第82話 その説明も必要

 休憩タイムを終えて、僕たちはまた森の中を進む。

 いやぁ、それにしても……レンカさんと正式にパーティーを組むことになるなんてね!

 なんていうか……ドッキドキでワックワクだよ!!

 ……ッ! こんなにも僕が幸せ気分に浸っているときに、まったく無粋な奴らだなぁ……ま、仕方ないか。


「レンカさん、ルクルゴさん……」

「……うむ、前方にいるな」

『魔力を持つレンカ殿はともかくとして、この距離でモンスターの気配を感じ取るとは……さすがノクト殿ですな』

「いえいえ、それほどでも」


 ……といいつつ、褒められて悪い気はしない。

 それになんとなくだけど、ルクルゴさんとの手合わせを経て、僕の認識範囲がより広くなった気もするんだよね。


『フフッ、ノクト殿は謙遜される方ですなぁ……いや、それが人間族の特性なのかもしれませんな?』

「う~ん……人によるって感じですかねぇ? そこのところ、オーク族の場合はどうなんですか?」

『まあ、我々にも各自個性というものがありますが……比較的、褒められると調子に乗る者が多いですな』

「へぇ……そうなんですね?」


 まあ、見た目の印象的に、そんな気がしなくもないなって思っちゃう。

 だってねぇ……謙遜気味なオークより、自信満々なオークのほうがしっくりくるってもんだからさ。


『……まあ、それもナイトやマジシャンに進んだ辺りから徐々に落ち着いていきますがね……現に私がそうでしたから』

「ルクルゴさんがお調子者だったっていうのもなかなか想像が難しいですけど、そんな頃があったんですねぇ……そして、進化にはそういう効果もあったってことですか……なるほど」

「何やら面白そうな話をしているようだな? あとで私にも詳しく聞かせてくれ……といったところで、そろそろ意識を戦闘モードに切り替えようか……」

「はい、もう少しで接敵ですからね……そしてルクルゴさん……は既に準備万端のようですね」

『ええ、いつでも戦えますとも!』


 ……そして向かった先には、ゴブリンの団体さんがいらっしゃった。

 う~ん、ざっと30体ほどかな?

 それから、一丁前にナイトやマジシャンもいるじゃないか……

 とはいったものの、ちょっとぐらい数が多く上位種までいたとしても、今の僕たちにとってさほどの脅威でもない。

 極端な話、レンカさんが範囲広めな魔法を撃てば一発だし、なんだったら僕一人でも斬って回るのに多少時間がかかるけど、全滅させること自体は可能だろうからね。

 それに加えて、特別強いオークジェネラルのルクルゴさんまでいるんだからさ……もうね、作物の収穫って感じだよ。

 ……そんなわけで、3人でガンガンゴブリンを狩っていって、いくらも経たないうちに戦闘終了。

 そして、回収。


『……なるほど、それで左耳のないゴブリンの死骸が森に転がっておったというわけですか』

「はい、そういうことになりますね」


 冒険者ギルドでは、ゴブリンの討伐証明部位が左耳だって話をルクルゴさんにした。

 もっとも、冒険者ギルドという存在についても知らなかったので、その説明も必要だった。

 ……そのため、どっちかっていうと戦闘より説明のほうが時間的に長かったかもしれない。


『それにしても、まじっくばっぐといいましたか、本当に便利な袋ですなぁ……あのままゴブリンの左耳を切り取っていたら、どれだけ手間だったことか……あんなこと、我々オーク族の……それも自制心のない若手なんかだと、途中でイライラして頭から丸かじりしていたでしょうなぁ……』

「ま、まあ、人間族でも似たようなものだと思いますよ……報酬も少ないので、ランクが高くなっていけば何もせずそのまま放置していく人も増えるでしょうし……」

『ふむ……森の中でゴブリンにも勝てない弱き者が飢えずに済んでいるのは、そういった人間族が放置していってくれた死骸に助けられている部分もあるかもしれませんなぁ……』

「あ、そういうことなら、今回も放置したほうがよかったですか?」

『いやいや、そこまで気を遣うこともありませんよ……彼らとて、そればかりに頼り切っているわけでもないでしょうし』

「そうですか」


 まあ、餌やりをしたいわけじゃないもんね……

 そんな会話をしつつゴブリンの回収を終え、再び街に向けて歩き出す。

 ちなみに、レンカさんに僕とルクルゴさんがどんな話をしていたか説明すると、僕の発言から想像してだいたいの内容を理解できていたみたいだ!

 うん、やっぱりレンカさんは凄いや!!

 ……とまあ、こんな感じでモンスターとの戦闘もときどきこなしながら森の中を進み、ついに街に戻ってきた。

 ただ、やっぱりというべきか……


「……む! オーク……だと!?」

「ま、街に入るのはちょっと待ってくれ……おい、隊長を読んで来い! 至急だ!!」

「は、はいっ!!」


 門番をしている衛兵さんたちに止められてしまった。

 そして、隊長さんとやらを大急ぎで呼びに行く衛兵さん。


「ノクト君、そう心配することもないさ……ルクルゴはテイムの証も首から下げていることだしな」

「そ、そうですか……」


 レンカさんがそういうのなら大丈夫なんだろうとは思うけど……でもやっぱり、心配な気持ちを抑え切ることは難しいよね……


『ノクト殿、レンカ殿……問題が大きいようであれば、私は街に入らなくても構いませんよ?』

「レンカさんが心配ないといっているので、たぶん大丈夫だと思います……」

『そうですか……』

「ん? ああ、大丈夫だから、ルクルゴも堂々としていればいいさ」


 う~ん、もしかしたら……ここでレンカさんのお貴族様パワーが発揮されちゃうのかな……?

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