第78話 正式に引き継がれた

 僕とルクルゴさんの手合わせ、そして手合わせのあと僕が眠っているあいだにそこそこ時間が過ぎていた。

 そのため、この日は森で一泊することにした。

 ……しかもだよ!? サットワーズっていう、ルクルゴさんたちが築いた集落でお泊りなんだ!!

 いやぁ、オークの集落で一泊した冒険者って……もしかしたら、僕とレンカさんが初めてだったりするんじゃない!?

 ……まあね、たぶんだけど跡地で野営っていうことは、それなりにあるんじゃないかと思うよ?

 でも、目の前でオークたちが普通に生活を営んでる中でお泊りっていうのは! きっと激レアな体験に違いないと思う!!

 ただ、さすがにオークが宿屋を経営しているなんてことはなかったので、集落内の空いてる土地にテントを張って寝るって感じだった。

 それから、オークたちが見守る中、集落の長がルクルゴさんからゴージュさんに正式に引き継がれた。

 まあ、人間族でも領主様の代替わりとかあるし……そんな感じだね。

 しかしながら……本当にいいのかなって思わなくもない……

 だって、予言の子とかいうけど、僕はお貴族様でもなんでもない、ただの平民の子だからね……

 正直なことをいえば、いまだに人選ミスなんじゃないかっていう気がしちゃう。

 とはいえ、ルクルゴさんの覚悟を見せられると、それを口に出すわけにはいかないよね……ははは……はは……はぁ……どうしてこうなった!?


 そんなこんなで、その日は眠りに就き、夜が明ける。

 そして場所がオークの集落だからといって、僕の日課は変わらない。

 もちろん! 早朝の剣術稽古だ!!

 ただし、集落の移転準備で忙しそうにしているオークたちの邪魔をするわけにはいかないので、隅っこのほうでおとなしく剣を振るって感じ。


「……うむ、今日も剣術の稽古とは感心だな!」

「レンカさん! おはようございます!!」


 ちなみに、レンカさんと同じテントで寝るなんてことはしていない。

 そこはまあ……ね? 僕にだって、それなりに分別ってもんがあるからさ……

 ただ、やっぱりレンカさんは僕を一人前の男と認識していないようで……レンカさんの所有するテントで一緒に寝泊りするよういってきたんだ……

 これまでも宿屋に泊まる際、毎度苦労させられているけど……断る気持ちがグラついてしょうがなかったね……

 あと、レンカさんのテントのほうが高性能だったし……

 い、いや、僕のテントだって! ハイヤン魔道具店で買った、おニューでイケてるテントなんだけどね!!

 このことについて、先輩冒険者の男女混合パーティーでは、同じテントで寝泊りすることも割と普通にあるらしい……

 とはいっても、それは夫婦とか恋仲……そうでなくても、長いあいだ共に活動してきて築き上げた信頼関係あってのことだったりするだろうからさ……

 ……なんてことを頭の片隅で考えてみたり。


「それにしても……やはり昨日のノクト君は凄かったな……」

「えっと……昨日もそんなこといってましたよね? 残念ながら、僕はあんまり覚えていないんですけど……」

「ああ、確かに序盤から中盤にかけては苦戦していたようだが、終盤が凄かった……どこからそんな力が湧いてくるのかと思うぐらいで、ルクルゴも圧倒されていたぞ?」

「えぇ~っ!? まっさかぁ……ルクルゴさんが重傷を負ったってこと自体信じられないっていうのに……」


 まあ、ルクルゴさんの鎧が壊れていたから、事実ではあるんだろうけどさ……


『おお、ノクト殿にレンカ殿……朝から鍛錬とは、さすがですな!』

「おはようございます、ルクルゴさん!」

「おはよう……伝わるかは分からんが……」


 そこに、ルクルゴさんも登場。

 そして……あっ! 鎧を装備してる!?

 ああ、でも……昨日装備してたやつとか、ゴージュさんのピッカピカな鎧に比べたら、ちょっと微妙な感じがするね……


『……ん? ああ、この鎧ですかな? いやぁ、愛用の物が昨日壊れてしまいましたからなぁ……とりあえずの間に合わせといったところですよ』

「あ、そうなんですね……なんか、すいません」

『いやいや、私が求めてのこと、ノクト殿が気に病むことではありませんよ! ワッハッハッ!!』

「はい……どうも……」


 なんか、ルクルゴさん……昨日ゴージュさんに集落の長の立場を譲ったあとぐらいから、こんなふうにしゃべり方が変わったんだよね……

 おそらく年上だろうし、出会ったときのしゃべり方のままでいいのでは……と思ったんだけど、あれは集落の長という立場に合わせて使っていただけで、実はこっちが本来のしゃべり方らしい……マジか……

 というか、それをいうなら、主となったのだから、僕が敬語を使うのもルクルゴさん的にはイマイチらしいし……

 でも、僕としてはこのスタイルのほうがしっくりくるからね、仕方ないね……というわけで、我慢してちょうだい。

 そして2人と1体……いや、いちいち表現を変えるのは面倒なので、3人で早朝の剣術稽古をした。

 この際、ルクルゴさんはオークたちの移転準備を手伝わなくていいのかって話だけど、これから集落を離れる身としては、あまり出しゃばるのもどうかって感じらしい。

 それに、ゴージュさんを頂点とした新体制が始まっているわけだからね。

 とまあ、こうしてオークの集落で朝の時間を過ごしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る