第69話 目立つということだよ
「……セイッ!」
「うむ! 今のはよかったぞ!! さあ、どんどん来い!!」
「はいっ! ……セイヤッ! タァ!!」
「そうだ! いいぞ!!」
このあと依頼でオークの集落掃討に向かうため、ある程度セーブしつつ剣術稽古をしている。
ただし、だからといって手を抜いているわけではない。
あまり疲れ過ぎないように注意をしながら、それでも今後に役立つように……そんなつもりで模擬戦をしている。
「……よし! 少し短いが、今日のところはこれぐらいにしておこう」
「はいっ! ありがとうございます!!」
そして、明らかにレンカさんのほうが上位の腕前なので、ご指導いただいているという感じだ。
また、僕みたいな田舎者でも分かるぐらい、レンカさんの剣術は洗練されていて美しい。
まあ、比較対象が父さんだからね……それもそのはずって感じかもしれない。
なんというか、父さんの剣術は武骨とか実戦一辺倒といえばそれなりに格好もつくかもしれないけど、表現を変えれば粗野って感じだからさ……
そんなわけでレンカさんの剣術は、僕にとって学ぶところがとても多い。
「ふふっ、ノクト君はとても吸収が早いな……出会ってまだ間もないというのに、驚くほどのスピードで上達しているよ」
「ほ、本当ですか!? それならよかったです!!」
「ああ、本当だとも! ノクト君の才能はもちろん、おそらくお父上の指導もよかったのだろうなぁ」
「えっ、父さんのですか? う、う~ん……レンカさんにそういってもらえると、父さんも喜ぶと思いますけど……」
レンカさんの言葉を受け、ホツエン村にいた頃の……父さんによる剣術稽古を思い出す……
う~ん、あの指導がよかった……のかな?
なんか、ズタボロにされて地面に転がっている記憶ばかりが鮮明に思い浮かぶんだけど……
ちなみに、僕のこれまでについてを軽くだけどレンカさんに話してある。
そのため、僕が父さんにみっちり剣術を仕込まれていたってこともレンカさんは知っているのだ。
「……お父上のことを思い出していたのかな?」
「はい……そうですね」
「そうか……私に剣術を教えてくれたのは兄上でな……その兄上もノクト君のお父上と同じように、もういないが……」
「お兄さんですか……きっと素晴らしい剣術の使い手であろうことが、レンカさんの剣から伝わってくる気がします」
「ふふっ、ありがとう……おっと! これから依頼に向かうというのに、しんみりして勢いを削ぐわけにはいかないな!!」
「確かに、そうですね! 気合を入れていきましょう!!」
「うむ! それじゃあ、まずは朝食にしよう!!」
「はいっ! お腹いっぱい、元気いっぱいで依頼を達成しましょう!!」
「ああ! もちろんだ!!」
こうして早朝の剣術稽古を終えて、レンカさんと食堂に向かい、朝食をいただく。
そして験を担ぐ意味も込めて、オークかつ丼を特盛でペロリといったる!!
ハッハッハッ! これで、ジェネラルだろうがなんだろうが、イチコロだい!!
「ふふっ……ノクト君、なかなかいい食べっぷりじゃないか」
「はいっ! こんな感じで、集落にいるオークもみんな食べちゃいます!!」
「うんうん、頼もしい限りだよ」
なんて軽口を叩きながら、レンカさんと朝食のひとときを楽しんでいると……
「……今、オークの集落って聞こえたよな?」
「ああ、確かに聞いた……もしや、アイツら……」
「まさか、あの依頼を……?」
「え? いや、でも、2人しかいないぞ……しかも、女と子供……」
「……ん? お前ら知らないのか? あの2人は凄腕の冒険者らしいぞ?」
「へぇ? そうなのか?」
「俺も昨日、たまたま聞いただけなんだが……特にあの子供がヤバいらしい……」
「ヤバいって……どうヤバいんだ?」
「えぇと、なっていったっけ、ミール……いや、違う……ああ、そうそうミートだ……肉を求めてオークをひたすら狩りまくる姿から、隣の街で畏怖を込めて『ミートボーイ』って二つ名が付いちまうぐらいの子供……そういえば、だいたいの想像はつくだろ?」
「二つ名が付くレベルか……そいつは確かにヤベェな……」
「でも……それぐらいの実力者ってことだろ? 結構なことじゃないか」
「だな! 要するに、隣の街がオーク退治の専門家を派遣してくれたってわけだ、これで俺たちも一安心できるってなもんよ!!」
「まあ、そういう捉え方もできるか……」
なんだろう、僕のウワサがどんどん変な方向に広まっていってる気がする……
これじゃあ、ますます僕のことを「お肉大好きマン」と呼んでくれる人がいなくなりそうだよ……
「……私も何度か耳にしていたが、その若さで二つ名持ちとは……ノクト君は優秀そのものだな?」
「まったく、お恥ずかしい限りです……」
「いやいや、冒険者にはそういう自己を宣伝する材料が少しでも多いほうがいいのだから、謙遜することはないさ」
「な、なるほど、そういうものですか……」
「ああ、それに私は地味なのか……残念ながら、そういう二つ名を持っていないからな」
「えっ! そんないいものじゃないですよ? 僕の場合、からかいが多く含まれていますし……」
「ふふっ、からかいだろうがなんだろうが、それだけノクト君は目立つということだよ………………兄上もそうだったなぁ……」
レンカさんが最後に小さく呟いた言葉……そこはあえて聞かなかったことにしておいた。
きっと、レンカさんだけの大事な思い出が詰まっているだろうからね……
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