第71話 君は何をいっているんだ?

 お昼休憩を終えて、再び森の中をオークの集落向けて歩く。

 また、午前中と同じように、その途中にいるモンスターたちを迂回することなく直進して、遭遇するたびに屠っていく。

 しかしながら……


「妙だな……昼頃からオークと出くわすことがなくなった……」

「そうですね……これぐらいの森なら、もっとゾロゾロ出てきてもおかしくないはず……」

「……ふむ、どうやら私たちの接近に、あちらも気付いているようだ」

「それはつまり、集落の防備を固めている……ということですか?」

「おそらくそうだろう……なるほど、ウワサのオークジェネラル……甘く見てはいけない相手のようだ」

「相手にとって不足なし……ですね?」

「ああ、ノクト君のいうとおりだ」


 もともと僕は戦闘タイプではなかったはずだけど……あの日、ホツエン村をモンスター共に襲われ……そして、あのオーガと出会ってしまってから……僕は変わった。

 貪欲に強さを求める方向にね……

 だから、通常より優秀であろうオークジェネラルに率いられたオーク共……悪いけど、僕の糧になってもらうよ……

 そしてレンカさんも、なかなかに戦闘タイプのようだ。

 オークジェネラルのウワサを聞くたびに、気力がどんどん充実していっているように感じる……たぶん、ワクワクしてるんだろう。

 そんなことを思いつつ、森の中を進んでいく。

 そうして1時間半ほど歩いた頃だろうか……ゴツイ闘気の塊がこちらに向かってくる気配をキャッチした。


「……ノクト君も感じたようだな?」

「はい……とても強い気配が近づいて来るのを感じます」

「てっきり、籠城戦を仕掛けてくるものとばかり思っていたが……しかし、全軍で打って出るという感じでもないな……」

「はい、オークジェネラルらしき気配の持ち主以外もナイトやマジシャンといった上位種のようですが……それでも5体ほどしかいませんからね……」

「ふむ……陽動作戦のつもりか……だが、それらしき奇襲部隊の姿を魔力探知で捉えられない……ノクト君はどうだ?」

「えぇと……そうですね……僕の感じ取れる範囲全てを念入りに探っているつもりですが……やはり、見つかりませんね……」

「私たち2人がかりで発見できないレベルの隠形能力を持ったモンスターとはな、少々信じ難いものがある……とはいえ、その最悪を想定しておくに越したことはないだろう……」

「確かにですね……そしてどんな奴が来ようと、返り討ちにしてやりましょう」

「うむ」


 こうして、オークの集落に向けて進むのを止め、迎撃態勢を整えることにした。

 さあ、オーク共よ……どこからでもかかって来い! 全て喰らい尽くしてくれる!!

 ……なんて、心を奮い立たせる。

 そして待つことしばし……ついに、ウワサのオークジェネラル御一行が姿を現した。

 しかも驚いたことに彼らは、僕ら人間族の騎士かと思うほど堂々とした佇まいである。

 その中で一番貫禄のあるオークが口を開いた……


『人間族よ! ここは我々の縄張りである……早々に立ち去っていただきたい!!』

「……えっ!! オークがしゃべった!?」

「うん? ノクト君……君は何をいっているんだ?」

「えっ? レンカさん、聞こえなかったんですか? あの貫禄いっぱいのオークがしゃべりましたよ!?」

「う、う~ん……ふざけているわけではないみたいだな……」

「はい! ふざけてなんかいませんよ!!」

「そ、そうか……でもな……オークがしゃべるだなんて……それに私には、あの者が普通に鳴いているようにしか聞こえなかった……」

「えぇっ!! そんなバカな!?」

『どうやら私の勘は正しかったようだ……そして人間族の子よ、おそらく君にしか私の言葉は通じていない』

「な、なんだってぇ!? どうしてまた……」

「え、えぇと、ノクト君……君のことを信じて尋ねるが……彼はなんといっているんだ?」

「あ、はい……そうですね……どうやら彼の言葉は僕にしか通じていないらしいです」

「ほう……モンスターテイマーの中には、モンスターのいっていることが分かると豪語する者もいるが……あれは実際のところ、モンスターの意思をテイマーが汲み取っているだけ……言葉自体を理解しているわけではないと聞くが……もしかしてノクト君……君は、ほかに類を見ないレベル……そう、超一流のモンスターテイマーの才能を持っているのかもしれないな……?」


 モンスターテイマーだって!?

 そんなバカな……僕ほどモンスター共を憎んでる人間もなかなかいないはず……

 いやまあ、徐々にモンスターの被害を受ける村や街が増えていってるから、僕だけが特別ってわけじゃないけどさ……

 でも、こんなにもモンスター共に深く憎しみを抱く存在が、モンスターテイマーの才能持ちなわけないはず!

 それに……街とかでたまに目にしたモンスターテイマーのオッチャンとか……本当に愛情深くモンスターと接していたし……あんなマネ、僕には絶対無理!!

 というか、そもそもモンスターテイマーって確か……卵から孵すところからスタートだったはず……そうやって、生まれたときから愛情持って育ててやっと懐くかもってレベルでしょ?

 あんな貫禄いっぱいの……ついでに僕より年上だろうオーク……とってもじゃないけど、テイムする自信ないよ……

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