9なる物語 想いの兆し

 ゲオンは、確かに強かった。

 ヴォヴゥレの村で噂になるほどだ。強いに決まっている。


 古より神に創られしダンジョンには、様々な魔物が巣食っていた。

 

 神はダンジョンを作り、その後、祝福を、ダンジョン全体に与えた。それにより、倒した魔物たちから宝が出てくるようになったと、古より言い伝えが残されている。


 ゲオンは、ベルティアの前へ立ち、魔物を倒し続けた。

 男なら、女の子に強い所を見せたい! ゲオンの男心を理解したベルティアは、しばらく、少しさがって戦いの行方を見守っていた。


 ゲオンの戦闘術により、次々と魔物が倒され、塵となって消え去ってゆく。

 ゲオンは、そんな魔物たちが悲しく、儚く消え去っていったその場所に、花を置いていった。


 その行為は、ベルティアにとって、全く理解できないものだった。


「どうして、花を置いていくの?」

 ゲオンの意外な行動に、ベルティアが質問をする。


「だって、魔物だって、俺たち人間と同じ、生きて暮らしていたんだ。

 亡くなったら、弔ってやりたいだろ?」

「そういうものなの?」

 ベルティアが、花を置くゲオンを不思議そうに眺める。


「人間が亡くなると、弔いをするだろ? 俺は、どんな奴に対してでも、弔いの気持ちは、必要だと思うんだ。

 魔物は人間とは違うけれども、きっと情もあり、我が子を愛おしく想う、そんな美しい気持ちも存在するに違いないと、俺は思う。

 だから、それに対して、俺は想いを込めて、花を消えた場所に置いていくようにするんだ」

 ゲオンの表情が、優しさを帯びている。


 魔物にさえ慈悲をかける優しい心を持つ青年。

 やっぱりゲオンは、めちゃくちゃ優しい男だわ。

 ゲオンの話を聞いたベルティアの乾ききった心が潤い、温かくなる。


 いつの間にかベルティアは、ゲオンに対し、好意を持ち始めている自分に気付き、ハッ! とする。

 ……何やってるのよっ! 私には、心に決めたミリアっていう人がいるじゃあないっ!!


 ベルティアは、ミリアの顔を思い浮かべた。

 私はミリアが好き! ……でも、今になってもミリアは、私のことを忘れてしまっているっ!! そんなミリアのことを考えると、愛おしい中にも悲しい感覚が胸を満たす。


 そして、私は今、ゲオンをいい人だって心から思ってしまっている……!!

 でも、ただゲオンに対しては、「良い人」と思っているだけだよね。


 他は、何もない! 絶対に何もないんだからっ!! ベルティアは、半ば自分自身に言い聞かせるかのように考えるのだった。



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