第159話 驚くべき巡り合わせ

「お客さんたち、副王都に着きましたぜ」

「おお、着いたか」

「ふぅ~っ、ようやくって感じですね!」


 ついに、副王都に到着。


「それじゃあ、ご縁がありましたら、またよろしく頼んます」

「ああ、ここまで世話になったな」

「ありがとうございます! またどこかで!!」


 こうして、御者のオッチャンとはお別れ。

 そして今回馬車に乗せてもらった御者のオッチャンは、副王都までの道のりの中で、それぞれの土地の美味しい料理を出してくれる宿屋や食堂を教えてくれたステキなオッチャンでもあった。

 いや、今までに出会ってきた御者のオッチャンたちも、いい店を教えてくれてはいたんだ。

 それでも、今回は特別だった……今までの誰よりも、美味しいお店を教えてくれたからね!!

 というわけで、王弟様に報告を終えたらジギムを探す旅が始まると思うので、そのときまた今回のオッチャンが御者をする馬車に乗せてもらえたらなって思うわけだ。


「さて、中央部に向かうとしようか」

「はい、そうですね!」


 また、副王都の中を歩く際も、ジギムの姿がないか周囲に注意を向けながら進む。

 そして一つ内側の壁に到着。

 ここでレンカさんは認識阻害の魔法を解きつつ……門番の衛兵さんたちのもとへ向かう。


「お帰りなさいませ! ファーレン様!! そしてノクト少年!!」

「一部地域でドラゴンが暴れたようですが……ファーレン様たちは襲われることなく、ご無事だったようで安心致しました」

「気遣いありがとう……まあ、私たちはそのドラゴンに襲われなかったわけではなく、戦う羽目になってしまったがな……はっはっは」

「ええ、そうですね……」

「なんと!!」

「ファーレン様たちまで……ドラゴンと戦ったとおっしゃられるだなんて……」

「……うん? 私たちまで?」

「はい、つい先日、ドラゴンを討伐したと申す子供が現れまして……」

「そうですなぁ、ちょうどノクト少年と同じ年頃の子供だったと思われます……少なくとも、成人はしていなかったでしょうな……」

「ほう? 討伐したと……それはそれは……」

「僕と同じ年頃の子供……」


 そのときふと、僕の頭の中でジギムの姿が思い浮かんだ……


「また、その子供……討伐を証明する物として、ドラゴンの頭蓋骨を所有しておりました」

「損傷が激しかったのですが……あれは確かに本物のドラゴンの頭蓋骨でした」

「ふむ……損傷が激しかったとな?」

「……」


 もしかして、ジギム……?

 いや、そんなはずは……

 でも、僕と同じ年頃というのなら、可能性はゼロじゃない……

 いやいや、ジギムは特に魔力を持っているわけではない、普通の平民の子供だ……ドラゴンと戦って勝てるわけがない……

 とはいえ、僕だってドラゴンと戦えたんだ、あり得ない話ではないだろう……

 そうはいっても、あのドラゴンとの戦いはレンカさんと一緒だったのだ……それもレンカさんは王女様という、この国の中でもトップクラスの魔力持ちなんだ……仲間がいたとしても、並の実力じゃドラゴンなんかには太刀打ちできないのでは?

 じゃあ……ジギムにもレンカさんみたいな圧倒的実力者の仲間がいるってことを考えられないか?

 う~ん……僕とレンカさんの出会いは、まさしく奇跡だ……そんな奇跡がジギムにも起こったというのか? さすがにそれは……

 だが、僕にだけそんな奇跡が起こると考えるのもどうなんだ?

 しかしながら、奇跡といえば父さんから受け継いだ剣……この剣だって、驚くべき巡り合わせで僕の手に渡ってきたんだ……クヨウさんの話では、この聖剣リーンウォルツは特別な剣……そんな奇跡が重なったことで、ドラゴンを倒すに至ったんだ……そんなことがジギムにも起こったとは考えづらい……

 そして、そもそも論として荒廃のドラゴンを倒したのは僕たちだ……じゃあ、そのドラゴンを討伐したといっていた子供は、僕たちと別のドラゴンを倒したということなのか?

 でもなぁ……そんな頻繁にドラゴンと戦うことってあるのかな?

 ドラゴンの縄張りに不用意に近づいて怒りを買わな限り、戦いになるなんてことはほぼないって聞いた記憶があるんだけど……

 それについて、僕たちが今回ドラゴンと戦うことになったのだって、クヨウさんが召喚したからなんだしさ……

 それじゃあ結局、その子供が討伐したっていうドラゴンはなんなのだろう……


「……ト君……ノクト君!」

「え? あぁ、レンカさん……どうかしましたか?」

「ノクト君が急に難しい顔をして黙り込んでしまったからな……どうかしたかと問いたいのは私のほうだったぞ?」

「えっ……あっ! すみません!!」

「いや、そう謝るほどではないぞ……ただ、かなり深刻そうな表情をしていたからな……少々心配にはなった」


 そういうレンカさんに合わせて、門番の衛兵さんたちも頷いている。


「えっと、実は……そのドラゴンを討伐したって子供……もしかしたらジギムだったんじゃないかって考えてたんです……そんなわけないですよね……あはは……」

「……ッ!!」

「ノ、ノクト少年……今『ジギム』といったな?」

「はい、ジギムといいましたけど……」

「その子供が名乗ったのが……ジギムという名前だったのだ……」

「ああ、間違いなく……ジギムと名乗っていた……」

「えッ……!?」

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