第164話 選ばれし者

「さて……雑談はこんなもんでいいかな……」


 そういいながら、ジギムは懐の辺りをゴソゴソし始め……おそらくマジックバッグであろう鞄から大きな骨のような物を次々に取り出して地面に並べた。

 そして、もしや……と思っていたが、頭蓋骨を見て確信した。


「ジギム……それは、あのときレンカさんと僕が戦った『荒廃のドラゴン』の骨じゃないの?」

「おう! もちろんそうだぜ? いやぁ~あのときコイツが自爆しやがったときは、マジでビックリしたよな!? 距離がシッカリと離れていて、装備もガッチリと固めていたとはいえ、さすがの俺もちょっと焦っちまったもんなァ!!」

「まあ……ドラゴンが自爆したその瞬間に僕は気を失ったから、あんまりよく覚えていないんだけどね……」

「ハハッ、そうだったな……あの直後のお前は、そこの女に抱き締められながらグッスリだったもんなァ! ハハッ、ハハハハハ!! まったく、情けねぇ奴だよ……」


 笑っていたかと思うと、急に心底軽蔑したとでもいうような態度に変わったジギム……


「……それはそうと、ジギム……ドラゴンの骨なんか並べてどうするつもり?」

「どうするって? フフッ……まあ、そう慌てんなって! これからスンゲェもん見せてやっから!!」


 そうしてジギムは、さらにマジックバッグに手を入れ……


「さて問題です……これ、な~んだ?」

「……ッ!!」

「まさか……!?」

「あ、ああっ……あれは……あのとき! ナイン様が手にしていた杖……!!」


 ここで、王都が襲撃されたときの生き残りであり、クヨウさんのことを唯一目撃していたトッドさんが声を上げた。

 ……なんて、のんきに考えている場合じゃなかった!!


「ジギム! いけない! その杖から早く手を離すんだ!! じゃないと、全身の魔力を吸い取られて命に関わる!!」

「ハハッ! 心配ご無用さ!! ……なぜって? それはな……この『魔杖ヴォルゼンドダギグ』に選ばれし真の使い手が、何を隠そう! この俺だからだ!!」

「え……えぇっ!? そ、そんな……冗談……だよね?」

「おいおい……俺がそんなつまんねぇ冗談をいうわけないだろ? 正真正銘、俺はこの杖に選ばれた男なのさ! この杖自身がそう囁きかけてきてるんだからなァ!! ハハッ! ハァ―ッハッハッハッ!!」


 ジギムが杖に選ばれただなんて……信じられない……


「まあな、ノクト……お前だけが『聖剣リーンウォルツ』に選ばれた特別な男なんだって……そう自慢したい気持ちも分かるぜ?」

「いや、僕は別に、そんなつもりはないよ……確かに、この剣が僕に力を貸してくれているのは感じているけど……だからといって、特別な人間になったなんて思ってない……」

「そんな謙遜することねぇって! 選ばれし者は、選ばれし者らしくしときゃいいんだからよっ!!」

「ジギム……」


 そういえばジギムは……昔っから英雄とか、そういった特別な何者かになることに強く憧れていたっけ……


「ま、そんなわけでな……選ばれし者である俺は、この腐敗した国……ファーガレモス王国を打倒し! 英雄になるのさ!!」

「先ほどから黙って聞いていれば! もう許せん!!」

「暴言の数々……もはや擁護の術もない!!」


 ジギムの発した「ファーガレモス王国を打倒」という言葉により、騎士たちは我慢の限界を超えた……


「ハン! お前らごときが、俺に敵うわけないだろ……?」

「ぐあああああっ!!」

「ふぐっ……!!」


 斬りかかった騎士たちを、ジギムは杖を軽く振るうことで何事もなく撃退……


「隠形が天才的過ぎるだけで、もともと俺は強いんだ……そんな俺がこの杖を手にしたらどうなるか!? それはまさに! 世界を変える男の誕生した瞬間ということができる!! フフッ……フフフフフ……ハァ―ッ、ハッハッハ!!」


 確かに、騎士たちをアッサリと弾き飛ばした今の杖捌き……たいした腕ということができるだろう……

 また、僕と同じように、ジギムは杖に力を貸してもらっているのかもしれない……


「そして! この杖の真の使い手であれば! あの女のように、魔力なんかも要求されないのさ!!」


 そういってジギムは、杖を天に掲げた。

 そうして掲げられた杖の先から、特に魔力を持たない僕にも感じ取れるほど禍々しい力が溢れ出し……荒廃のドラゴンの骨を覆った。

 すると、バラバラだった骨が組み上がり出し……


「あの女が召喚したドラゴンの成れの果て……まさしくファーガレモス王国の現状にふさわしい姿だなァ! ハハッ、ハハハハハ!!」

「ヴォォォォォォォォッ!!」

「あの女のシケた魔力じゃ、お前も本領を発揮できなかったよなァ!? 分かる! 分かるぜぇ!! だが、もう心配すんな! この杖の真の力を引き出せる俺なら! お前も思いっきり暴れられるだろうよ!!」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

「おお! そうか、そうか!! いいぞ! 好きなだけ暴れろ! 俺が許~す!!」


 実際の強さのほどは分からないけど……少なくとも前に戦ったときより、骨だらけのドラゴンから発せられている禍々しさは強いように感じる……

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