第154話 己の運命に立派に立ち向かった

「そっか……それでゴージュさんたちが僕たちをここに連れて来てくれたというわけですか……」


 ゴージュさんたちは、ルクルゴさんと心でつながっていたというべきか、離れていても気配を感じることができたらしい。

 そしてあのとき、ルクルゴさんの気配が急激に弱まったことで、恐れていた予言が現実となってしまったことを悟ったらしい。

 それでいてもたってもいられず、あの場所……つまり、僕たちがクヨウさんの召喚したモンスターたちと戦った場所に来て……気を失っている僕たちを見つけてここまで運んでくれたらしい。

 まあ、あの場所と新サットワーズは、距離的にそこまで極端に遠く離れているわけではないからね、比較的早く来れたのかもしれない。


「お世話になり、誠にありがとうございます」

『ワタシカラモ、アラタメテ、レイヲイオウ……ドウモ、アリガトウ』

『いえいえ、ルクルゴ様のお仲間は、我々にとっても大切な仲間となりますので、お気になさらず』


 そして僕たちが運ばれてきたこの部屋には現在、僕とレンカさん、そして様子を見に来たゴージュさんの3人がいるだけ。

 部屋の外には、普段の生活を送っているオークたちがいる。

 そんなオークたちみんなにも、ルクルゴさんが亡くなったとことは知らされており、新サットワーズ全体の雰囲気が暗く沈んでいる。

 そのことが、部屋の中にいても伝わってきてしまう。


「こんなにも悲しんでいるみんなが……ルクルゴさんの姿を見て、さらに悲しみを深くしてしまわないでしょうか……」

『確かに、より悲しみは深まってしまうでしょうが……それでも皆、もう一度ルクルゴ様にお会いしたいはずです』

「そう……ですか……ええ、ゴージュさんのいうとおりですね……分かりました……」


 そうして決心を固め、部屋から出た。

 そこで、僕たちの姿を目にしたオークたちが集まって来た。

 さあ、ルクルゴさんを……みんなのもとへ……


『あぁっ! ルクルゴ様ぁっ!!』

『なんというお姿なんだ……』

『うぅっ……ルクルゴ様……』

『クソッ! なんでルクルゴ様がこんな目に遭わなければならなかったんだッ!!』

『チクショウ! ……お前が!!』

『おい! よせって!!』

「はい……全ては僕の力不足が招いたことです……申し訳、ありません……でした」

「ノクト君だけの責任ではない……私こそ、姉上が行動を起こす前に……もっと早くその思い詰めた気持ちを察して止めることができていればこんなことには……だから、悪いのはむしろ私だ、ノクト君ではない!」

「レンカさん……それでも……僕がもっとしっかりしていれば……」


 こうして僕とレンカさんは互いに、ルクルゴさんが命を落とした原因は自分だと主張し合う。


『……お2人とも……そう自分を責めてはいけません……先ほども申しましたが、あくまでもルクルゴ様はご自身の運命を覚悟してのことだったのです……その運命に立派に立ち向かったことこそをお褒めいただければ……そうすればルクルゴ様もお喜びになられることでしょう』

「ゴージュさん……」

「ルクルゴは己の運命に立派に立ち向かった……か……ああ、ゴージュのいうとおりかもしれないな……見事だった……ルクルゴ……」

「ルクルゴさん……ルクルゴさんが守ってくれたおかげで……僕はこうして命を永らえることができました……ありがとう、ございます……」


 ゴージュさんの言葉を受けてレンカさんと僕は、ルクルゴさんに言葉を贈った。


『クッ……それでも俺は! 俺はこんなの認めねぇッ!!』

『俺も認めねぇぞ! それにルクルゴ様だって、長老の予言なんか無視すりゃよかったんだ!!』

『そうだ! そうだ!!』

『ああ、その結果俺たちの身に不幸が降りかかったのだとしても! そんなこと関係ないッ!!』

『そうだとも! ルクルゴ様がご自分の身を犠牲にするなど、そんなことする必要なかったのだ!!』

『ルクルゴ様さえ生きていてくれたなら……それでよかったのに……』

『クソォッ! ルクルゴ様! お願いだから、俺たちのところに帰って来てくれよぉッ!!』


 そうしてオークたちの悲しみの叫びが、幾つも幾つもこだまする……

 しばらく経ったところ……


『皆の者……もうそれぐらいでいいだろう……そうやっていつまでも悲しんでいたら、ルクルゴ様もゆっくりお休みできないであろう?』

『……ゴージュさんよぅ……そうはいうけど、実はアンタが一番悲しんでるんじゃねぇのかい?』

『ああ……もちろん、誰よりも私の悲しみは深いと自負している! ……だが、だからこそルクルゴ様の御意志を尊ばねばならないとも思っているのだ!! そして、今の我々の様子をルクルゴ様がご覧になれば、きっとお嘆きになるに違いない……それではいけないのだ!!』


 そして、ゴージュさんがみんなを諭し始めた。

 そんなゴージュさんの言葉を受けてみんなは……


『……分かったよ、アンタのいうとおりだ……この悲しみを乗り越える……少なくとも、その努力はするよ』

『ああ……俺もそうする……』

『そうだな……ルクルゴ様にこれ以上ガッカリされたくないもんな……』


 みんな、徐々にではあるが、再び前を向くことにしたようだ。

 こうしてのち、1人1人お別れをいいながらルクルゴさんを埋葬するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る