第163話 本当の理由

 分からない……

 いったい、ジギムはどうしてしまったのか……

 僕には理解できない……


「ハハッ! かわいそうついでに教えといてやるか……ノクト、お前はあの女の妹に誑かされているせいか、未だにあの女に対して肯定的な意識でいるみたいだが……実際のところは、どうしょうもない女なんだぜ?」

「そ、そりゃあ……クヨウさんはホツエン村が壊滅する原因を作ったわけだし……やろうとしたことも、やり方は間違っていたとは思うけど……それでも! そんな言い方ってないんじゃない!?」

「まあ、聞けって……答えを出すのはそれだからでも遅くないんだからさ?」

「たぶん……ジギムの話を聞いても、僕の考えは変わらないと思うけどね……」


 ジギムの認識は……なんというか、どこか歪んでしまっている……

 だから、おそらく同意しかねる内容の話になるんじゃないかと思うんだ……


「お前たちが戦ったとき、あの女は貴族共を始末して歩いていた理由を『この国の大掃除』といっていただろう?」

「まあ……それはいっていたね……」

「でもな! あれは真っ赤なウソなんだぜ!?」

「えっ! ……真っ赤な……ウソ?」

「そうとも……なんたって俺は! あの女が貴族共を始末する直前にそいつらと交わしていた会話を直接聞いていたんだからな!!」

「直前に交わしていた会話……?」

「あの女……この国のためみたいなことをいっといて、本当のところは単なる復讐だったのさ!」

「単なる復讐……ま、まあ、私腹を肥やしていた悪徳領主たちのせいで、このファーガレモス王国に害が及んでいたと考えれば、復讐心も芽生えるってもんじゃないの? でも、そういうのは義憤とかって表現になるような気もするけど……」

「チッチッチッ、ノクトは分かってないなぁ~! あの女を復讐に駆り立てた本当の理由はな……兄貴のことさ!!」

「兄貴って……レンカさんたちのお兄さんである、ライズ……ライズ・ファーガレモス様のこと?」

「あ、兄上のことが本当の理由……?」


 ここまで、ほとんど沈黙を守っていたレンカさんが、思わずといった感じで呟いた。

 まあ、突然お兄さんの話題が出てきたわけだから、少なからず反応してしまうのも頷けるところだ。

 そして、王弟様はというと……僕の気のせいでなければ、なんとなく表情に苦いものが含まれているように感じるのだが……何か心当たりでもあるのだろうか?


「そう、コイツら姉妹の兄貴であるライズ・ファーガレモスはな……お前もどっかで聞いたことがあるだろうけど、視察中の事故で命を落とした……ということになっている」

「ということに……なっている? えっと……それはどういうこと?」


 それだと、まるで事実は違うとでもいいたげじゃないか……

 しかも、その上で考えられることといえば……


「これだけいえば、さすがにノクトも察しが付くだろうけど……ライズ・ファーガレモスは貴族共に暗殺されたのさ!」

「……ッ!!」

「あ、兄上が……!? そんな……バカな……」

「……」


 王子様を暗殺って……

 そんなこと、にわかには信じ難い……

 しかも、ジギムのいうことだし……


「……ふぅん……その反応を見るに、やっぱ妹のほうは知らなかったか……そして、王弟のほうは知ってたみたいだな?」

「えっ……?」

「……叔父……上?」

「いや、僕も怪しいと思って極秘で調べてはいたんだが……確証をつかむまでには至っていなかった……」

「ま! その辺は執念の差ってやつかなぁ? ハハハハハ!!」

「ジギム……何が面白くて、君は笑っているんだい?」


 全くもって、笑えない話じゃないか……


「……ハァ? これが笑わずにはいられるかってんだよ! あの女はな、実の兄貴を男として見てた! マジでヤベェ女なんだからよ!! まあ、そんなヤベェ女だからこそ! 兄貴の死の真相に辿り着くことができたともいえるんだろうけどな!!」

「なっ……!?」

「……姉上は、ただ単純に素晴らしい兄として、兄上を慕っていただけだ……変な言いがかりはやめてもらおうか!」

「……」

「ハハッ……あの女の言動を見りゃ、簡単に分かりそうなもんなのになぁ~? ま、いいや……そんで、マジメ君だったライズ・ファーガレモスは政治の刷新とかいろいろ手を付けようとしていてな……そんな奴が王位を継いだら、悪徳貴族共にとってはマズいことこの上ないってことで結託し、上手いこと事故に見せかけて暗殺に成功したってわけだ! そして、それを信じられないあの女が執念で真相に辿り着き、暗殺に関わった貴族共を始末して回ってたっていうのが、本当の理由ってことだな!!」

「本当の理由……」

「姉上……」

「ナイン……」

「ちなみに、あの女が手を下す際、貴族共が必死に命乞いをしていた姿はなかなかにケッサクだったぜ? なんていうのかな……普段威張り散らしてた連中も、中身は俺たち平民とたいして変わんねぇんだなって……あのときばっかりは感慨深く思ったもんさ……それはそうと、どうだノクト……いろいろとかなり幻滅しただろ? ま、ファーガレモスって一族は、そんだけキモチワリィ一族ってことなのさ!!」


 レンカさんはともかくとして、王弟様の反応を見てみれば、おそらくこの話はある程度本当なんだろうなって気がした……

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