夜明けの王国、あるいは少年の日の終わり

第167話 最強生物のつもりなら

　よし、ここだ！

　腐敗したドラゴンが黒いファイヤーブレスを吐き終えた隙を見計らって、再度アタックをかけることにした。

「……ノクト君、ブーストをかけるぞ！　受け取ってくれ!!」

「はい！　レンカさん!!」

　僕の動きに呼応して、レンカさんが光属性の魔力を送ってくれた。

　そうして、僕の体は光に包まれた。

　この光に包まれていると、無限に力が湧いてくるように感じる。

　それに、聖剣リーンウォルツもレンカさんの光属性の魔力が心地よいのか、さらに力が増幅しているように感じる。

　いいぞ！　これなら、腐敗したドラゴンにもかなりのダメージを負わせることができそうだ!!

　そう思いつつ駆け込み、跳躍！

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ！　喰らえッ!!」

　そして向かって左側から、すれ違いざまに思いっきり剣で一閃!!

「ヴゥォォォォォ……ッ!!」

　着地とともに勢いを逃がしつつ、態勢を整える。

　そして腐敗したドラゴンの様子を確認してみたところ……

　右脇の辺りに大きく切れ込みが入っていた。

「おぉっ！　ノクト少年がやったぞ!!」

「ドラゴンの体をあんなにザックリ行っちまうなんて……やるじゃねぇか!!」

「凄い！　凄いぞ!!」

「そしてこの結果！　ファーレン様の後押しによる部分も大きかっただろうな!!」

「確かに！　ノクトさんの体がスッゲェ輝いてたもんな!!」

「あれは、とても神々しい光だった……まさに、勇者を目にしたようだった……」

「勇者か！　そいつはいいな!!」

「勇者ノクト!!」

「「「勇者ノクト!!」」」

「……いや、勇者とか……恥ずかしいです……」

「「「ハハハハハ!!」」」

　先ほどの黒いファイヤーブレスによる心理的ダメージを払拭するかのごとく、みんなが湧いた。

「ヴゥォォッ！　……ウゥォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

　そして、腐敗したドラゴンにもそれなりに大きなダメージとなったようで、上げる咆哮が少々弱まったように感じる。

　ただし、その傷口から瘴気が噴出してもいる……

「これはいけない……！」

　そう呟くとともに、噴き出す瘴気に浄化の光で対処する王弟様。

　それによって、周囲への被害は防がれている。

「ハァ……ッ？　ふざけんな……ドラゴンだぞ!?　……なんで！　なんでこうもアッサリダメージをもらってんだよ!!」

「ヴゥォッ！　ヴゥォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

　ジギムの怒鳴り声。

　それに応じるかのように、腐敗したドラゴンも怒りの咆哮を上げている。

「フン！　いくら吠えたって、怖くないぞ!!」

「そうだとも！　この戦い、俺たちの勝利は揺るがないんだッ!!」

「行ける！　この調子で行けば、ドラゴンを倒せる!!」

「そもそも一度ファーレン様とノクト君に倒された身なのだから！　そのままおとなしく眠っていればよかったんだ!!」

「そうだ！　そうだ!!」

「よし、お前たち！　再度魔法を放つ準備は整ったな？」

「「「はい！」」」

「ならば！　次はライトアローで行くぞ!!」

「「「了解!!」」」

　そして、今度は！　騎士たちによるライトアローの一斉掃射が腐敗したドラゴンを襲う!!

「ヴゥゥッ！　ヴゥォォォォォォォォォォォォ……ッ!!」

「よし、しっかり効いているぞ！　そのまま撃ち続けるんだ!!」

「「「了解ッ!!」」」

　こうして騎士たちは、ひたすらライトアローを撃ち続ける!!

「ハァ……ハァ……まだ、まだぁッ！」

「俺だって……フゥッ！　……まだ行ける!!」

「……クッ……すまんみんな！　俺は魔力切れだ……」

「私は、あと2射といったところかしら……」

「もう……これ以上は無理だぁ……！」

「諦めんな！　無理だと思ったところから、もう一発決めるんだッ!!」

　1人、また1人と魔力が尽きて脱落していくが……それでもみんな、最後まで手を抜くことなくライトアローを撃ち続けるのだった。

「おい、このポンコツ！　お前も最強生物のつもりなら、チンケな野郎共のザコ魔法に負けてんじゃねぇよ!!」

「ヴゥッ！　ヴゥォォッ！　ヴゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

　騎士たちのライトアロー、はたまたジギムの言葉によってか……腐敗したドラゴンは怒り狂って暴れ出した。

「いかん！　いったん魔法を止めて、回避だ!!」

「うぅ……魔力を使い過ぎて……体がだるい……」

「俺も……」

「駄目だ、動けない……」

「コイツは……ちっとヤベェな……」

「……これで、耐え切れればいいけど!!」

　そこで王弟様が、魔力切れでぐったりしている騎士たちを囲むように防壁魔法を展開した。

「ヴゥォッ！　ヴゥォッ！　ヴゥゥゥゥゥォォォォォォォォォッ!!」

　足で踏み荒らしたり、尻尾を振り回したり……そして黒いファイヤーブレスを吐くなど、無差別に暴れまくる腐敗したドラゴン……

　……タイミングを見計らって、今度は致命的な一閃をお見舞いしてやろうじゃないか！

　そう思いつつ、ベストなタイミングが来るのを待ち構える……

　……ここだ！

　そして、このときもまた、レンカさんは僕に光属性の魔力を送ってくれた。

　こうして腐敗したドラゴンの姿勢が低くなった瞬間を狙いすまして……駆け込み、剣を振り抜いた。

「ヴゥォ……ッ？」