第156話 グッバイ
「……朝……だね。そして今日は、夢を見なかったか……」
なんてことを呟きながらの起床。
「さて……今日も頑張りますか」
というわけで、早朝の剣術稽古をするため着替えなどの準備を始める。
ただ、先日の戦いでオーガを倒すという目標は達成してしまった。
そこで、これ以上剣術稽古を続けて強くなる必要がないかもしれないっていう考えも浮かんだ。
さらにいえばこれから先、街や村がモンスターから襲撃を受ける心配がほぼない……少なくとも、領地経営を失敗してモンスターの間引きがおこなわれていないところ以外は大丈夫だろう。
なぜなら……もう、クヨウさんがいないから……
そんなわけで、さらなる戦闘能力向上を目指す理由が僕の中で若干薄れてしまっているのだ。
とはいえ、クヨウさんの持っていた杖……あれの所在が確認できていないうちは、まだ安心するには早いだろう。
あれを早く見つけて、破壊ないしは悪い人の手に渡らないよう厳重に保管しなければ……
とまあ、結局のところ、まだ気を抜くわけにはいかないということかな……?
そんなことを考えているうちに準備が完了した。
「……ノクト君、着替えは終わったかな?」
「はい、終わりました」
「そうか、では稽古に行くとしようか」
「はい!」
部屋自体はレンカさんと一緒だったのだが、一応仕切りは設けておいたのだ。
そんなこんなで外に出て、早朝の剣術稽古を始めた。
そして、今日もいつもどおり素振りや型などの基礎から始めて、最終的に模擬戦へと至る。
また、新サットワーズにいるオークたちも全員というわけではないけど、僕たちの稽古に参加していたりする。
『お前、やっぱり強いな……』
『ああ、さすがルクルゴ様が見込んだだけのことはある……』
『おい! もうひと勝負しようぜ!!』
『ハハッ! ノクトさんとは実力が全然違うっていうのに、お前も懲りない奴だなぁ?』
『いいや! 俺だってルクルゴ様みたいな強い男になるんだ! そのためには何度だって挑戦してやる!!』
『まったく、お前という奴は……すみませんねぇ、ノクトさん……』
「いえいえ、僕も学ばせてもらっているので、お気になさらず」
『そういってもらえると助かりますよ……ほら、お前も礼をいっとけって!』
『はいはい、どうもどうも……そんじゃあ! やっぞ!!』
「ええ、それでは!」
こうして朝食までの時間、新サットワーズのみんなと模擬戦をたくさんして過ごしたのだった。
そして稽古が終わったら、そのままみんなで朝食をいただく。
『くぅ~っ! もうちょっとで勝てたはずなんだけどな!!』
『ば~か、全然だよ』
『見た感じ、まだまだノクトさんのレベルには程遠いといわざるを得んだろうよ』
『そんで、ノクトたちは今日ここを出発するんだろ?』
「はい、そのつもりです」
『そんじゃあ、そのうちでいいから、また来いよ! 勝負しようぜ!!』
「分かりました、必ず……」
「よっしゃ! そんときまで腕を磨いとくぜ!!」
さっきは戦闘能力の向上を目指す理由が薄れてしまったなんて考えも浮かんでいたけど……
どうやら、僕もまだまだ稽古を積む必要があるようだ。
今度勝負したとき、ガッカリさせたくないもんね!
『ふむ……それなら俺も、いっちょ頑張っとくとするかね……』
『へへっ、いいねぇ……俺様も負けてられないなぁ?』
『フン、最初に勝利を収めるのは、この私だ!』
『いいや、ボクだね!』
『ハッハッハッ! 面白くなってきやがったぜ!!』
『……男共だけで盛り上がらせておくわけにはいかないわよねぇ?』
『ええ、そのとおりだわ……私たちも気合を入れていくとしましょう』
『アハハッ! ゴージュ様の次にサットワーズの長となるのは……ウチら女子の中の誰かに決まりそうね!』
『うふふ……そういうこと』
『あぁ? お前らなんかに負けるかってんだ!』
『そうだ、そうだ!』
そんな感じで、新サットワーズのみんながワイワイ盛り上がっている。
みんな、そうやってルクルゴさんを失った悲しみを乗り越えようとしているんだな……
僕も、しっかり乗り越えなきゃだね!
こうして朝食の時間が過ぎ、僕たちが新サットワーズを出発するときが迫ってくる。
そして使わせてもらった部屋の片付けをしたところで、ついにそのときがきた。
『お2人とも、またいつでもお越しください』
『アア、セワニ、ナッタナ』
「ぜひともまた来ます! そのときまで皆さん、お元気で!!」
『ノクトたちも元気でな!』
『今度は負けねぇぞ!』
『道中、気を付けてね!』
………………
…………
……
みんなに見送られながら、僕たちは新サットワーズをあとにするのだった。
「さて、ノクト君……行くとするか」
「はい!」
「それにしても、先ほどの稽古を見て思ったが……あの戦いを経て、ノクト君は大幅に腕を上げたようだな」
「えっ、そうですか?」
「もちろんだよ……まあ、それだけ過酷な戦いだったともいえるわけだが……」
「そうですね……僕もまさか、ドラゴンと戦うことになるとまでは思ってもみなかったですし……」
「ああ、まったくだな……」
そういえばあのとき……そう、荒廃のドラゴンの体当たりを受けて気を失っていたとき……
ホツエン村を襲った、あのオーガの醜悪な笑みが脳内に思い浮かんだかなんかして目を覚ますことができたんだっけ……
そう思うと、奴にお世話になったといえるかもしれない……認めたくないけどね……
でもまあ、あのとき何体もオーガを倒したことで、僕の心に刻まれたオーガに対するトラウマも徐々に薄まっていくことだろう……
グッバイ……僕の心に棲みついたオーガよ……っていうか、ホントにどっか行ってよね?
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