第85話 モンスターと一緒
ギルドマスターの執務室をあとにして、冒険者ギルドの建物内を出口に向かって歩く。
「マジだ……オークジェネラルだ……」
「どっかのバカがホラ吹いてんのかと思ってたけど……本当だったか……」
「ああ……信じらんねぇよな?」
「ついでにもう一つ信じらんねぇことをいうと……どうやら、あのガキがオークジェネラルをテイムしてるらしいぜ?」
「は!? じ、冗談……だよな?」
「……あの女がテイムしてるんじゃないのか?」
「そうそう、あの女……魔力持ちなんだろ? よく分かんねぇけど、モンスターにいうことを聞かせられる魔法とか、そういうのがあんじゃねぇのか?」
「いや、さっきこの耳で聞いたからな……間違いなく、あのガキがテイムしている」
「ひぇ~っ、あんな子供のうちから、あのクソヤバいオークジェネラルをテイムできるとか……どんな天才野郎だよ……」
「どんなって……あんな感じ?」
「いや、そういうことじゃなくてさ!」
「ハハハ、悪い悪い」
「しっかし、世の中にはスゲェ奴もいるもんだなぁ……」
「ああ、まったくだ……」
「とりあえず、刺激しねぇようにしとこうぜ? だから、『ガキ』とかいうのも控えといたほうがいいな」
「お、そうだな……」
……なんて冒険者たちの会話が聞こえてくる。
「まあ、モンスターテイマーは珍しいからな、彼らが騒ぎたくなる気持ちも分からんではないな」
「そ、そうみたいですね……」
『……彼らがノクト殿に向ける畏怖の目……少し懐かしくも感じてしまいますなぁ』
「そうなんですか?」
『ええ、私はそれなりに才能に恵まれていたのか、最初はただのオークでしかなかったのに、いつのまにか周囲の者より強くなっておりましてな……そのとき同族の者たちから向けられた目と、彼らの目が同じなのです』
「へぇ、そうだったんですね……でも、つい先日僕が見た、ゴージュさんたちがルクルゴさんに向けていた眼差し……あれはまじりっけなしに尊敬一色に見えたので、あんまり恐れおののいてるようには感じませんでした」
『フフッ、あの頃に比べれば、私も落ち着きましたからね……いやぁ、あの頃の私は若かった……特にナイトになる前など、うぬぼれ過ぎて自分より強い者などいないとすら思い込んでいましたからな……まったく、お恥ずかしい限りです』
「なるほど……ということは、僕も気を付けなければなりませんね……」
『ノクト殿ならば大丈夫だと思いますよ……それに、目の前にはレンカ殿という強者がいますからな、うぬぼれる暇などありますまい……また、ノクト殿が間違った方向に進みそうになれば、私もお諫め致しましょう』
「そうですね、僕には調子に乗っている暇はなさそうです……でも、もしそんなときがあったら、よろしくご指導のほどお願いします!」
『ええ、心得ました!』
「……ふむ、ノクト君が道を踏み外さないように……か? それなら、私もしっかりノクト君のことを見ておくとしよう」
「え? あ、はい! ありがとうございます!!」
さすがレンカさんだ……もう、ほとんど通訳が必要なさそうって感じだね。
そんなこんなで、冒険者ギルドの建物を出て宿屋へ向かう。
「……うむ、この宿屋で合っているようだ」
「へぇ、ここですか」
『お2人とも、私のために……かたじけない』
実は今日、テイムしたモンスターと一緒に泊まれる宿屋を冒険者ギルドで紹介してもらったのである。
まあ、普通の宿屋だと、なかなかモンスターと一緒ってわけにはいかないからね……
そして今、僕らが目の前にしている宿屋も、別にモンスターテイマー専用の宿とかそういうわけではない。
あんまり装飾とかに力を入れず、頑丈さを売りにした宿屋で、荒くれ者とかがちょっとぐらい暴れても大丈夫って感じのところらしい。
それで、モンスターとかも泊っていいよってことなんだって。
今の僕たちにとって、そういう姿勢の宿屋はありがたい限りだね。
というわけで、早速宿屋の中へ!
「……い、いらっしゃい」
あ、受付のオッチャン、ルクルゴさんを見てビックリしてるみたいだね。
さすがにモンスターオッケーでも、ルクルゴさんのインパクトには驚いてしまうようだ。
……おっと、そんなことノンビリ考えている場合じゃなかったね。
「男2名と女1名の2部屋でお願いします!」
「……すると、1人部屋のほうは女性専用フロアにしといたほうがいいか?」
「はい、お願いします!」
「分かった……」
こうして、僕がササッと手続きを進めちゃう!
そうじゃないと、レンカさんが同じ部屋にしようとしちゃうからね……
そして食事についてとかアレコレも決めて、支払いを済ませる。
「これが鍵だ……もちろん分かっていると思うが、女性専用フロアに男が立ち入ることはできない……もし、立ち入ろうとした場合……どうなっても知らんからな? また、モンスターだから決まりが分からなかったとかいうくだらん言い訳も通用しないからな? ……いいか、忠告したからな?」
「は、はい……肝に銘じておきます」
『この男、何やら急に妙な凄みを出し始めたな……何かあるのか?』
「あ、ルクルゴさん……えっとですね、僕たち男が立ち入ってはいけないフロアがあるので、その注意をしてくれたんですよ」
『なるほど、そうでしたか……では、私も気を付けると致しましょう』
「はい、そうしてください」
たぶんだけど、メッチャおっかない警備の人がいるんだろうなぁ……
とまあ、そんな感じで鍵を受け取り、部屋へ向かう。
また、女性専用フロアは上にあるので、レンカさんは僕たちと別れて階段をそのまま上がっていくのだった。
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