第166話 黒いファイヤーブレス

「うぉぉぉぉぉぉ! まずは一太刀ッ!!」

「ヴゥォォォォォッ!?」


 腐敗したドラゴンに突撃を敢行し、まずは一太刀浴びせてやった!!


「おぉっ! 見事な一太刀である!!」

「やるじゃん! ノクトさん!!」

「さすがはファーレン様が見初めたお方だ!!」

「こいつは……幸先がいいぞ!」

「ハン! ドラゴンがなんだってんだ!!」

「そうとも! 勝てる! ドラゴンに勝てるぞッ!!」


 腐敗したドラゴンが負ったダメージそのものは大きくないだろう……

 というか、見た感じあちこちボロボロなので、今の一太刀によって負ったダメージなのか分かりづらい部分もある。

 それでも! 一太刀浴びせたという事実こそが、全体の士気を上げるのに役立ったといえるはずだ!!


「よっしゃ! 俺らも続くぞ!!」

「うぉらぁッ!!」

「……つぅッ! 硬ってぇなぁッ!!」

「見た目グズグズの体のクセに……なんて頑丈なんだ……」

「この頑丈なボディに刃をとおすとは……やっぱノクトさんは普通じゃないな……」

「ヴゥォォォォォォォォォォォォォォ!!」


 そのとき、腐敗したドラゴンの尻尾による反撃が襲ってきた。


「ヤバッ!」

「みんな、躱すんだッ!!」

「クッ……!!」

「あぶ……ッ……!?」

「ぐわあぁぁぁぁぁぁ……」

「チッ……グショォ……」


 何人か避け切れず、腐敗したドラゴンの尻尾の直撃を喰らって吹っ飛ばされていった……


「大丈夫か……!?」

「いでぇ! いでぇよぉ……っ!!」

「……ガハッ!! ハァ……ハァ……」

「う……あ……ぁ……っ…………」

「安心しろ! 今、回復させてやるぞ!!」

「傷は浅い! なんてことないぞッ!!」


 負傷者とその回復のため、数名が戦線を離れる。

 だが、そんな心配をしている余裕もなく……戦闘はなおも続いていく……


「これでも喰らえ! ファイヤーボール!!」

「「「ファイヤーボール!!」」」


 尻尾による薙ぎ払いを回避するためいったん全員が離れたところで、魔法の準備をしていた騎士たちが一斉にファイヤーボールを放った。


「……ヴゥォォォォォォォォォォォォォッ!!」


 ファイヤーボールが次々と着弾し、さすがの腐敗したドラゴンも思わず声を上げてしまったといったところか……


「うっし! 効いてるぞ!!」

「いいぞ、いいぞ! ガンガン撃て!!」

「俺の魔力! 全部使い切ったらァッ!!」

「そうだ! 出し惜しみはナシだ!!」

「火葬場はここですか!? なんてなッ!!」

「アンデッド野郎! さっさと土に還りやがれ!!」

「火力マシマシだぁ~ッ!!」


 このファイヤーボールの一斉掃射で倒し切れれば、それに越したことはないが……


「ヴゥオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


 あの挙動は確か、ファイヤーブレス……


「皆さん! ファイヤーブレスが来ます!!」

「「「了解したッ!!」」」


 ファイヤーブレスの射線と思われるラインから身を回避させつつ、周囲へ注意喚起をした。

 そして各自、ファイヤーブレスに備えた。


『……ノクト殿! あれは、前回と同じファイヤーブレスではなさそうですぞ!!』


 久しぶりに、ルクルゴさんの声が脳内に響いた。

 それにしても、前回と同じファイヤーブレスではない……だって?

 そう思った瞬間……


「……ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「熱い! 熱いぃぃぃぃぃぃッ!!」

「な、なんなんだ!! この黒い炎はァッ!?」

「……クッ! 消えないッ!!」

「なぜ……なぜなんだぁッ!?」


 腐敗したドラゴンが放った黒いファイヤーブレス……回避が間に合わないと判断した人は、障壁魔法を展開して対処しようとした。

 だが、黒いファイヤーブレスのほうが強かったのか、障壁魔法を破られてしまった人が多数。

 そうして、なぜか消せない黒い炎に混乱が広がっている……


「ハハッ! ハハハハハ!! ファーガレモスに毒されしカス諸君! 呪いの黒炎はいかがかな!? な~んつってな? ハハハハハ!!」

「呪いの……黒炎?」

「そうだぜぇ? あの黒い炎は特別でな! ちょっとやそっとじゃ消せやしねぇんだ!! ハハッ、この杖の能力を使えば、こ~んなこともドラゴンにさせられるのさ! ま、真の使い手ではないあのカス女じゃ無理な芸当だっただろうけどなァ!? ハァ―ッ、ハハハハハ!!」


 ジギムが得意そうに大笑いしている……

 人が苦しむ姿は……そんなに面白いのか?

 あの頃の……ホツエン村にいた頃のジギムは、そんな奴じゃなかった……

 なんていうことだ、ジギム……本当に君は変わってしまったんだね……


「……それなら……これでどうかな!?」


 僕がジギムに対し、嘆きの感情を募らせていたときだった……

 王弟様の手から優しく穏やかな光が発せされた。


「……く、黒い炎が……消えた?」

「ど……どうやっても消せなかったのに……?」

「それに、この光を浴びていると……痛みが引いていくようだ……」

「嗚呼……なんて慈愛に満ちた光なんだ……」

「さすが……ディムナン様……」

「ありがたや……」


 王弟様の手から発せられた光は、みんなを癒した。


「……フゥ……なんとかなって……よかったよ……」

「……なッ!? そんなバカな!! 呪いの黒炎が……ファーガレモスのしょぼくれなんかに消されるなんて!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る