第73話 名乗るのがお決まりだからね!

「えぇとですね……彼らの長老が予言で『いずれ変革をもたらす人間族の子が我々の前に現れる』といっていたらしくて……そこで、あの貫禄いっぱいのオークが、それを僕のことだといっているんですよ……」

「ほう……『変革をもたらす人間族の子」か……なるほど、興味深い予言だな………………そういえば姉上も屋敷を出る前、探し物があるとかいっていたような気もするが……もしかすると、この予言と何か関係があるのだろうか……いや、しかし……」


 また、レンカさんがブツブツと自問自答を始めちゃったよ……

 それによって、ちょっと疎外感を受けてしまう……


「……でも、そうだな……初めて会ったときから、ノクト君には何かがあると直感めいたものを感じたのも確かだ……しかしだからといって、変革だと……? そこまでノクト君は重い運命を背負っているということなのか……? うぅむ……」


 レンカさん……お願いだから、帰ってきてください……

 そして一応僕たちは今、オークという種族のモンスターたちの前にいるわけですからね……

 まあ、あちらサイドもあんまり臨戦態勢って感じじゃないけどさ……


『……まあ、長老の予言とは関係なく、私の勘も君が特別な存在だと告げていたからな……』

「えぇっ……そんなバカな……僕は魔力持ちでもないですし……普通の平民冒険者のはずですけど……」

『フッ……そういうことは、意外と本人は気付かないものだ』

「……そんなものですかねぇ……?」

『……さて、君が予言の子だと確信はしているが……あえて試させてもらおうと思う』

「えっ? 試すって……何をするんですか?」


 あ、この展開……英雄物語で読んだことある!

 資質を問うとかいって問題を出されて答えるとか……あとは、力を示せってことで戦うとかね!!

 さあ、貫禄いっぱいのオークは、僕に何をさせたいっていうんだい!?


「……ノクト君、今度は彼と何を話していたんだ? 何やら『試す』と聞こえたが……」

「はい、どうやら僕が予言の子として本当に正しいかどうか、試したいらしいです」

「なるほど」

「そして試す内容は、これから発表してくれるみたいです」

「そうか……」

『……まあ、そこまで難題を課すつもりではないから安心したまえ……ただ、私と1対1で手合わせをしてくれればいい』


 ……それって、地味に難題では?

 一応あなた、近隣の街で尋常じゃないぐらいの強さだってウワサされるレベルですよ?

 ……とはいえ、面倒な問題に答えさせられるより、ずっとマシだし……むしろ、強者との戦闘経験を積めるだなんて、僕としては願ったり叶ったりって感じだけどさ!

 フフッ……いいね、滾ってきたよ……


「……それは嬉しい申し出ですね」

「その雰囲気……どうやら戦って実力を認めさせろといってきているようだな?」

「はい、僕とあの貫禄いっぱいのオーク、1対1で手合わせをしたいそうです」

「やはりか……正直、止めたいところではあるが……ノクト君のそんな顔を見てしまうと、無理には止められないな……分かった、手合わせしてみるといい」

「……いいんですか? 自分でもムチャなことしようとしてる自覚はありますよ?」

「ああ……それにといってはなんだが、ノクト君が本当は独力でオークジェネラルに挑戦したいと思っていたのはずっと前から気付いていたし……向こうもそれを望んでいるのなら……私の武人としての部分が『挑戦させてやるべきだ』と訴えている……でもな、ノクト君……危ないと思ったら、君の誇りなど諸々のことを無視して介入するからな、それだけは忘れないように」

「……分かりました、その点についてはレンカさんにお任せします……何よりその場合、そんな不甲斐ない戦いをお見せした僕が悪いのでしょうからね……」

「ふふっ……あとのことは全て私に任せるつもりで、余力を残さず思いっきり挑戦してくるといい」

「はい、そうさせていただきます……」

『……ふむ、そちらの話が付いたようだな?』

「はい、僕が情けない姿を見せたら、そこでストップをかけられるということになりまして……だからですね、混じりっけなしの本気でいかせてもらおうと思います!」

『……ほう? それは実に素晴らしい……もしかしたら君は、私の期待以上のものを見せてくれるかもしれないな?』

「ええ、その期待に応えて見せましょう……それから、手合わせの前に名を名乗っておきましょうか……僕は、ホツエン村のノクトです!」


 僕が読んだ英雄物語でも、こういう場面では名乗るのがお決まりだからね!

 それを思うと、なんかちょっとカッコいいなって気がしてきたよ!!


『ホツエン村のノクトか……うむ、いい名だ……では、私も名乗るとしよう……サットワーズを治めているルクルゴだ』


 へぇ……僕たちが掃討の依頼を出されていたオークの集落だけど、彼らの中ではサットワーズという名前がついていたんだね……


「サットワーズのルクルゴさんですね……分りました。それでは、お互い名乗り合ったところで、そろそろ始めましょうか……?」

『うむ』


 そうして、お互い向かい合う。


「では……いきます!!」

『よし! どこからでもかかってきたまえ!!』

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