座敷童子、知りたくなる
座敷童子の問いかけに返答できず、少し時間が空いた。それは、自分の過去を話すということに気が引けたからだ。
そんな沈黙の時間に、マズイことを聞いてしまったのだと座敷童子は慌て出す。手をバタつかせながら、必死にフォローに入ってきた。
「あ、いや。話したくなかったら全然いいんですよ!」
「いや……」
「人に知られたくなかったり、秘密にしてることってありますよね! 私も、裏アカとか作ってひっそりとネットアイドルやってたりしますし!」
さらっとあんまり知りたくなかった事実を晒されたな。最近の妖怪事情どうなってんだ。
「……あっ!! ……今の冗談です。その、決してネットアイドルなんてやってませんし。みんなチヤホヤしてくれるのが癖になって、どんどん泥沼化し中々抜け出せなくなったとかではなくーー」
「単純に、土御門のやり方が正しいとは思えなくなったんだよ」
俺が何を見てきたか。何を考え、何に傷ついてきたのか。誰かに話したことなんて、勿論ない。
自分の過去を愚痴のようにこぼすことは、してはいけないことだと教育された。自分のすべきことだけを忠実に守れ。振り返るな。疑問を持つな。土御門の呪いは、今だに俺に根付いている。
ただ、慌てて弁解している座敷童子が滑稽になり、つい口を開いてしまった。
俺の言葉に、座敷童子はポカンとしていた。少し間があった後、自分の問いかけへの返答だと気づいたようだ。急に神妙な面持ちになる。
このバカさ加減に、俺は緩んでしまうのだろう。
「えっと……何か、あったんですか?」
「俺は妖怪に命を助けられた。その妖怪を、うちの一族が惨殺した。それだけだよ」
「あっと……そうでしたか」
どう反応したら良いのかわからないのだろう。明らかにキョドッている。
ただ、そんな中でも俺の様子は伺っている。
座敷童子は俺の顔をチラチラ見ながら、申し訳なさそうに口を開いた。
「あの。もっと、好きに話しても大丈夫ですよ」
「……別に話したいなんて言ってないが」
「いや、たまには色々と吐き出してみるのもいいかもというか。なんというか」
だいぶ濁しているが、言わんとしていることはなんとなく伝わった。
俺の吐露は俺のためになる。だから、好きに語れということだろう。
「あんまり、ためこむなってことか? おまえも、言うようになったな」
「いや、その。……ごめんなさい。それは建前で。ちょっと、知りたくて」
「興味本位か?」
「ち、違いますっ!」
前のめりになりながら、必死に否定する。
色々と考えているのだろう。頭を整理し、次の言葉を選ぶまでに少し時間がかかっていた。
そして、座敷童子は頬を赤く染めて恥ずかしそうに呟く。
「単純に、翔也さんのことをもっと知りたいと思ったんです。……好意から生まれた感情です」
……卑怯だ。こんなことを言われたら、話さない訳にはいかない。バカのくせに、逃げ道を作らせない追い詰め方をしやがって。
純粋に勝てるものは、絶対的な悪だ。ただ、俺にはとてもそんな悪を演じることは出来やしない。
ーー今回は、俺の負けだ。
「……土御門家の人間は、未成年だろうが当然にお役目が与えられる。俺の初めての任務は中一の時だった。その頃から、容赦なくこの世の異物と言われるモノ達を排除してきたよ」
俺が語り出した事にやや驚いた表情を浮かべ、座敷童子はボート上で正座をし出した。
器用なもんだ。コイツなりの聞く姿勢なのだろう。
「高校三年の時、ある任務で瀕死の重傷を負った。俺は渚みたいに特別じゃない。いつ死んだっておかしくはないと、覚悟はしていたつもりだった。……だが、身体が冷たくなっていくに連れて怖くて怖くて仕方なかったよ。俺は何度も何度も心の中で願った。誰か助けてくれ。まだ生きたいと。そんな時、倒れる俺が見上げた先に人型の妖怪が立っていた」
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