第88話 スーパーハード

『まだまだですぞ! あの日のノクト殿はどこに行かれましたか!?』

「くぅっ! それならぁッ!!」

『まだ甘いです! もっともっと! ノクト殿の全てを出し切るのです!!』

「うぉぉぉぉぉッ!!」


 一晩過ぎて、早朝の剣術稽古をしているところ。

 そしてルクルゴさんはやはり、あの日の手合わせでいくらか手加減していたのだろうと思う。

 だって、絶対にあのときの僕より、強くなってるはずだからね!

 僕が振る剣の鋭さとか、自分でも明らかに増してるって思うぐらいなんだから!!

 それなのに、ルクルゴさんに軽くあしらわれてしまっているんだ……悔しいッ!!

 そんな感じで、しばらくルクルゴさん相手に剣を振り続ける。


「ハァ……フゥ……まだ、まだぁ……」

『……ふむ、そろそろ限界といったところでしょうか?』

「よし、いったん休憩にしよう。そして、ノクト君に回復魔法をかけてやるから、ノクト君も身体から余計な力を抜くように……」

「はぁ……い、ありが……とう……ざい……ます」


 そうして、レンカさんの手のひらから回復魔法の光が発せられ、それが僕の全身を満たす。

 温かい……

 この幸せな温もりを……ずっとずっと感じていたい……

 ああ、なんだか意識が……ふわふわと……遠のい……て、いく……よう……な……


「……おっと、ノクト君……回復したらすぐ私と模擬戦を始めるから、寝てくれるなよ?」

「は、はぁ……い」


 とはいえ、この温かさは眠りを誘う……うぅ……耐えるんだ僕! 眠っちゃ駄目だ!!


「……よし、これでじゅうぶんだろう……さて、ノクト君、始めようか?」

「……」


 ……ッ! あぶないあぶない、やっぱり眠りそうになってた。

 そこで頬を数回叩き、眠気を覚まそうとする。


「……よし! お願いします!!」

「うむ……では、行くぞ!」


 そしてレンカさんも、今までの稽古よりさらに剣のスピードを上げてきた。


「うっ……くっ……」

「オーガに勝ちたいのであれば、これぐらいの攻撃など簡単に捌けなくてはな!」

「……はいッ!!」


 確かに、あの日父さんと戦っていたオーガの攻撃はこんなもんじゃなかったはず……


「まだ反応が遅れているぞ? もっと早くだ!」

「もっと早く……はい!!」

「だが、早さを意識し過ぎるあまり剣が軽くなってもいかんぞ!?」

「……うぐっ……はい!!」


 昨日の約束どおりなんだけど、スーパーハード……

 まあ、レンカさんも基本的に超武闘派だもんね……


「どうした? 集中力が欠けてきたか!?」

「……いえッ!!」


 心の中を読まれているのではないだろうか……いやいや、そんなこといってる場合じゃない!

 もっともっと気合を入れなきゃ、申し訳ないぞ!!


「……おりやぁッ! だぁッ!!」

「今の突き自体は悪くなかったが……その直後に意識が停滞していたな? 攻撃は繰り出しただけで終わりではないぞ! 相手の反撃がくるかもしれないし、前後のつながりを忘れちゃいけない!!」

「……はいッ!!」


 こうして、レンカさんからもありがたく指導を受ける。


『……お2人とも、そろそろ時間ですので、今日のところはそこまでと致しましょう』

「おお、もうそんなに経っていたか……では、ここで終わりとするか」

「……ハァ……ハァ……」

「……ふむ、もう一度回復魔法をかけてやったほうがいいようだな?」

「……ハァ……ハァ……りがと……うご……い……ます……」

「ふふっ……今日は少し飛ばし過ぎたかな?」

『確かにそうかもしれません……ですが、ノクト殿もよくレンカ殿に食らいついておりました、さすがです』

「……そ…………すか……嬉し…………す」

「おやおや……また眠ってしまいそうだな?」

『出発の時間までいくらか余裕もありますし、このまま寝かせてあげてもよろしいのでは?』

「うむ、そうだな」


 ……僕の意識がもったのは、そこまでだった……あとは……まどろみの……中へ……


………………

…………

……


 ……ガラガラと聞こえる音、そして振動によって目が覚めた。


「……あれ? えっ? ここは?」

「おお、起きたかノクト君……いやぁ、起こそうかとも思ったのだが、君があまりにも気持ちよさそうに眠っていたからな……それで街はとうに出発して、今は馬車の中というわけだ」

「ああ、そうでしたか……って、すいません! 失礼しました!!」


 僕の頭が何か柔らかいものに乗せられているなと思っていたら、レンカさんの膝の上だった!!

 そのため、慌てて起き上がった。


「いや、別にそのままでも構わなかったのだがな?」

「いえいえ、そんなわけには……」

『ノクト殿……そうやって甘えられるときには、甘えておくものですぞ?』

「えぇっ……ルクルゴさん?」

『まあ、私ぐらいの年代になると、そのような機会もなかなかありませんからなぁ、ハッハッハッ!』

「う、う~ん……」

「それでノクト君、次の休憩ポイントで食事としようじゃないか……それまでまだしばらくあるから、もう一眠りするといい……さあ、おいで」

「えっ……?」


 その瞬間、僕の頭はレンカさんの膝の上だった。

 ……そしてレンカさんは「もう一眠りするといい」とかおっしゃったけど……ドキドキして眠れそうもないよ。

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