8なる物語 無防備な夜
ダンジョンは、ずっと奥の方まで続いていた。
ベルティアは、キャラをくずさず、キュート♡な姿の魔法少女にこだわり、「スター・エンジェル」として戦った。
ピンク色のステッキの上にはオッサンのピンク色の顔が乗り、口から萌えビームを吐いたり、痰を吐きまくっている。実にグロイ姿だった。
だが、スター・エンジェルに変身したツインテールのベルティアが、あまりにも可愛いため、ゲオンも次第にベルティアのちょっと変てこな、「キモ可愛い♡」にも慣れていった。
ベルティアことスター・エンジェルは、ピンク色の短いフリフリのスカートを履いている。そのため、戦っている最中、時々スカートがチラリとめくれるのを、ゲオンは密かに覗き見ようとしていた。
敵の攻撃を交わしたベルティアが着地した瞬間、スカートが上へとめくれ上がる。
その瞬間を見落とさず、ゲオンは、目を見開いた。きっと、可愛いおパンティーをはいているに違いないっ! どんなおパンティーだろうか? ゲオンの男としての期待が高まる!
だが、ゲオンの期待は、みごと裏切られた。可愛らしいおパンティーの代わりに、ハーフパンツをはき、その上に頑強な貞操帯をつけている。
って、何でそもそも貞操帯っつーものまでつけてるんだっ!? ゲオンの膨らんだ男心が萎んでゆく。
「……ほええっ! 残念っ!!」
チラリ♡と見えた「それ」を目にした途端、ゲオンがまぬけな声を上げる。
「なに? いきなり、変な声出して、どうかした?」
ゲオンのエロい男心に気付かぬベルティアが、ゲオンに真面目な表情で尋ねると、ゲオンは赤面し、
「なんでもないっ!」
今のは見なかったことにして、戦いに集中しようっ! ゲオンは、残念さを打ち消すかのごとく、戦いに集中したのだった。
お金になる宝石や剣、宝を、魔物から沢山取り出せたけれども。
敵は2人で倒してきたけども、どれぐらいの時間が経ったのかなぁ~~~?
半日ぐらい絶ったかな?
とにかく、夜になるまでには出ていかなきゃな。
ベルティアは何としても、夜までにはダンジョンを出たかった。
ベルティアがゲオンを見ると、彼はけだるそうにあくびをした。
「眠いの?」
「ああ、眠い……。何せ、もう夜だからな……。」
「えっ!!?」
ゲオンがけだるそうにそう言うやいなや、ベルティアは驚きと恐怖で、心臓の鼓動が速くなってゆくのを感じていた。
「どこかで結界でも貼って、夜を過ごそう」
ゲオンが眠そうな顔で言葉を綴る。夜だって……!? マジ、夜になっちゃったのか!? 冗談じゃあないっ!!
「ゲオン? 結界なんて貼れないでしょ? あなたは、体で戦う専門だよね?」
ベルティアは、心に不安を覚えつつも、ゲオンに話しかけた。
「ああ、結界だけなら貼れるんだ。何せ、もぐって知らないうちに日が暮れちまうことがよくあるからな。今から寝床にするための結界を貼るよ」
ゲオンが何かを唱えようとした瞬間、
「待って。結界なら、私が貼るね」
自分の心の内のことは、一旦考えぬようにして、とにかく別のことに目を向けんとする。
ベルティアは、無詠唱で金色のドームのようなものを出現させ、中へ入っていくと、ゲオンを手招きした。
「金色か。何か、変わった結界だな。まるで浄化の光みたいな……。」
ゲオンが珍し気に金色の光を見ながら、結界をくぐる。
「珍しい結界だな。今日はとにかく、ここで一夜を過ごすんだな?」
「……ええ」
ゲオンの言葉に、ベルティアが、複雑な表情を浮かべる。ベルティアには怖いものが沢山ある。『無防備な夜』もその1つだ。
「何か、問題でもあるのか?」
「いえ、何も無いわ……。」
「そうか。それじゃあ、眠ろうな」
「ええ……」
ゲオンは横になり、ベルティアとは別の方向を向く。
ベルティアも、ゲオンとは別の方向を向いた。
少しして、静かになった。
ゲオンが眠りにおちたようだ。
ベルティアの心は、不安でいっぱいになる。
「……一晩眠らなかったら、明日、辛いんだよなぁ~~~……。ああ、でも、ぬいぐるみが無いとぜったいに眠れないなんて恥ずかしいこと、この男には、知られたくないしな~~~。……一睡もできなくって、魔物と戦うのって、しんどいわ……。
ダンジョンの中って、金色苔が生えてて、ずっと明るいから、私、夜になったの、ぜんっぜん分からなかった!
