4なる物語 ベルティアの意外な姿
ベルティアは、自分のピンク色の傘をさして歩き去ってゆく少女を、ぼんやりと見つめていた。
少女の悲しみは、まだ癒えないだろう。
けれども……。ベルティアは、彼女が笑顔で満たされた優しい時に再び包まれることを、心から祈っていた。
雨が、降り続いていた。
そこは、一面銀世界と化していた。
「……何もかも皆、幻……。生まれていずれ、滅びてゆく、幻の世界……。
ああっ……! この世が永遠だったらいいのに……!
いっそのこと、この雨で、何もかも、私自身さえも、とろけてなくなってしまえばいいのに……!!」
ベルティアは、体に打ちつける銀色の粒を見上げながら、呟いた。人の世を生きるということは、時に先ほどの少女のような悲しみに襲われる。
だが、それでも皆、前を向いていく。いや、向いていかねばならない! ベルティアにとっては、そのようなこの世の事象が、とてつもなく残酷に思えた。
「とろけてなくなってしまいたいなんて、寂しいこと言うんじゃあないよ!」
「……っ!!」
いきなり聞こえてきたミリアの声と気配に、ベルティアは飛び上がらんばかりの勢いで驚いた。
「みっ……ミリア、居たんだ!?」
いきなり差し出された傘に、ベルティアは、目を丸くした。
正直、今の言葉は、いとしのミリアには絶対に聞かれたくない言葉だった。
……いつもポジティブな自分でいようとした。特にミリアの前では……。でも、一番聞かれたくない言葉を、聞かれてしまった……!!
……いつものように、明るい表情をしようとするけれども、少女の深い悲しみに触れたベルティアは、どうしたって、明るい表情ができなかった。
胸の奥が苦しく重く……この世の「現実」が、彼女の体を貫き、心を重くしていた。
いつものベルティアからは想像がつかぬほどに、彼女の顔には、影がさしていた。
ベルティアは、ミリアから差し出された傘を、黙って彼女へ戻す。
「……私は大丈夫。雨に濡れても、私の体って、岩のように丈夫だから、風邪とかは引かないの。それに、ミリアの傘を私に差し出したら、ミリアが濡れて風邪引いちゃうよ」
影を落とした顔をするベルティアを目にし、ミリアはハッ! とした。
「ベルティア……。雨に濡れて、泣いているのかい?」
ミリアが静かに言葉を綴る。
「なにおかしな事を言っているの? 私、泣いてなんかいないわ。ただただ、雨が私の体を打ち付けて、それが面白いから笑っているのよ」
ベルティアは、にっこりと笑みを作る。
すると、彼女が泣いているのか否かは、全く分からなくなる。事は、闇の中の真相となった。
銀色のしぶきが、次々と彼女に当たる。銀の世界は、泣いているかどうかなんて分からぬほどに、ベルティアの本質を覆い隠していた。
ミリアも占いの仕事の出張のため、キョロギルの街へ行くところだそうだ。この場を通りかかり、ベルティアが女の子に声をかけている所を目にしたのだという。
少女があまりに悲しそうだったため、ミリアは、出てゆく隙が掴めなかったと、そう説明した。
……それにしても、ミリアに格好悪い所、見られちゃったなぁ~……。
ベルティアの心は、いつの間にか折れていた。……気まずくて、心が苦しい……。今回は、メイド服やスケスケ下着を買うことをやめ、帰路へつくことにしよう。
ベルティアは、何だかんだ言うミリアを1人、無理やりキョロギルの街へと送り出した。
ベルティアは、いつも、どこか寂しそうだ。
ミリアは常に、そんなことを感じていた。
「雨にとけて消えてしまいたい!」彼女のその言葉に、ミリアの胸がひどく痛む。
ベルティアが、ものすごく心配になった世話好きのミリアは、あることを計画したのだった。
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