第165話 俺と一緒に来い!

「ヴゥォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


 荒廃のドラゴン……いや、これはもう、腐敗したドラゴンというべきか……奴の全身から禍々しい瘴気が放出されている……


「……あの瘴気……魔力で対抗でもしない限りは、並の人間には耐え切れそうにないね……よし、みんな聞いてくれるかい? まず、非戦闘員は直ちに副王都から避難するんだ! また、騎士や衛兵の中で保有魔力量の少ない者も避難してもらうつもりだけど……その際に、街のみんなも一緒に連れて出てくれ!!」

「ディムナン様……まさかとは思いますが……」

「うん、僕はここに残るよ……まあ、あんまり戦うのは得意じゃないけど……保有魔力量的には、この中で僕が一番だろうからね……」

「ディムナン様……」

「叔父上も避難されてはいかがですか? あのドラゴンは一度、ノクト君と私で倒していますからね……それをもう一度繰り返すだけなのですから、私たちにお任せいただければ、キッチリと倒して見せますよ!」

「まあ、ファーレンの心遣いはありがたいし、お言葉に甘えたいところではあるんだけどね……でも、そういうわけにはいかないなぁ……」

「叔父上……」


 そうして、王弟様の周囲に清浄な空気が発生し、広がっていく……


「とりあえずあの瘴気に対して、これで最低限の防御はできるかな……それじゃあ、街のみんなの避難をよろしくね!」

「ディムナン様……かしこまりました! それでは……ご武運を!!」


 そんなやりとりを経て、副王都に住む人々が避難を始めた。

 ちなみに、僕も魔力持ちというわけではないけど、この先祖代々受け継いできた剣……聖剣リーンウォルツが瘴気から僕の身を守ってくれているので、避難する必要はない。

 それに、レンカさんがさっき王弟様にいったとおり、あのドラゴンは一度僕たちが倒しているんだ!

 つまり、あの首をもう一度落としてやればいい……それだけだ!!


「ハハッ! 将来的に俺の愛すべき民となる奴らだからな……みんな逃がしてやるよ……そして、そしてぇ! ここに残ってる連中も! ファーガレモス一族以外は見逃してやるぞぉ!? ほ~ら、逃げろ! 逃げろ!!」

「フン! 命令もなしに俺たちが、ディムナン様やファーレン様を置いて逃げるわけないだろうが!!」

「まったく……どこまでもふざけた奴だ!!」

「少年……調子に乗るのもそこまでにしたまえ!」

「ドラゴンにビビる俺たちだと……思うなよ!!」

「ったくガキが……あんまり大人をからかうんじゃねぇぞ? コラ!」


 ジギムの「逃げろ」という言葉に対し、残った騎士や衛兵のみんなは誰一人として逃げようとしない。

 それどころか、むしろ闘志を燃やしているようだ。


「ふぅん? ここには命知らずのバカしか残っていないってわけか……なるほど、なるほど……ま! お前らみたいな、ファーガレモスに毒されたカスのことなんかはどうでもいいか……それより、ノクト! お前は一応、ホツエン村に住んでたときから続くダチだからな……もう一度チャンスをやるよ……俺と一緒に来い! お前は俺と同じ選ばし者だ! 選ばれし者同士、仲良くこの世界を手中に収めようぜ!!」

「仲良く……か……」

「そうとも! 俺と一緒に世界を統一して『ホツエン王国』を作ろうぜ!!」

「ホツエン王国……」

「そうだ、ホツエン王国だ! どうだ、最高だろ!?」


 ホツエン村がモンスターの襲撃を受けることなく、あのままずっと無邪気な子供のままでいられたなら……そんな夢を語っていてもよかったかもしれない……

 まあ、僕は日々をのんびり暮らしていたいタイプだから、そんな国を作るなんて大きな夢を語ろうとはしなかっただろうけどね……

 それはそれとして……


「ごめん、ジギム……ジギムの誘いに応じることはできない……」

「……あぁ!? なんでだよ! ファーガレモスがカスだってこと、教えてやっただろ!!」

「僕の気持ちが変わることはない……」

「ケッ、そうかよ! そんなに、あのカス女の妹がいいのかよ!! まったく、ダチよりカス女の妹を選ぶお前には! 心底ガッカリだぜ!!」

「……ジギム……ジギムこそ、そこまでにしておこうよ……復讐も、野望も……ジギムがやろうとしていることは、傷つく人が多過ぎるよ……」

「チッ……この俺がせっかく誘ってやったっていうのに……もう知らねぇ! 断ったお前が悪いんだからな!! もういいぞ、ドラゴン! 好きなだけ暴れて、全部ぶっ壊しちまいなッ!! そしてノクト! お前もファーガレモスと共に朽ち果てちまいなァッ!!」

「ヴゥォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」


 今まで腐敗したドラゴンは、ジギムに待機を命じられていたのだろう……

 だが、その待機命令も解かれ、本格的に暴れ始める瞬間が訪れたようだ……


「さて、ドラゴンよ……僕らが戦うのは、これで二度目となるわけだね……今回も勝たせてもらうよ……?」

「ヴゥォォォォォォォォォォォッ!!」

「ノクト君! 私たちのコンビネーションを再び、ドラゴンに見せつけてやるとしようじゃないか!!」

「はい! そうですね!!」

「我々も! ファーレン様たちに続くぞ!!」

「「「応ッ!!」」」


 こうして、二度目のドラゴン戦が始まったのである……

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