ああ、ぬいぐるみが恋しいっ!!」
ベルティアの心は眠れぬ不安でいっぱいだった。
少しだけ、時が過ぎていった。
ゲオンの大きな体が、むくりと起き上がったのだ。
「っ!!」
今まで眠っていると思っていたので、ベルティアは心の奥底から驚いた。
「ベルティア。ちょっと俺、トイレ行ってくるな」
ゲオンはクマのようにのそりとその場を立つと、ゆっくりと結界陣から外へ出ていった。
きっ……聞かれていないよね、私の弱点っ!!? 大丈夫、独り言をぼそりとしゃべっていた時、ゲオンは完全に眠っていたっ!!
そこでベルティアは、少しだけ不安になりつつも、その場にコロリと横になる。
「これ」
しばらくして戻ってきたゲオンは、ベルティアに何かを手渡した。
「あああああああ~~~~~~っ!!!」
「それ」を目にしたベルティアの顔が、みるみる真っ赤に染まってゆく。
ゲオンに手渡されたものは、金色苔でできた美しい輝きを放つクマのぬいぐるみなのだった。
「なっ……何を持ってきたの? 私、ぬいぐるみなんて、欲しくないわよ」
ベルティアが、赤面しながらそっぽを向く。……よりにもよって、この男に知られたなんて……! 前代未聞の大恥だっ!! ベルティアは、内心大いに焦っていた。
すると、ゲオンが口を開いた。
「ぬいぐるみが無いと眠れないってことを、なにも恥ずかしがることなんてないよ。
人は皆、完璧じゃあない。全ての人間は、それぞれ何らかの弱点を抱えながらこの世を生きているものなんだ。
俺だって、正直、君と戦ってきて、実は君の方が強いのが感覚で分かった。
……だから、男としてのプライドも折れてて、結構キツイんだぜ」
「へえ?」
ベルティアは、きょとんとした表情でゲオンを見つめた。
そりゃあま、私の方が強いのは確定だけれども、ちゃんとこの男、それに目を向けていたんだ。
そして、男なのに、こんなに素直にそれを認めるって、なんか、心、広いかも!
男であるかぎり、女の子がいれば、格好良く女の子を守りたいと思うものだろう。
けど、その守ろうとしている女の子が、自分よりも強いと知ると、プライドだって折れるかもしれない……。
なのに、ゲオンは、それをもう、受け入れている。
ゲオンもゲオンなりに悩んでいることが分かり、ベルティアは、素直になることにする。
ぬいぐるみを受け取ると、ゲオンの反対方向を向き、横になる。
「私ね。昔から、ぬいぐるみがないと、絶対に眠れないの。……なんか、笑っちゃうよね」
そこでベルティアは、苦笑いする。恥ずかしいことを知られたっ! とにかくこれは、笑うしかないわ。
真実を無理やり割り切ろうとするが、……でも、心がモヤモヤする。こんな恥ずかしいことを、他人に知られたのが、内心嫌でたまらなかった。
「おかしくなんて、ねぇぜ。むしろ、女の子らしくって、可愛いって、俺、思った」
えっ……!? 意外な言葉に、ベルティアの頬が紅色に染まる。
「私が、……可愛い?」
「そうさ。お前も俺と同じで、自分の事を『魔法少女姿になるのは、可愛いから』ってほめてただろ?
あれも、あながち嘘じゃあないんだ。
ベルティア。お前は姿かたちも、そしてぬいぐるみが無いと眠れないって所も、……つまり、性格も可愛い。
俺、もっとお前のこと、知りたいって思った!」
ゲオンは、はっきりとした口調で、そう言い切った。
「……!」
意外なゲオンの言葉に、ベルティアの顔が、トマトのように真っ赤に染まる。……よくもそんな恥ずかしい言葉を平気で口にできるものだわね!
……だけれども、ゲオンは逆を向いて横になっているから、もしかしたら、照れながら言っているのかもしれない。
真相は分からない。
ゲオンの言葉……。自分には無い魅力的な考えを持つゲオンに、彼女の心は驚きと、そして少しばかりの好奇心で満ちていた。
心の中の暖かな「何か」が揺り動かされるのを、彼女は感じた。
ゲオンがしゃべることで、ベルティアの心は揺り動かされ、段々ゲオンの方へと動いていく。
自分は、色んなことから、ネガティブになりすぎていたのかもしれない……。それに比べ、ポジティブな考えを持つゲオンを、ベルティアはこっそり尊敬した。
しばらくして、ゲオンのいびきが聞こえてくると、ベルティアは、
「……ゲオン。私も、あなたのこと、……知りたくなっちゃったかも……!」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、ベルティアは、赤面しながら呟いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます