第72話 予言の子

「ブゴッ、ブゴゴ、ブゴゴゴ?」

『ああ、間違いない、この人間族の子こそが、予言の子だ……』

「ブゴッ!」

「ブゴゴッ!?」

「ブゴゴ……ブゴゴゴ……」

「ブゴォッ! ブゴゴゴ!!」

「ブゴゴッ!! ……ブゴゴ、ブゴゴゴ……ブゴ?」

「「「「……ブゴ!」」」」

『……お前たちの信じられない気持ちも分からないではない……だが、実際にこうして言葉の通じる人間族の子が現れたのだ……長老の予言は正しかったと信じざるを得ないだろう……そしてゴージュ、皆をよくたしなめてくれた、大儀であったぞ』

「ブゴッ!」


 ごめん、分かんない……

 いや、なんとなく雰囲気的に何がいいたいのか感じ取ることはできるけどさ……

 でも、貫禄いっぱいのオーク以外の言葉は単なる鳴き声にしか聞こえない。

 そしてたぶん、あちらサイドも貫禄いっぱいのオーク以外は、僕の言葉を理解できていない気がする。

 だから、言葉の通じる人間族の子っていわれても、周りからしたら「ウソでしょ?」って感じになっちゃうと思うんだよね……


「ノクト君……彼らの会話も理解できているのかい?」

「えぇとですね……あの貫禄いっぱいのオークの言葉だけ、理解できます」

「ふむ、貫禄いっぱいのオークか……おそらくオークジェネラルだな……いや、しかし……ユニーク個体だとしても、そんなはずはないと思うのだが……やはり、ノクト君の能力か……」


 そうして、レンカさんもブツブツと思考の海に潜り始めたようだ……どうすんの、これ?


『ああ、済まない予言の子よ……』

「あの、すいません……その『予言の子』ってなんですか?」

「うん? 予言の子? ……彼がそういっているのか?」

「はい、あの貫禄いっぱいのオークが僕のことをそう呼んでいます」

「ふむ……ノクト君はオークたちにとって、特別な何かをもたらすことになるということ……か? う~む……おっと、話の腰を折ってしまったな、済まなかった」

「あ、いえ……」


 そして、再び貫禄いっぱいのオークへ視線を向ける。

 どうやら、僕とレンカさんの会話を待ってくれていたようだ。


「すいません、それで予言の子ってなんですか?」

『……いや、構わない。それで予言の子というのは、我々の長老が生を終える最期に残した予言でな……いずれ変革をもたらす人間族の子が我々の前に現れるといっていたのだ』

「へ、変革……ですか?」

『ああ……もっとも、それがどの程度の規模を指すのかは分からない……だが、長老がわざわざ予言に残したぐらいなのだから、小さなものではないと私は考えている……それに何やらここ最近、どこもかしこも騒がしくなってきているからな……これも変革のときが近付いている兆しといえるのかもしれん……』

「え、えぇ……」


 ……ナニソレ、って感じ。


「……どうした、ノクト君? 変革とはなんだ? 彼はなんといっているんだ?」

「え、えぇとですね……なんか、彼らの集落にいた長老が遺言みたいな感じで予言をしていたらしくて……どうやら、人間族の子供が今の僕みたいに彼らの前に現れるらしくてですね……」

「ほう、それが予言の子というわけか……それで、変革というのは?」

「う、う~んと……」


 ……僕が「変革をもたらす人間族の子」って……そんな大げさなこと、あり得るわけがない。

 それに僕が成し遂げるべきは、この心に棲み着いたオーガを斬り捨てる……それだけなのだから……

 ゆえに、周囲に変革をもたらすなど、起こり得るはずがないんだ……

 ……ああ、そういえばさっき周りのオークたちが見せていた驚きの反応だけど、これが主な原因か……なるほどね、納得した。

 というか、僕が一番信じられないぐらいだし……


「……ノクト君?」


 ……うぅ……こんなこといっていいのかな……レンカさんに「イタイ子」って思われないかな?

 というか、貫禄いっぱいのオークの言葉が分かるって時点でかなりヤバいだろうに……


「……ノクト君、もしかしてそれはとてもプライベートなことで、安易に他人に話せるようなことではないということか? それなら私も無理に聞くつもりはないし、変に気を遣う必要もないからな?」

「あ、いえ、そういうことでは……」


 ただね……勘違いマンみたいになりそうだからさ……ちょっと二の足を踏んでいるんだよね……

 それに何より、僕の目標ってわけでもないからさ……

 いや、貫禄いっぱいのオークが勝手にいってるだけですっていえばいいのかもしれないけどさ……

 でも、それならもうちょっとマシなホラを吹けって……少なくとも僕は思っちゃうし……


『……予言の子よ、君の気持ちも分かるぞ……急にいわれれば、誰だって戸惑うものだ』

「あ、はぁ……どうも……」


 なんだろう、この貫禄いっぱいのオークに気持ちを慮ってもらうという状況……変な感じだ……

 というか、貫禄いっぱいのオークさん、いい人……じゃなかった、いいオークだね。

 正直「モンスター討つべし」を信条としている僕ですら、彼の人柄……っていうのも変だけど、好意的に捉え始めているぐらいだからね……

 そしてまあ、レンカさんにごまかしとか隠し事っていうのもなんか嫌だし……正直に話すとしようかな……


「レンカさん……その……笑わないでくださいね?」

「ああ、約束しよう!」

「ありがとうございます……それでは、続きをお話します……」

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