七福涼香の恋路④
やばい。やばい。やばいやばいやばい。
電話が止まらない。無視しても、頭の中で着信音が鳴り響いて声が聞こえてくる。
「私、メリーさん。今、駅前にいるの」
とにかく人混みの中に行こうとした。
大通りに行けば、沢山の歩行者と車で賑わっている。
小道を走り抜けると、よく見る景色が広がった。いつもの、木々。遊歩道。せわしく並ぶ店の数々。
なのに、歩行者も、店員も、少し渋滞ぎみに連なる車達もいやしない。人の気配を感じない。
ついさっきまで、賑わう人声とエンジンの音で溢れていたはずなのに。
まるで、この世界に存在しているのが私だけのように思えた。
「何これ……何が起きてるの」
怖い。全く現状がわからないまま、大学に戻ろうと走り続けた。大学は生徒で溢れかえっている。翔也くんも、しーちゃんもいる。
そんな希望を胸に大学までの道のりを確実に進んでいく……はずが、その途中で景色が歪んだ。
「私、メリーさん。今、あなたの家の近くの公園にいるの」
また、頭の中で声が響いた。
それと同時に、今走っていた道とは違う道を強制的に進まされている自分に気づいた。
「あれ……なんで? ここ、私の家の近く……」
自分自身が瞬間移動したのか。
いや、違う。世界が変わったんだ。
自分がその場から動かずとも、どんどんと世界がシャッターを切るかのように更新されていく。
切り替わるように進んでいく景色。恐怖に包まれながらも、その景色達が自分がいつも通る帰り道であることに気づいた。
そして、その最終地点は勿論……
「私の家……」
気づくと、自分が住んでいるアパートの玄関の前に立っていた。
「私メリーさん。今あなたの家の近くにいるの」
「ひっ!?」
その声が、自分のすぐ近くから聞こえた気がして衝動的に玄関を開け、足をもたつかせながらも家の中に入る。
いつもの自分の部屋。でも、何かが違う。
空気が冷たい。背筋が凍る。そして、自分以外のとんでもない異物の気配がする。
「なにこれ……なにこれ……やだ。やだやだやだ」
「わ、わ"た、わたた' わたし、め'めりー、さざわだーー」
頭の中に、ノイズがかかった状態でさっきまで聞こえていた声が響き渡る。
怖くて、怖くて、その場でうずくまり耳を塞いだ。すると、急に波のように襲いかかってきたノイズがピタリと止まった。
「……なに? 止まったーー」
「今、あなたの後ろにいるの」
背後から声がして、反射的に振り向いた。
振り向いてしまった。
「い、いやあああああああ!!!!!!」
そこにいたのは、金髪の洋人形かのような見た目の"物体"。確実に人間ではないことはすぐにわかった。
そして、その物体は包丁を握りしめ、私を恐ろしい顔で見下ろしていた。
怖くて、怖くて、助けてほしくて、私は狂ったようにずっと同じ名前を叫び続けた。
「翔也くん……翔也くん! 翔也くんっ! 翔也くんっ!!!! 翔也ーー」
"プツン"
急に視界がブラックアウトした。
そして、その瞬間私の中の何かが目を覚ました。
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