座敷童子、服を買う

「わー、お洋服がいっぱいですねー!」


 来たのは安さが売りの、ファミリー御用達大衆的な洋服屋だ。

 俺も金がある訳ではない。とても駅前ビルに入っているオシャレな服屋などには連れてはいけない。


 それでも、座敷童子は目の前に広がる様々な洋服達に目を輝かせていた。


「服屋来るの、初めてか?」


「人間のお洋服屋さんは初めてです。そもそも、私お金持ってませんし」


「……その携帯は、どうやって手に入れたんだよ」


「妖怪の中に、何でも屋さんがいるんですよ。その方から、村長が一族分まとめて調達してきたのです」


 妖怪の世界も謎が深いな。

 一体どういうコミュニティが形成されているのか。妖怪の中にも通貨があるのか。物々交換で成り立っているのか。非常に興味深い。


 今まで、「問答無用」の世界で生きてきたのだ。悪・即・斬と言わんばかりに、遭遇した怪異はそのまま全て祓ってきた。妖怪に興味を沸くことも、話を聞くこともなかった。

 土御門家を出てからは自分なりに怪異に対して寄り添ってきたつもりだが、自分の思っている以上にまだ溝はあるのだと再認識する。



「それより、どれ買っていいですか!」


「あー、五千円以内におさめてくれれば、何でも」


「ご、五千円!? まさか、翔也さんってお金持ちですかっ!?」


 見栄張って、一万円とか言わなくて良かった。五千円で充分そうだ。

 熊がたまに人里に降りてくるように、中途半端に人間社会に紛れていたのだろう。一般的な感覚とはだいぶズレているようだ。


「とりあえず着たいの選べ」


「じゃあ……えっと、この黒いフワフワしてるやつ!」


「ゴスロリじゃねえか。やめろ」


「えー。じゃあ、この可愛い絵が描いてあるやつ!」


「全く知らないアニメ絵のTシャツを着るな」


 ダメだ、コイツ。絶望的にセンスがない。

 そもそも、なんでこんなおかしな服置いてあるんだよ。こういう服って、それなりの専門店に置いてあるもんだろ。


「私、和服しか着たことないから流行りとかわからないんですよ。翔也さんが、好きな服装はどんなのですか?」


「俺が好きな服装……?」


「私、翔也さんが選んだ服着ます」


 なんだ、この彼氏彼女みたいな会話。

 妖怪といえど、女の子に自分の好みの服装を着せるとか、性癖バレバレで普通に嫌だ。


 ……だが、さっきから着物の座敷童子を他の客やスタッフがチラチラ見ている。買い物は早めに済ますべきかもしれない。


「……わかった、俺が選ぶ」




◇◇◇


「これそのまま着て行くんで、タグ外してもらってもいいですか? あと、試着室借ります」


 会計を終え、買った服を座敷童子に渡す。


「あそこで着替えてくれば良いですか?」


「ああ、ちゃんと鍵かけろよ」


 ウキウキしながら、洋服を持って試着室へ入って行く。


 丈の短めのパーカーに、白のロングスカート。めちゃくちゃシンプルだ。

 別にキリッとした服装より、ラフな感じの服の女の子が好きなわけではない。俺の好みではない。性癖な訳ではない……ないがーー


「翔也さん、着ましたよ! おかしくないですか?」


 ーーそこにいたのは、ただの美少女だった。

 

 そもそも、人型の妖怪というのはやけにルックスだけは良い。人を魅了させるために整った顔立ちで形成されることが多いのだ。

 それは座敷童子も同様であり、その上今は全く妖気を感じない。

 

 つまり、普通に可愛い女の子が俺の選んだ服を着て、恥じらいながら笑っている。

 これは、完璧なる反則だ。


「……おかしくは、ないな」


「良かった! これで、気兼ねなくお外歩けますね!」


 座敷童子を横に連れ、そのまま服屋を出て行く。側から見たら、ただのカップルにしか見えないのだろう。


 かぐやがこの場にいなかったことに、安堵する。俺の少し赤く染まった頬に気づかれたら、何を言われるかわかったもんじゃない。


 ……いや、そもそも変に意識をする方がおかしい。俺達はどこまで行っても、人間と妖怪なのだから。

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