第1章 不思議な少女
1なる物語 少女とオバサンと、……時々オジサン?
「ねえ、ミリア♡! ビキニの水着姿の写真を1枚とらせて♡」
47歳の中年女性の元へカメラ片手に寄ってきたのは、目を♡マークにした少女だった。彼女はどう見ても12歳ほどにしか見えない。
少女は、長い白金色の髪と、マリンブルーの瞳と整った顔立ちで、とてつもなく美しい美少女だ。
そんな美少女が、とてつもなくセクシーで情熱的な真っ赤なビキニの水着を中年女性ミリアへ渡そうとしている。
12歳ほどの美少女が、47歳の中年オバハンにそんなセクシーな水着を差し出すシーンは、どう見ても滑稽でしかなかった。
「……あんた、ねぇ……。こんな中年ババァのあたしの笑える写真なんて撮って、どうするんだい? お笑いのオーディションにでも出て、笑えるネタにでもするのかい?」
中年女性のあたしにとって、そんな写真を撮られてしまうなんて、拷問そのものでしかないじゃあないかっ! ミリアは、もちろんドン引きだ。
すると、
「いやぁねぇ~~~♡
もちろん眠る前に、ビキニ姿のミリアのお写真を眺めるのよん♡写真の中のミリアの唇にキス♡してから眠りにつくのよん♡そうしないと眠れないっ!! 最近、ガチで不眠症なんで、どうか、お願いっ!!」
カメラと真っ赤なビキニを両手に持った少女は、頬を紅潮させつつミリアへと迫る。
この少女、鼻血を出しそうな勢いである。この子は一体、なに考えてんだか、さっぱり分からないねぇ~……。ミリアは思う。
「嫌だね! あんたのような変態少女に、笑えるあたしの写真なんてくれてやるわけにゃあ、いかないね!」
ミリアは、気味悪く思いながら、少女の申し出を断った。
だが、少女のデレデレ♡とした表情は変わらない。
「あっ! それじゃあ、ハダカエプロン姿で、私の家で手料理を作ってくれるってことでもいいわよん♡!」
今度は、何とハダカエプロン発言っ!!
「一生に一度のお願いっ!!」
しかもこの美少女、何と今度は床に頭をこすりつけ、土下座までしたのだ。
土下座した顔がデレデレ♡しているであろうことは、想像に難くない。
ほんと、何て変な子なんだか……! ミリアにとって、この少女は、幽霊よりも不気味に思えた。この少女には、すぐさま、いなくなってほしかった。
「この変態っ!! 今すぐあたしの家から出ておゆき!!」
ミリアの感情が、爆発する。
「いやだっ! ミリアがハダカエプロン姿かビキニ姿になるまで、帰らな~~~い!!」
駄々をこねだした少女を、ミリアが扉の場所へ引っ張ってゆき、彼女を外へつまみ出した。
それから鍵を2重にかけ、その日は『難』を逃れたのであった。
「いやだ、絶対に帰らないもんっ!! ミリアのハダカエプロン姿か、ビキニ姿を、絶対に見せてもらうんだからっ!! だから、あーーーーけーーーーーてーーーーーーっ!!」
少女は、扉の外で、しばしの間、ギャーギャー! と騒いでいた。かれこれ4時間ほど粘り、そして諦め、帰っていったようだった。
少女が帰ると、ミリアは、安堵のため息をついた。
しかし、4時間は長かった……。ミリアは疲れ果て、数年分歳を取ったかのように感じたのだった。
この少女は、ごく最近……。本当に、ごく最近、数日前にこのヴォヴゥレの村へ越してきたばかりだ。
少女は、ミリアを溺愛し、ミリアに変態的側面を見せるだけでなく、曲者だった。
11年かそこらしか生きていないはずなのに、ものすんごい熟達した魔術で、一瞬にして自分の住む家を建ててしまったのだ。
美しい建築様式の大きめの家で、長年魔術を極めた者にしかできない感じの家だった。
「こっ……この魔術……! 魔術を一生極めた年齢を重ねた魔術師でもできかねるっ! こんな緻密な家を作るなんていう魔術は、修行を積み続けても、一生かかっても、できそうにないっ!!」
彼女の術を目にした魔術師は、驚きに、目を見開いた。長年生きてきた年齢を重ねた魔術師は、青い顔をしながら、彼女が建てた家を、目が飛びださん限りの勢いで見つめていた。
「魔術師のおっさん! なに、人の家、ガン見してんの? あんま見てっと、おっさんの顔にゲロ吐きかけっけど、いい?」
魔術で家を作り上げたら、魔術師のおっさんがガン見していたので、少女はおっさんを睨みつけた。
「いやいや……。お嬢ちゃんにしては、見事だなぁって思っての……」
彼女の家を真っ青になりながらガン見していた魔術師のおっさんは、ゲロ発言を聞くやいなや、そそくさと、その場を去っていった。
しかも迷惑なことに、彼女は、この家を、中年女性ミリアの家の近くに建てたのだ。
「……よりにもよって、何であたしの家のすぐ近くに建てたんだいっ!?」
ミリアは、真っ青な顔をしながら少女を見た。家が近いと、何度も家に来られて迷惑するんだよ! そう思ったが、言葉を飲みこむ。
「いやねぇ~~~♡ 毎日ミリアに会いに行きたいからに決まってるじゃあないのっ♡」
少女の発言は、末恐ろしいものだった。って、こっちは毎日来られて、本当に迷惑してるのにな……!
