第87話 特別強い感情を持っているようだな?

「……というわけだ」

「はは……そうだったんですね……」

『まあ、我々オーク族にも、似たようなことをする者が少なからずおりますからなぁ……私もサットワーズの長を務めるようになって規律を厳しくするなどしましたが、それでもなかなか守らない者もおりましたし……』


 ……そう話すルクルゴさんの表情に疲れの色が見えた。

 上に立つ者として、いろいろな苦労があったんだろうなぁって感じ。


「ルクルゴさん、僕にはその全てを想像できるわけもありませんが……お疲れ様でございます」

『ノクト殿、そんな畏まらないでくだされ』

「ふふっ、ルクルゴも部下には手を焼いていたというわけか……まあ、そう考えると、今のほうが気楽かもしれんな?」

「気楽……そうだと僕としては嬉しいですけど」

『ええ、今の私は気楽ですよ………………長老の遺した予言が気になるのも確かですが……』


 ……最後にそう小さく呟いたルクルゴさんは、どこか遠い目をしていた。

 予言か……ホント僕には実感ないんだけどねぇ……

 でも、ルクルゴさんほどの実力者がそれを信じて僕と行動を共にする決断をしたんだ、あまり軽く考えるわけにもいかないだろうね。

 ……それでまあ、話題が途中でサットワーズのことに移ったりもしたが、メインはついさっき目の前で起こった出来事について、レンカさんから軽く説明してもらっていたって感じだ。

 とはいえ、僕にも多少は察するものがあったけどね……

 それでどうやら、この宿屋には「女オーガ」と呼ばれる警備員の女性がいるってウワサが冒険者を中心に広まっていたらしい……この街に来て日の浅い僕は知らなかったけど。

 そして、その女オーガと呼ばれる警備員の女性が、さっき見たメチャクチャ体格のいいお姉さんだったんだろうね……うん、さすがに僕が見た本物のオーガほどじゃないけど、マジでデカかったもんね……

 でもなぁ、女オーガって呼ぶには顔が美人過ぎる気がしたけどね……

 だって! オーガなんて本当に醜悪そのものなんだからさ!!

 そう思ったとき、僕の心に住み着いたあのオーガがニヤニヤし始めたのが実に腹立たしい……いつか斬り捨ててやるからな! 待ってろよ!!


「……ノクト君、少し落ち着こうか」

「あ……これは、すいません……」

「うむ……だが、ノクト君はオーガに対して特別強い感情を持っているようだな?」

「ええ、まあ……」

『そういえば……先ほどもオーガと聞いて、強く反応していましたな?』

「はい、そうですね……」


 正式にパーティーを組んだわけだし、この際だからモンスターに村が襲われて壊滅したって話をちゃんとしとくかな。

 というわけで、あの日あったことを話し、打倒オーガを目標としている話なんかも2人にした。


「そうか……ホツエン村と聞いて、ある程度想像はしていたが……なるほどな……」

『壊滅……ですか……』


 僕の話を聞いて、沈痛な面持ちの2人。

 特にルクルゴさんは、つい最近まで集落の長だったわけだから、その脳内にはサットワーズのみんなのことが浮かんでいるのかもしれない。

 しかも、他種族にサットワーズが襲われると予言されていたわけだし……


「そしてオーガか……なかなか険しい道のりになりそうだな?」

『我々オーク族も、オーガ族には絶対に手を出さないように……いや、接点すらないように気を付けていましたからなぁ……まあ、とはいっても、彼らが縄張りとしているのは森のもっともっと奥のほうで、彼らからこっちに来ない限り基本的に出くわすことなどありませんでしたが……』


 やっぱり、実力者の2人からしてもオーガは別格なんだろうね。

 でもまあ、そんなこと関係なく、いつか斬り捨ててやると思っているけどね!!


「……ふむ、ノクト君がそこまで強い決意を固めているのなら、私も協力しようじゃないか」

『微力ながら、私も力をお貸しします』

「レンカさん、ルクルゴさん……ありがとうございます!!」

「よし、それじゃあ明日の稽古からは、さらにレベルを上げていくとしよう……ノクト君の成長速度なら、じゅうぶんやっていけるだろうしな」

『オーガ打倒に燃えているノクト殿を見ていると、なんだか私も若い頃のギラつきを思い出してきました……であれば、私もこれからもうひと成長させていただくとしましよう!』

「おぉっ、それは凄い! 改めて2人とも、よろしくお願いします!!」


 こうして、僕らのパーティーは一段と団結が強まったのではないだろうか。


「……あの子供、なかなかに壮絶な経験をしているみたいだな」

「そうだな……そして、あのオークジェネラルをテイムできた理由も分かった気がする……」

「なんつーか、見えてるもんが違うんだろうな……」

「さっきのバカみたいな人生を送る奴がいる中で、そのすぐ近くにはああいう凄まじい人生の奴もいる……まったくもって人生っていうのは、いろいろなんだなぁ……」

「ああ、まったくだ……」

「……しっかし、さすがにオーガってのは無謀過ぎやしないか?」

「いや、それはどうかな? なんだか俺、あの子供ならやるんじゃないかって気がしてきたぞ?」

「オーガを狩れる冒険者か……Bランクぐらいいくか?」

「パーティー単位でなら、それぐらいでいいかもしれんが……あの子供は単独で狩るつもりらしいぞ? Aは堅いんじゃないか?」

「Aランクだとォ!? マジかよ……」

「まあ、それには政治的なものも絡んでくるだろうしな……まれに低ランクで異常に強い奴とかもいるから、ランクだけで一概にはいえんよ」

「まあ、C辺りからは魔力必須だし、そうなるとやっぱ、お貴族様たちの世界になっちまうよなぁ……」

「だなぁ……あ~あ、俺も魔力が欲しかったなぁ……」


 ホツエン村の話をしたのが影響しているのだろう……冒険者たちがお貴族様に憧れていたり、魔力を欲していたりするのを耳にしたのがきっかけとなって、同じようにそれらに憧れていたジギムのことが気になってきた。

 ジギム……君は今どこでなにをしてるんだい?

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