第92話 鎧を新調したく思うのですが

 ハーシィさんに紹介してもらったモンスターの宿泊がオッケーされている宿屋に到着。

 そしてこの宿屋では、前の街みたいにウワサの警備員みたいな人はいないようだ。

 まあ、ここでも同じく、女性専用フロアで男がうろつこうとしたら一発でつまみ出されるみたいだけどね。

 それはそれとして、今回も僕とルクルゴさんの2人部屋と、レンカさんの1人部屋に別れて泊る。

 それにしても、ヨテヅさんがササラさんと結婚したことによって、しばらく1人部屋で寝泊まりしていたけど……こうしてルクルゴさんが仲間になったことで、また誰かと一緒の部屋で過ごすって日々を再開できることになった。

 まあ、1人のほうが気楽な部分ももちろんあるけど、やっぱりこうやって誰かがいるっていうのはいいもんだね。

 そんなことを思いつつ、夕食までの時間を部屋でくつろぐのだった。


『……ノクト殿、そろそろ夕食の時間ですぞ?』

「……うぅ、ん? ……あぁ、寝ちゃってたみたいですね……起こしてくれてありがとうございます」

『いえいえ、移動などでお疲れでしたでしょうから、そのまま寝かせて差し上げようかとも思いましたが……』

「あはは、そこまで気を遣ってくれなくて大丈夫ですよ」

『ええ、そうおっしゃるだろうと思いましたからね』

「なるほど」


 なんてやりとりをしつつ、食堂へ向かう。


「おお、来たか」

「はい、そして実は今まで寝てしまっていたんですよ……ルクルゴさんが起こしてくれなければ、夕食を食べ損ねるところでした……あはは」

「そうか、よかったな」

「はい!」


 そんなこんなで、夕食をいただいていたところ……


『……そういえば、少し時間のあるうちに鎧を新調したく思うのですが、この街にいい職人はおられますかな?』

「あっ! すいません……僕があのとき壊してしまったばっかりに……」

『いえいえ、何度もいうように、あの手合わせは私が求めてのことだったのですから、ノクト殿は一切気に病むことはありませんよ』

「さらにいうと、それぐらいのことができなければ、ルクルゴとしてもノクト君を予言の子として納得できなかっただろう?」

『そうですなぁ……言葉が通じたことや、直感として認めてはいましたが……やはり強さも伴わなければ、物足りなくは感じたかもしれませんな……』

「そ、そうですか……とりあえず、ルクルゴさんの合格点はもらえていたようなので、そういう意味では安心ですね……」

『ハッハッハッ! ノクト殿は満点……いえ、それ以上でしたよ!!』

「ふふっ、あの戦いぶりなら、誰も文句はあるまい」

「2人にそういってもらえて嬉しいです……ありがとうございます!」

『いえいえ……それで話は戻りますが、いい職人に心当たりなどありませんかな? ああ、それと、街中で人間族の方々が私の顔を見て驚かれるので、顔を隠せる兜なんかも作れるといいでしょうなぁ』

「ふむ、職人か……まあ、人間族とオーク族の身体の造りそのものに極端な違いがあるとまではいえないから、サイズをきちんと採寸すれば人間族の職人でも、オーク族の身体に合う鎧や兜を作ることができるだろう」

「なるほど、サイズ感の問題だけってことですね……」

『おお、それはよかった!』

「だが、出来合いの物ではなく、オーダーメイドとなると完成までに時間がかかるだろうからな……サイズ調節機能の付与された魔法防具を選ぶのも手かもしれん……」

「魔法防具ですか!? うわぁ、カッコいい!! あ、でも……そういうのって、ダンジョンで手に入れなきゃなんじゃないですか? 行ったことないので、話に聞いたり物語で読んだりって程度のことしか知りませんけど……」

『私のために、時間的にも労力的にも、そこまでお手数をおかけしてしまうわけには……』

「そうだな……ダンジョンがこちらの狙いの物を都合よく出してくれるとは限らんから、それは現実的とはいえないだろう」

「ですよね……」

『残念ではありますが、仕方ありませんな……』

「だが、武器屋や魔道具屋を当たってみれば、どこかしら取り扱っているところがあると思うぞ?」

「なるほど! その手がありましたね!!」

『おおっ!』


 武器屋や魔道具屋といえば……僕にも馴染みのお店があるからね!

 これは、期待できそうだよ!!

 とはいえ、魔法防具となると……


「今、ちょっと思ったんですけど……魔法防具って、メチャクチャ高価じゃないですか?」

「ああ、物にもよるが、それなりに値は張るだろうな」


 たぶん、レンカさんはご出身がお貴族様だろうから、僕と根本的な金銭感覚が違うような気がしないでもない……

 だから涼しい顔で「それなり」って表現ができちゃうんじゃないだろうかって気がしてきたんだけど……


『ふむ……確か、人間族はこの金属がお好みだったように思いますが……これで足りますかな?』


 とかいいながら、ルクルゴさんが懐からデッカイ金塊を取り出してきた。

 そのゴールドの輝き……とても眩しいです……


「……うむ、それぐらいあればじゅうぶんだろうな」

『そうですか、お2人に迷惑をかけずに済みそうで安心しました』


 なんだろう、この2人の余裕は……

 そういえばルクルゴさんって、元サットワーズの長……僕らでいうところの、領主様みたいなポジションだったんだもんね……

 そう考えると、この余裕も当然といえば当然か……

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