立派な家をものすんごい熟達した魔術で建てた後、少女は毎日毎日、お菓子に群がる蟻のようにしつっこく、中年女性ミリアの家へ行き続けた。
ミリアは、この少女を知らなかった。が、少女はまるで、最初からミリアを知っているかのように振る舞っていた。
ミリアは、そんな少女を疎ましく思うとともに、恐怖すら感じていたのだった。
それは、とある冷える晩のできごとだった。
その時、またしても少女が訪ねてきたのだ。
「ミリア、だぁ~~~~い好き♡」
来るなり、少女はミリアにべったりと、岩に張りつく1枚貝のように張りついた。
「そっ……そういえば……。」
ミリアは、居心地悪そうに、そう切り出した。まだ、聞いていないことがあったのだ。
「なぁに?」
少女の雀のような弾んだ声に、ミリアは、口を動かす。
「あんたの名前、まだ聞いていなかったね。数日前に、本当にいきなり越してきたってだけで、あたしはあんたのことは、何も知らない。あんたの名前、教えてくれないかい?」
少女にべったりとくっつかれ、ミリアは、口をもごもごとさせながら、言いにくそうに言葉を綴る。とにかく、かなりべったりとされ、暑苦しいことこの上ない!
それに、あたしはこの少女のことは何も知らないのに、彼女は、あたしのことを、ものすごくよく知っているようだ。
……本当に、気味悪いねぇ~……!!
「そんな素性も分からねぇ奴の名前なんて、聞かなくていいじゃねぇかっ!!」
突如、ミリアとは別の低い男性の声が響いた瞬間、暖炉の火がパチッ! と、何かを察したかのような不可思議な音を立てる。
中年女性ミリアの夫トーマスが、苛立った目で、ミリアの体にべったり♡くっつく少女を睨みながら怒鳴る。
ミリアの夫のトーマスは、面白くないだろう。何せ、自分の妻に、大事な愛する女房に、変な「虫」がついたのだ。
「べぇぇーーーーーーっ!!」
トーマスが声を荒げた瞬間、少女は、アカンベェして舌を出し、トーマスを睨みつける。
「女同士の友情に、なに嫉妬してんのよ、この変態オヤジっ!! 女同士だものっ! キスしたり抱き着いたり、一緒に眠ったり、一緒にお風呂入ったり、おそろのおパンティーをはいたりしたって、いいじゃあないっ! 特に一緒にお風呂に入るのは、女同士のお友達の特権だものっ! 悪いわけないじゃないのっ!!」
少女は、火山が噴火しそうな勢いの50歳ほどのトーマスを、睨みつける。
トーマスも負けじと、彼女を睨みつける。彼は、苦虫を噛み潰したような表情をしている。よほど面白くないようだ。
「なっ……なに言ってやがるんだっ! キスしたり、抱きついたりって、女のくせに、恋人同士気どりかよ! ほんと、お前は変態娘だ!! お前のことなんて、畑にいる青虫みてぇに、一気に潰しちまいたい気分だ! ミリアは俺のものだ!! お前はさっさと、ヴォヴゥレの村から出てけっ!!」
トーマスの青い瞳が、少女を睨みつける。
「嫌よっ! 私はミリアの友達として、この村に住むんだからっ! ミリアが死ぬまでずっと、友達でいるのっ!!」
少女は、何かを言おうとするミリアにますますしがみつき、トーマスを睨みつける。
しばらくの間、少女はトーマスを睨みつけていたのだった。
「ちょっと、あんたも大人なんだから、子供っぽいことは、やめとくれよっ!」
ミリアがトーマスにそう言った瞬間、少女はトーマスから目を外す。
それから、ミリアに美しい百合のような笑顔を向ける。
「教えてあげる! 私の名前は、ベルティアっていうの。それから……」
ベルティアと名乗った少女の美しいマリンブルーの瞳が、ミリアへ向けられる。
「ミリアはずっと、私を子供だと思っているようだけれども、こう見えても、私は大人だから」
ベルティアは、太陽のように明るい笑みを浮かべている。
正直、驚きでしかなかった。見た目は11歳か12歳ぐらいの小さな子供でしかないのに、これで大人とは……。ミリアは、まじまじとベルティアを見つめる。
「ガキがっ! ふざけるなっ!!」
今にも飛びかからんばかりのトーマスを、妻のミリアが困ったように制した。
「ミリア。私、子供じゃあないのは、本当よ。お酒だって飲める大人なの。それからね」
そう言ったベルティアの表情がとても優しい表情となる。
「ミリア……。やっとあなたを見つけたの。だから、……」
ベルティアが、今度はギラ目でミリアを見つめる。
「水着もハダカエプロンも嫌だったら、せめて、友情の証として、夜、一緒に眠りましょうっ!!」
ベルティアは、ギラ目のままミリアの両手をとった。ミリアは、手をとられたことを気にするよりも、この外見で、ベルティアが大人である、との言葉に驚いていた。
「ふざけんじゃねぇっ! ミリアの隣で眠るのは、この俺だっ!!」
トーマスの怒りが頂点に達したようだ。
トーマスは、怒りに湯気が湧きたつかの勢いの真っ赤な顔で、ベルティアをつまみ上げた。それから、窓を開け、その筋肉質な腕で、ベルティアを、窓の外へ思いっきりぶっ飛ばすと、急いで窓を閉め、鍵をかけたのであった。
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