第86話 聞いたことなかったのかね?
モンスターオッケーの宿屋にて、夕食時がやって来ました!
というわけで、食堂に降りてきている。
「……うむ、この宿屋の料理もなかなか悪くないな」
「はい、とっても美味しいです!」
『お2人と共に行動を始めて、多少慣れてきたつもりではありますが……やはり、人間族の食事は我々オーク族よりも繊細で手が込んでおりますな』
「……ん? ルクルゴ、口に合わなかったか?」
「あ、すいません、ルクルゴさん……つい、自分の味覚を基準に考えてしまってました……」
『いえいえ、そういうわけではありません。確かに食べ慣れてはおりませんが、かといって美味しくないわけではないのです……むしろ、この食事に慣れたら、オーク族の食事には戻れないかもしれないと考えていたところですよ』
「ほう、不味くはないと……それはよかった」
レンカさんは、ルクルゴさんの言葉を完璧じゃないけど、雰囲気でだいたい理解しているようだ。
また、ルクルゴさんもある程度理解していることから、僕が全てをキッチリ通訳しなくても、お互いの意思疎通が割とスムーズに出来ている。
そのため、僕は所々で補足を入れるぐらいでいいって感じだね。
「でも、オーク族の食事に戻れなくなるですか……それはちょっと大変ですね……それならいっそ、サットワーズのみんなに人間族の料理方法を伝えてみますか?」
『そうですなぁ……そこまで根気のある者がいれば、あるいは……ですが、おそらくだいたいの者は『面倒だ』といって、さほど手を加えず食べてしまうでしょうなぁ……』
まあね、サットワーズにいたオークたちの様子を思い返してみると、狩ってきたやつをそのまま丸かじりっていうのが多かったからなぁ。
いや、その中で一部のオークは、火を起こして焼いて食べたりしているのもいたし、一応保存食用に干したりとかもしてるみたいだったけどね。
「ふむ、オークの調理師か……実現すれば、話題性バツグンといったところかな?」
「あははっ、そうですね! なんだったらルクルゴさん、挑戦してみますか?」
『えっ? 私がですか? ま、まあ、そのうち……機会があれば……ですかね?』
「う~ん、まあ、これからしばらくは人間族の生活スタイルに慣れるので忙しいでしょうからねぇ……」
「その点については、私とノクト君でフォローしていくから、ルクルゴも焦らなくていいからな?」
『お2人の心遣い、痛み入ります』
とりあえず、いつかルクルゴさんが本格的に料理に挑戦する姿を見れるかもしれない……そのときを今から楽しみにしておくとしよう。
「……お、おい……あれって、オークだよな?」
「ああ、間違いなく……だが、ここはモンスターテイマーもよく利用している宿屋だからな……」
「いやいや、そうはいうけどオークだよ? しかも、見た感じ普通じゃないよ!?」
「……まさかとは思うが……ジェネラル?」
「……ッ!? それって……おい、ウソだろ……?」
「……ん? ああ、あのオークジェネラルならさっき冒険者ギルドで見たぜ? あの同じテーブルを囲んでる子供がいるだろ? アイツがテイムしたんだってさ」
「マジかよ……」
「つーかよ、いくらテイムしたからって、あんな楽しそうにモンスターと談笑できるもんなんか?」
「う~ん、それはどうなんだろうな? 少なくとも俺が見たことあるモンスターテイマーは、あんな感じでポンポン会話できてなかったぞ?」
「……だよな?」
「い、いや……実際のところ、あれは会話になってなかったりするんじゃないか? だって、あのオーク……ただ鳴き声を上げてるだけだぞ?」
「それにしては、テンポよく会話しているように見えるけどな……」
……うん? 僕たちの会話が気になっちゃう感じかな?
そうだよ、僕たち普通に会話してるよ?
「ギャァァァァァァッ!!」
そのとき天井の向こうから、おそらく男のものであろう叫び声が聞こえてきた。
「……えっ? 何が起こったの?」
『あの悲痛な叫び声……この上ない絶望を感じましたぞ?』
「やれやれ、愚か者がいたようだな……忠告を受けていただろうに……」
……忠告?
……って、ああ! さっきの!?
「おっと、どっかのバカ野郎が女部屋に忍び込もうとしやがったな?」
「どうやらそのようだな……しかし、よりにもよってこの宿屋でやろうとするとは……正気を疑うよ」
「だよな? あの女オーガのウワサ……聞いたことなかったのかね?」
オーガだって!?
「ん? どうした、ノクト君?」
「あ、いえ、オーガと聞こえたもので……」
『ノクト殿、この辺にオーガの気配などありませんぞ?』
「ああ、モンスターのオーガが本当にいるわけではないよ……おそらく女性専用フロアを警備している女性のことだろう……失礼な表現だとは思うがな……」
「そ、そうでしたね……確かにオーガの気配はありませんでした……お騒がせしましたね」
『いえいえ、お気になさらず』
「……ノクト君、本当に心配いらないからな?」
「はい、あはは……」
いやぁ、いかんね……オーガと聞いて、つい過剰に反応しちゃう。
そんな感じで、僕が無駄にワナワナしそうになっていたあいだにも状況は進んでいたようで……
「う、うぅっ……俺の……俺の……ぉぉ……っ……」
なんか、メチャクチャ体格のいいお姉さんに首根っこつかまれた男がグズグズと泣きながら運ばれているところを目にした。
「あ~あ、カワイソウにあの野郎……もう使い物になんないだろうな……」
「まあ、ポーションが効けばいいけどね?」
「もしくは回復魔法をかけてもらうしかないだろうが……それはそれで惨め過ぎてな……」
「とはいえ、そのどちらも安くはないからなぁ……」
「しっかし、見たところあの男も冒険者だろ? それなのに、この宿屋のウワサっていう情報収集を怠るとは……冒険者失格じゃないか?」
「あるいは……お宝を求めて、最難関のダンジョンに挑戦したってところかね?」
「アホな冒険しちゃったねぇ……」
……さっき、受付のオッチャンが物凄く真剣に忠告してきた理由が分かった気がした。
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