第158話 特別に選んでいるようだな?

「それじゃあ、おやすみ……ノクト君」

「はい、おやすみなさい、レンカさん」


 宿屋にて、そろそろ就寝すべき時間ということで、眠りに就く。

 よしよし、今日も順調に移動ができたといえるだろう。

 そして、この副王都までの道中、なるべくジギムのことも探しながら移動している。

 とはいえ、メインは移動なので、その時間を削ってまでは探していない。

 基本的には、街中を歩く際などでジギムがいないかって周囲に注意を向けながら歩くって感じだ。

 あとは時間と体力を考慮しつつ、余裕があるときに探している。

 ただし……残念ながら、それだけでは見つけられていない。

 まあ、副王都で王弟様に報告を終えたら、本格的に探すとしよう……それまでジギム、待っててくれ。

 そんなことを考えているうちに……意識が徐々に……眠りの…………世界へ………………


……

…………

………………


「……って……待って……さい! ……姉上ぇッ!!」


 ………………レンカさんの…………声?

 ……ハッ! レンカさん!!

 レンカさんの声を聞いて目が覚め、そのままレンカさんが寝ているベッドへ向かう。


「……レンカさん……またクヨウさんの夢を見たのですか?」

「……ああ……そのようだ……すまないな、こうも頻繁にノクト君のことまで起こしてしまって……」

「いえいえ、お気になさらず……僕としてはただ、レンカさんがちゃんと眠れているかってことだけが心配になるだけですよ」

「いや、こうやって夜中に起きてしまうだけで、眠ること自体はできている……それでも、心配してくれてありがとう」

「どういたしまして」


 その後は軽く話をしながらゆったり過ごし、だんだん眠くなってきたところで、再び眠りの世界へ……


「……朝……か……よし!」


 窓から差し込む朝日を受け、目が覚めた。

 こうして僕が朝に目を覚ましたということは……どうやら、あのあとレンカさんは夜中に目覚めてしまうことなく、しっかりと眠ることができたみたいだ、よかったよかった。

 まあ、僕も両親など二度と会えないと思っていた人たちと夢の中で再会することがあるけど……その場合も、意外と夜中に起きてしまうってことはほとんどないんだよね……

 ただ、起きたとき夢で会ったなってなるぐらいかな。

 とはいえ、それもときどきだからねぇ……

 そんなことを思いつつ着替えなど、早朝の剣術稽古に向かう準備をするのだった。


「……ノクト君、準備はできたかな?」

「はい、できました!」

「そうか……では稽古に行くとしようか」

「はい!」


 そうして、朝の挨拶を交わしながら宿屋の庭に出る。

 ふむ……レンカさんの顔色的には、大丈夫そうだね。


「ここ最近……ノクト君には心配ばかりかけさせてしまっているな……」

「なんのなんの! いつも僕はレンカさんに支えてもらってばかりいるのですから、たまには心配ぐらいさせてください!!」

「……そうか……ノクト君の気持ち、ありがたく受け取っておくよ」

「はい、そうされてください」


 こんな感じで会話をしつつ、今日もいつもどおり素振りや型などの基礎から始め、模擬戦へと進む。


「……ふむ……やはりこの剣……ノクト君を特別に選んでいるようだな?」

「そうなのですか?」

「ああ、こうして実際に私が握ってみた感じだと……普通にダンジョンなどで手に入る魔剣レベルの性能といったところだろう……」

「へぇ……普通にダンジョンなどで手に入る魔剣レベル……ですか……」

「うむ! だが、ノクト君が握った場合、明らかに特別な力を発している……」

「なるほど……だからオーガやドラゴンみたいな強固なボディの持ち主にも刃が通ったというわけですね?」

「ああ、そのとおりだろう……そして、見たところノクト君はこの剣によって特に魔力を消費させられている様子もない……」

「それはよかったです……オーガとの戦いで父さんは無理やり魔力を使って命を落としてしまいましたし……」

「おそらく……そのときは普通の魔剣としての使い方となっていたのだろうな……だが、ノクト君の場合、この剣のほうが積極的にノクト君に力を貸した……だからこそ、あれだけの戦い方ができたともいえるのだろう」

「そうなんですね! じゃあ、剣に感謝しなきゃです! いつもありがとう!!」

「……うむ、ノクト君の想いは剣に届いていることだろう」

「そういえば……クヨウさんはこの剣について知っていたみたいですね……確か『聖剣リーンウォルツ』とか呼んでいましたし……」

「そのようだな……まあ、姉上は読書家で、昔からいろいろなことに詳しかったからなぁ……そして、王宮の書庫などで古文書とやらも見付けたのかもしれないな……」

「王宮の書庫……それも、もうなくなってしまったのですよね?」

「ああ、そのとおりだ……」

「それは残念ですね……本当に……」

「ああ、姉上と比べるほどではないが、私も多少は読書をしていたからな……読む本の系統が戦闘に関する分野に偏ってはいたと思うが……」

「それが今のレンカさんの強さにつながっているとすれば、大成功でしたね!」

「ふふっ……まあ、そうだな……」


 とまあ、そんな感じで、レンカさんが僕の剣を試してみるなどしながら、早朝の剣術稽古は終わったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る