
その両手から、ピンク色の光がそこら中へと飛び散り、やがて光は、大ダコと、その空間中を包み込んでいった。
光が消えてなくなると、大ダコの出していた紫色の霧がなくなり、そこには霧を吐かなくなった巨大ダコが存在していた。
「ビィビィ!!」
巨大ダコは、今度は口のような部分からゲロのようなものを噴出し、ベルティアへぶつけんとする。
「臭くなってたまるもんですかっ!」
ベルティアは、両手をかかげた。
その瞬間、金色の結界が出現し、大ダコのゲロのようなものをはじいた。
「……それにしても、ゲロ、くっさぁ~~~~~~……っ!!」
その強烈な醜悪臭に、ベルティアが、思わず鼻をつまむ。
「ビビビビビィビィビィ!!」
大ダコが悔しがって声を上げた。
大ダコも諦めなかった。
「ビィ!!」
大ダコは、腕をベルティアへと素早く伸ばす。その間に大ダコの手が、ドデカいハエ叩きと化し、ちょこまかと動きまくるベルティアに狙いを定めた。
大ダコの「大型ハエ叩き」がベルティアを打った!
「ビ?」
だが、ハエ叩きの下にベルティアの姿はない。
ベルティアは瞬時にしてハエ叩きを避けると、高速で大ダコの真上へと移動し、右足で大ダコの頭をキックする。
キックしたその瞬間、柔らかいボヨン! とした感触が、ベルティアの足の裏に感じられる。
大ダコは、ベルティアの激しいキックでその場に伸びてしまった。
「萌えオヤジ・強化モード!」
再びベルティアが呪文を唱えると、彼女の右隣に再びピンクオヤジがやってきて、丸まった。
まるでバレーボールのように、その筋肉質なピンクの体がまん丸く変化する。
萌えオヤジの真ん丸な体が、ピンク色の強烈な光を発した次の瞬間、
「よくも私とゲオンを苦しめてくれたわね! いくわよ! そぉ~~~~~~~~~れっ!!」
丸まった自分よりもデカいブリーフ一丁姿のオヤジを、大ダコ目掛けて、強烈な力を込め、投げつけたのだ。
「ビィビィビィビィーーーーーーーーーー!!!」
投げつけられたピンクに輝く「オヤジ球」を思いっきりぶつけられた大ダコは、全身ピンク色に輝き、それから塵となって消え去っていったのであった。
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