第157話 うっかり

「では、明日も頼んだぞ」

「よろしくお願いします!」

「へい、お任せくだせぇ!」


 副王都へ向けて移動中、日が暮れつつあるので今日のところはここまでといった感じ。


「さて、それじゃあ宿屋に向かおうか」

「はい、そうですね」


 というわけで、馬車の発着場で御者のオッチャンといったん別れて、宿屋へ向かうことに。

 そして、この街に何度も来ているらしい御者のオッチャンから評判のいい宿屋をいくつか挙げてもらったので、その中から一番僕たちのフィーリングに合うところを選んで泊まるって感じだ。

 まあ、基本的にレンカさんも僕も、宿屋のランクとか設備自体にはそこまで大きなこだわりがない。

 ただ、唯一こだわりがあるとするなら……提供される料理の美味しいところって感じかな?

 そのため、御者のオッチャンに教えてもらったのは、正確にいうと「料理の」評判がいい宿屋となるわけだね。


「ふむ……ひととおり宿屋の外観を見てきて、私はここが一番いいのではないかと思ったのだが、どうだろう?」

「ええ、僕もここがいいと思いました」

「そうか、ではここに入ってみようか」

「分かりました」


 こうして意見が一致したので、宿屋の中へ。

 そして、中の雰囲気的にもオッケーって感じだったので、そのまま宿泊を決定した。

 また、副王都を出発した辺りから向かった先の治安があまりよろしくないこともあって、レンカさんと同じ部屋に泊まるようになっていた。

 そのときはルクルゴさんも一緒だったので、ある程度僕の緊張も抑えられていた。

 そして、新サットワーズで用意された部屋にレンカさんと2人で泊まっていた……いや、僕はほとんど気を失ったままだったので、体感では一泊だったけど……

 まあ、それはともかく、そういった流れもあってか今さら部屋を分けると強く主張することもできず、この移動中ずっとレンカさんと同じ部屋に泊まっているのだ……

 これがなんともまあ、緊張するというか、気恥ずかしいものである。

 だってねぇ……相手が、とっても美人なレンカさんなんだもん! 緊張するなってほうが無理ってもんだよ!!

 とはいえ僕としても、この状況に少しずつ慣れてはきているんだけどね……

 しかしながら、どれだけ時間が経って慣れたとしても……嬉し恥ずかしのドッキドキした感情が完全になくなることはないだろうと思う。


「……ん? 私の顔に何かついているかい?」

「いえ、何度見ても美しい人だなぁと思いまして……」

「ッ……!! な、何を急に言い出すんだ、ノクト君!?」

「……えっ? あっ! いや、その……っ!!」


 それは、夕食まで少々時間があったので、お茶を飲みながらしばしのんびりしていたときのことだった。

 ほとんど無意識のまま、僕の口から出てしまった言葉である。

 それにより、レンカさんはひたすら赤面。

 まあ、僕も同じようなものだっただろうけどね……

 ただ、内心……そのときの照れるレンカさんを見て……ひたすらかわいいとも思っていたのだった……


「……ゴホン! えぇと、ノクト君……あまり大人をからかうものではないな」

「えっと、からかったつもりはないのですが……その、気を付けたいと思います……はい」


 ある程度落ち着きを取り戻したところで、レンカさんに軽くたしなめられた。

 まあね……僕としても、ちょっとうっかりしていたところがあったと思うので、今後はもう少し気を付けていきたいところだ。


「ま、まあ、その、なんだ……褒められて悪い気はしなかったがな……」

「そうですか! その言葉を聞いて少し安心しました!!」

「う、うむ……」


 まだちょっと顔の赤いレンカさん……やっぱりかわいい。

 こんな感じで時間を過ごし、夕食の時間がきたので食堂へ。


「ほう……ここの料理も、なかなかのようだな」

「はい、とっても美味しいですね!」


 ここまで御者のオッチャンが薦めてくれた宿屋の料理が全てアタリだったので、僕たちはとってもゴキゲンである。

 とまあ、そうして僕たちが夕食を美味しくいただいていたところ……


「なあ……ここ最近、どっかの街がモンスター共に襲われたって話を聞かなくなった気がするよな?」

「そういえば……あんま聞かなくなったかも……」

「う~んと……確か、ザダミネフが壊滅したって話を聞いたのが最後だっけか?」

「街というか、領主とかエラそうにしてる奴らがこの世からオサラバしたって話なら、ザダミネフが最後だろうな……」

「そのちょっとあとに、めちゃくちゃデカい爆発が起こったって話もあったよね?」

「ああ、そんなんもあったなぁ……」

「まあ、もともとなんもない平野だったらしいから、まだマシだったんだろうけど……そんなヤベェ爆発が街中で起こらなくて本当によかったよな……」

「ウワサによると……そこでドラゴンが暴れたって話だぜ?」

「おっ! その話なら俺も聞いたよ!!」

「うへぇ……マジでドラゴンだったら最悪だよな……」

「遠目にだけど、ドラゴンが飛んでるトコを見たって奴がいたから、割とホントのことっぽいぞ?」

「モンスターの襲撃騒ぎを聞かなくなったと思ったら、今度はドラゴンか……カンベンしてくれよ……」

「でも、意外とさ……そのドラゴンが、ウワサのモンスター共を全滅させたんだったりしてね?」

「えぇ? それはさすがに……まあ、ドラゴンレベルならできちゃいそうだけど……」


 そのドラゴンなら、もういないから心配しなくて大丈夫だよ……

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