第162話 真実

「それじゃあ、ジギム……ジギムもあの戦いの場所にいたってことなんだね?」


 クヨウさんのことや戦いに集中していたので周囲に気が回っていなかったというのもあるだろうけど、まさかジギムもあの場所にいたとはね……

 全く気付かなかったよ……


「う~ん、あの戦いの場所っていうのは、ちょ~っと違うかもしれないなぁ?」

「……ちょっと違う?」

「ああ、さすがの俺にも向き不向きっていうのがあったらしくてな……隠形の才能がズバ抜けていた代わりに、ガチンコの戦闘能力は少しばかり伸びが緩やかだったんだ……とはいうものの、その辺の奴よりは俺のほうが断然上だろうけどな! ……まあ、それはともかくとして、なるべく直接戦闘は避けたほうがいいと判断してクヨウを追っていた俺は、お前たちが戦っていたときも、その場所からある程度距離を置いて眺めていたってわけさ……ちょうど、世話になってた商人から情報収集に役立つようにって、望遠の魔道具とかいろいろ持たせてもらってたしな!」

「なるほど……だから僕も、ジギムがいたことに気付くことができなかったってわけなんだね……?」

「ま! 距離があった上に、俺の天才的な隠形技術が駆使されていたんだ、誰にも気付かれるわけねぇよ! ハハハハハ!!」

「そっか……ジギムも凄い成長を遂げていたんだね……」

「まあな! といいつつ、お前もなかなかやるじゃんかよ! 見てたぜ? モンスター共をガンガン斬りまくって……しかも、あのヤベェって誰もが恐れるオーガだって問答無用でスパスパ斬り倒してよ! そんでもって最終的には、世界最強の生物であるドラゴンまで倒しちまうんだもんなぁ! かぁ~っ! あれには、さすがの俺もビックリしちまったぜ!!」

「どういたしまして……といいたいところだけど、ジギム……確か君は『ドラゴンを討伐した』といってここに来たんだよね?」

「おう、そうだな! ついでにいうと『国家反逆者も始末した』っていっといたぜ!?」

「そう、みたいだね……でも、なんでそんなすぐにバレるようなウソをついたの?」

「ああ、その辺は特に理由があったわけでもなく、単なる気分って感じかなぁ? ……別に、隠形を使ってコッソリ入って来てもよかったわけだしな!」

「気分って、なんだよそれ……いや、それはそれとして、なんでそんなウソをついてまでここに来たの? まさか、僕に会うためってわけじゃないよね?」


 まあ、僕に会うのが理由なら、もっと早く会いに来てただろうし……


「おう、それなんだけどな! まあ、そうだなぁ……あえて、あの女の言葉をマネするんだったら……『この国の大掃除』って感じかなぁ?」

「この国の大掃除……?」

「おうよ! 大量殺戮者クヨウ……また、その正体であるナイン・ファーガレモス……そんな大量殺戮者の一族を始末するために来たっていえば、分かるか?」

「「「……ッ!!」」」


 そこで、王弟様を護衛するため周囲に集まっていた騎士たちが警戒の色を強めた。

 そんな中で、王弟様はいたって落ち着いた様子を崩していない。


「ジギム! いったい君は何を考えているんだ!? なんでそんなことをしなきゃいけないんだ!!」

「あぁ!? ノクト……お前こそ何を考えてんだよ!! あの女は俺たちの故郷であるホツエン村を滅ぼした仇だぞ!? それでお前、そんな仇の妹と一緒に旅をするだけでも大概だってのに! どこをどう間違えたのか、惚れて結婚まで視野に入れるとか……マジで頭おかしいんじゃないのか!?」

「家族とはいえ……クヨウさんのしたことと、レンカさんは関係ないじゃないか!」

「大ありだ! バカ野郎!!」

「いいや! 関係ないよ!!」

「あるんだって!! ………………ハァ……そういや、昔っからお前とは微妙に意見が合わないことがあったよな……まあ、仕方ないか……でもま、同郷のよしみで聞いといてやるけど……くだらん女の色香から目を覚まして、俺と志を同じくするつもりはないか? 今なら、まだ間に合うぞ?」

「ジギムこそ、目を覚ましなよ! ジギムのやろうとしていることは、ただの八つ当たりじゃないか!! それに、レンカさんや王弟様に危害を加えたところで、ホツエン村のみんなは帰ってこないんだよ!?」

「ああ、帰ってこないな……だが、ファーガレモスを打倒し! そして、この俺が英雄になることで! みんなの死と……そしてルゥが自分の身を犠牲にしてまで俺を守った、その献身に意味を添えることができるんだ!!」

「なッ……!? ジ、ジギム……さっきも思ったけど、何をいってるんだ君は……我が身可愛さに、あの瞬間ルゥを盾にしたのは君じゃないか!!」

「……ハァ? お前こそ何をいってるんだ……ルゥは命を懸けて俺を守ってくれたんだ! それが真実であり、全てだ!!」

「どうしちゃったんだよ、ジギム……いつから君はそんな自分に都合のいいストーリーを勝手に作り出すようになっちゃったんだよ……」

「おいおい、真実の話を自分に都合のいいストーリーって………………ははぁ~ん、そうか……お前、妬いてんだな? それで変に拗らせちまって、あろうことか仇の妹なんかに誑かされるようにまでなって……全く、かわいそうな奴め……」

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