第74話 限界いっぱいまで引き出してみるんだ!!

 戦闘開始の合図から、僕は一気に距離を詰め、上段から剣を振り下ろす。


「セイヤッ!」

『……フンッ! 思い切りのいい踏み込みだ、いいぞ、もっと見せてくれ!!』


 そんな僕の一振りをルクルゴさんは、その巨体に見合った大剣で余裕たっぷりに受け止める。

 でも、その一振りだけで終わりじゃない!

 そこからさらに、連続で剣を振る!!


「タァッ! トォッ!!」

『うむ、うむ、気持ちの乗ったいい剣だ……だが、その程度ではないはずだ! もっと見せてくれ!!』


 あとのことは全てレンカさんに任せればいい……そう思って、最初っから全力全開で斬り込んでいる。

 しかしながら、僕の振るった剣、その全てがルクルゴさんに上手く受け流されているって感じだ。

 僕が今まで狩ってきたオークたちなら、この時点で命はなかったはず。

 それはもちろん並のオークだけではなく、ナイトやマジシャンなどの上位種でも同じだ。

 ……なるほどね、確かに街にいた冒険者たちが震えあがっていただけあるよ。

 彼らのいうとおり、ルクルゴさんは強い……いや、強過ぎるというべきだろうか。

 正直、オークジェネラルといったところで、ナイトやマジシャンと比較してそう極端に強いわけではないだろうと考えていた。

 ……いや、実際のところ、そうなんじゃないかと思う。

 なぜなら、冒険者ギルドの図書室で読んだ資料や、ほかの冒険者から聞いた話では、ナイトやマジシャンを苦もなく倒せるレベルなら、じゅうぶん戦えるランクの強さって感じの評価だったからね。

 とはいえ、もしかしたらルクルゴさんは、オークジェネラルの中でもユニーク個体の可能性がある……というか、たぶんそうだろう。

 それかもしくは……キングだったりするんじゃない? エンペラーだったとしても驚かないよ?

 だからこそ、これだけ強い……そうでも思わなければ、僕の剣がここまで難なく受け流されているのが信じられない。


「セイッ! ヤァッ!!」

『並の戦士としてなら、それでじゅうぶん大したものだが、予言の子として考えれば、まだ足りない! もっと出せるはずだ!!』

「クッ! ……うぉぉぉぉッ!!」


 ……まだ足りないだって? いってくれるじゃないか!

 いいよ! そこまでいうなら、やったろうじゃんか!!


『そうだ! その調子だ!!』

「どりゃッ! だぁッ! だりゃぁぁぁぁぁッ!!」

『よしよし、その勢いだ! だが……声だけ元気でもいけないぞ?』


 ……そんなこと、僕だって分かってるよ!

 でも……ルクルゴさんはまだ余裕があるみたいだ……

 ……なら! もっと気合を入れていかなきゃ!!

 もっと速く! もっと強く!!

 全身のエネルギーを燃焼させろッ!!


『……うむ、そうだ! 限界いっぱいまで引き出してみるんだ!!』


 そうして、フルパワーでひたすら剣を振るい続ける。

 ……それにもかかわらず、ルクルゴさんは平然と僕の剣を受け続けている。


「………………ハァ…………ハァ……ハァッ!!」

『ふむ……あれだけ全力で剣を振っていれば、体力の消耗も激しかろう……だが、私はさらなる力を君に求める!!』

「…………ハァ……ハァ……」


 ……こうしてると、なんとなく……父さんとの剣術稽古を思い出すなぁ……

 あのときも、グッタリするほど剣を振らされてたっけ……

 もう、どんだけ振らせるんだよ!? って感じでさ……

 それで終わる頃には僕の体力は限界で、地面に転がってたよね……

 ……なんて思っていると……あれっ? なんだか……オークジェネラルのルクルゴさんが……全然似てないはずなのに、父さんに見えてきたよ……

 そうそう、このサービス過剰な感じ……懐かしいなぁ……

 フフッ……父さんとの剣術稽古……久しぶりだなぁ……

 ……よし! もっともっと僕の凄いところを見せて……父さんをビックリさせてあげなくちゃだね!!


「……フゥッ………………ハァァァァァァッ!!」

『……ほう! ついに底力を解放し始めたようだな!?』

「まだまだッ! ……僕は……こんなもんじゃ……ないよッ!!」


 なんだろう……息はそれなりに苦しいけど……

 でも、身体の奥底から……力が無限に湧いてくるような気がする……


『……いい! 実にいい!! ……私は、これを待っていたッ!!』

「……うぉぉぉぉぉッ!!」


 ……見てよ、父さん! これが今の僕だよ!!


『これが……予言の子……その、真の力か……』

「……ハァ……ハァ……父さん! ……これが…………僕の……ハァ……剣だぁぁぁぁッ!!」

『……ぐむぅッ!!』

「………………ハァ…………ハァ……」

『…………フゥ……やれやれ、私の剣が粉砕されてしまった………………グフゥッ!!』


 ……父さん、どうかな? ……僕の剣……あのときから、進歩してるかなぁ……?

 

「ノクト君!!」

「「「「ブゴッ! ブゴゴゴッ!!」」」」

「ブゴゴゴブゴ!!」


 レンカさんや、オークたちの慌てた声が聞こえたような気がするけど……よく分かんないや……

 なんか……全てが遠くの出来事っていうか、現実感がないっていうか……

 まあ、シンプルにいうと、眠い……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る