第90話 主

 門番の衛兵さんたちに通してもらい、無事街に入ることができた。

 そしてお次は、冒険者ギルドに行ってハーシィさんとかに帰還報告をするって感じかな。

 いやまあ、向こうの街で依頼達成の手続きは終えているので、こっちの街で帰還報告をする必要はないといえば、ない。

 とはいえ、そういう挨拶をしておくっていうのも、悪いことじゃないからね。

 特にハーシィさんには日頃からお世話になってきたわけだし、もしかしたら心配なんかもしてくれてるかもしれないからね「無事に帰ってきたよ!」っていって、安心してもらいたいところだ。

 ……そこで「アンタのことなんか、心配してないんだからね!」とかいわれたら、ちょっぴり泣いちゃうかもしれない。

 いや、ルゥがハマってた恋愛物語の中には、そういいながらメッチャ心配してたって女の子もいないわけじゃなかったけどさ……


「……えぇっ!! オーク!?」

「な、なんで街の中に……」

「いや、よく見ろ……テイムの証をしてるだろ?」

「あ、ああ、確かに……だが、本当に大丈夫なのか?」

「分からん……が、門番の衛兵が通したのなら、心配ないってことなんじゃないか?」

「それもそうか……だがなぁ……」

「それはそれとして、よく見たらあのたっぷりとした筋肉……とっても、たくましいわネ?」

「ええ、ホント……ああいうオトコってス・テ・キ!」


 ……そのときである、なぜかルクルゴさんが震えだした。


「……ルクルゴさん、どうかしました?」

『ああ、いや……かつて感じたことのない戦慄が身を走りましてな……』

「えっ! もしや敵が近くに!? でも、そんな気配は感じませんが……」

「まあ、いろいろな意味でルクルゴに興味を持った者がいるだけさ、そしてその誰も私たちに敵対する意思を持っていないようだから、心配はいらないよ」

「そ、そうですか……」

『……よもや、この私が戦闘以外で震えを覚えるとは……まったく、人間族には驚かされるばかり』


 とかなんとかありつつ、冒険者ギルドの建物に到着。

 そして、まっすぐ受付へ向かう。

 まあ、時間的に夕方までしばらくあるって感じで、そこまで混んでいない。

 そのため、割とスンナリ受付のハーシィさんのところまで行けた。


「ノクト君! お帰りなさ……い?」


 僕の姿を見て、はじける笑顔で迎えてくれようとしていたハーシィさんだったが……

 やはりというべきか、ルクルゴさんを見て若干の戸惑いを見せるのだった。


「ただいま帰還致しました! そしてこちら、一応テイムという扱いですが、僕の新しい仲間のルクルゴさんです!!」

『ルクルゴと申します、よろしく』

「えっと、その……もしかしなくても、話題のオークジェネラル……よね?」

「はい、そうですね!」

「おそらくユニーク個体のオークジェネラルをテイムしてくるとか……普通に依頼達成で終わらないような気はしてたけど……やっぱり……やっぱりノクト君だったかぁ……」

「えっ?」


 なんか、衛兵さんたちもこんなような反応だった気が?


「……お~い、ミートボーイが帰ってきたぞ! それも、ヤベェお土産付きでな!!」


 後ろでは、ギルド内にいたオッチャンの1人が仲間の冒険者を呼んでいた。


「……おう! ミートボーイがどうしたっ……てぇぇぇぇッ!?」

「あの姿……明らかに並のオークじゃねぇぞ! ヤバくねぇか!?」

「えぇと確か、ミートボーイが受注してた依頼って……」

「ああっ! あれだ! 隣の街の奴じゃ誰も歯が立たなかったっていうメチャクソ強ぇオークジェネラルの討伐依頼だ!!」

「正確には、ソイツが率いるオークの集落掃討な?」

「そんな細けぇこたぁいいんだよッ!」

「あの風貌……たぶん、あれがウワサのオークジェネラルだよな?」

「ああ、確かにさっきそういってたぜ?」

「ヒィッ!」

「なんでそんな奴がここに……」

「奴が首からぶら下げてるもんを見りゃ分かるだろうが……テイムしたらしい……」

「えぇっ!? マジかよ!!」

「あのガキ……モンスターテイマーだったのか?」

「おい! ミートボーイさんに『ガキ』はマズいって!!」

「あ~あ、お前挽き肉確定だな?」

「い、嫌だァ! そんなの嫌だァァァァッ!!」

「あ、逃げちゃった……冗談でも今のはちょっとかわいそうだったんじゃない?」

「ハハッ! そうだったか?」

「……なあ? 本当に冗談で済むか? もしかしてミートボーイの奴……常に新鮮な肉を食べたいあまり、生きたままオークを連れ歩くことにしたってことは……ないよな?」

「……ッ!! ……ま、まっさかぁ……ねぇ?」

「とはいうものの、奴の新鮮な肉への執着は常軌を逸していたからな……あながちないとも言い切れんぞ?」

「ミ、ミートマスター……奴はもう、ミートボーイじゃない! ミートマスターだッ!!」

「ハァ? なんだそりゃ……」

「なるほど、『肉の主』ということか……」

「なんだろう……聞きようによっては冒険物語に出てくるボスキャラのようにも聞こえてくるんだけど……でもなんか違うんだよなぁ……」


 あ、なんか僕の二つ名が増えたっぽい……

 でもなぁ……なんでそっちの方向にいっちゃうかなぁ?

 あと、僕はもう、オーク肉を食べるのはやめることにしたんだからね?

 変な勘違いはやめてくれないかな?

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