第80話 自然の成り行きに任せる

 移転先に到着し、その様子を眺めてみる。

 一応、オークたちも予言を半信半疑ながらも尊重し、移転先を見つけたあと多少は手を入れてきたらしい。

 そのため、まったくの手付かずという状態でもなく、最低限の生活ならすぐにでも始められそうって感じだ。

 また、レンカさんが地図と照らし合わせながら、人間族の支配領域との距離を確認している。


「……ふむ、これだけ離れていれば、おそらく問題ないだろう……だが、本当にここで大丈夫なのか? 日常的に強いモンスターと戦うことになりそうだぞ?」


 レンカさんの危惧も当然というべきで、もともとの場所に比べてかなり奥深いところまで入ってきているんだ。

 まあ、僕らの常識として、森の奥に行けば行くほど強力なモンスターと出会うことになるって感じだからね。

 そんなようなことを僕がルクルゴさんに伝えて、オークたちの返答をルクルゴさんから僕に、そしてレンカさんへっていう流れで意思疎通を図っている。

 それで返答内容としては、なんとか大丈夫ってことらしい。

 というのが、モンスターの生息状況的にここら辺がゴージュさんたちが勝てるギリギリのラインなんだって。

 ただし、単独では勝てない可能性が高いらしく、常に数的優位を確保して戦わないとならないようだ。

 まあ、だからこそ、ここまでの道中でもゴージュさんが部隊を率いて、迫り来るモンスターに対応していたんだろうね。

 そして、あの連携を見ていて、個人的に凄いなぁって感心もしていた。

 そのため、仮にゴージュさんたちが冒険者登録をしたら、結構いいランクまで行くんじゃないかなって思う。

 というわけで、ここより奥に行こうとするとマズいけど、その手前までならどうにか生活していくことができるようだ。

 そういったオークたちの返答を、レンカさんに伝えた。


「……そうか、分かった」


 まあ、レンカさんも既に、ここにいるオークたちを敵と認識していないみたいだ。

 とはいえ、僕とルクルゴさん以外は言葉が通じないからね……この先、人間族とオーク族の共存っていうのは難しいだろう。

 それに、僕たちだってずっとここにいるわけにもいかないからさ……

 そのため、この距離感を保ってお互いに刺激し合わないようにするって感じで落ち着くんじゃないかと思う……そのための移転でもあったわけだし。

 そんなことを考えているのが顔に出ていたのだろうか……


「……ノクト君、ここに人間族の誰かが来て争うことになるんじゃないかと心配しているなら、そこまで気にする必要はないと思うぞ?」

「えっと、そうなんですか?」

「ああ、森のこちら側は私たち人間族にとって特にめぼしいものもなさそうだからな……領軍はもちろん、冒険者たちもわざわざ無理をして入って来ることもないだろうさ」

「そうですか……いわれてみれば確かに、ここまで特別珍しい動植物も見ていませんし、ダンジョンなんかもなさそうですからね……」

「うむ、そのとおりだ……まあ、それでも、ここに人間族が一切来ないというわけでもないだろうが……そのときはそのとき、そもそも人間族同士で争うことだってあるわけだからな……自然の成り行きに任せるしかないだろう」

「はい、そうですね」


 ある種ドライに聞こえるかもしれないけど、結局そういうことなんだろうね。

 そして、これからルクルゴさんと一緒ってことで、僕自身微妙にオークに肩入れした意識になっていたみたいなところもあって、人間族とオーク族に争ってほしくないとか考えていた……これまで「お肉! お肉!!」と喜んでオークを狩っていた僕なのにね……

 ま! レンカさんのいうとおり、自然の成り行きに任せよう!!

 僕がほかの人の行動を決めることなんてできないしさ!


「……まあ、私のツテを使って、なるべくこの地を刺激しないよう冒険者ギルドはもちろん、領主にも話が行くようにしておくさ」


 あ、やっぱりレンカさん……僕の思ったとおり、お貴族様なんだね……

 まあ、魔法を使える時点で、ほぼ確定だったけどさ……

 それに、超高性能なマジックバッグとかも持っているし……

 とはいえ、レンカさんはお貴族様を相手にするような接し方を求めていないようなので、普通に冒険者として接している……まあ、そもそもとして、お貴族様が満足するような行儀作法を平民の僕ができるとも思えないけどね。

 そんなこんなで、もう日暮れが近い。

 さすがに時間的にも体力的にも、今から街へ向けて出発するのもどうかということで、新サットワーズで一泊することにした。

 もちろん、宿屋なんかがあるわけもないので、テントで寝泊まりだ……そして今日も、レンカさんのテントへのお誘いを丁重に断った……

 うぅ……心がマジでグラッグラだったよ……それはそれとして……


「そうだ、街に戻ったら、ルクルゴさん用のテントを買わなきゃですね!」

『いやいや、私は木に寄りかかって眠るだけでじゅうぶんですよ?』


 あらやだ、ルクルゴさんったら……ワイルドさんなんだからっ!


「まあ、そこまで森の奥深くでなければ、それでもいいかもしれませんけど……高性能なやつだと障壁魔法とかも展開できるので、やっぱり安心度が違いますよ? それにいつかはダンジョンに挑戦とかもしてみたいですし……」

『そうですか……ノクト殿がそこまでいうなら、いずれ入手するということに致しましょうか……』

「はい、そうしましょう!」


 ……みたいなことをルクルゴさんと話しながら、寝るまでの時間を過ごすのだった。

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