第68話 それこそマズいんじゃない!?
……小鳥のさえずりが聞こえる。
……もう朝か、それじゃあ早速、剣術の稽古に行こうか……な?
あれ、動けないぞ……なんで?
そしてその理由はすぐに分かった……なぜか知らないけど、レンカさんにガッチリとホールドされていたからだ……
いい匂い……そして温かい……って違う! そうじゃない!!
これはマズいぞ! 特に枕かと思っていた温かく柔らかい膨らみがマズい!!
しかし、もがけばもがくほどホールドがシッカリしていくような気さえする……
そんな時間を少しばかり過ごしたところで……
「……うぅん? ……おお、おはようノクト君」
「えっと……はい……おはよう、ございます……」
ついに、レンカさんがお目覚めとなった……マズいぞ……
なんでこうなったのかは分からないけど……僕はもう……終わりかもしれない……
そんな絶望感で心がいっぱいになっていたけど……そうだ! 謝らなくちゃ!!
謝ってどうにかなる問題ではないかもしれないけど、とにかく謝ろう!!
「……申しわ」
「いやぁ~やはり窮屈な思いをさせてしまっただろうな……済まなかった!」
「……え? えっと……?」
窮屈どころか……どちらかというと、幸せな感じでしたけど……
いや、罪悪感を除けばだけど……
「覚えていないかもしれないが……昨日、回復魔法をかけている途中でノクト君は寝てしまってな……そのまま鍵をかけずに部屋を出るわけにもいかず、私もこの部屋で寝させてもらったのだ……悪いとは思いつつ、ベッドを半分使わせてもらってな……狭かっただろう? 済まなかったな」
「あ、いえ! そんなことはありません!! むしろ、回復魔法をかけてもらっておきながら寝てしまうとは、大変失礼いたしました!!」
「いや、回復魔法に慣れていないと、そういうことも結構あるからな、失礼でもなんでもないさ……ただ、そのことを失念していた私の落ち度だ」
「いえいえ! まったくもって、レンカさんは何も悪くありません!!」
どうやら僕は、女性の部屋に忍び込む変態野郎にはならずに済んだようだ……助かったァ!!
……そうして罪悪感が抜けたことによるものか、改めて自分が置かれていた状況に思い至り……今さらながらにドキドキしてきた!
いや! だって!! あのレンカさんだよ!?
僕が今まで目にしてきた女性の中で一番美しいレンカさんに! 抱き締められながら寝ていたってことなんだよ!?
そんなこと! 信じられるかって話だよ!!
……あ、でも、そうか……昨日感じた母さんの温もり……あれはレンカさんの温もりだったってことか……
「……ノクト君?」
「……あ、すいません……えぇと……昨晩、母さんの夢を見たっていうか、母の温もりみたいなものを感じたなって思ってたんですけど……もしかしたら、レンカさんが隣にいたからなのかな……って、僕はなにをいってるんだろう……すいません、変なことをいって……」
「いや、別に変じゃないさ……だが、母の温もりか……せめてそこは姉とでもいって欲しかったが……」
「あっ、すいません! 僕は一人っ子だったもので……えっと、姉という概念がなかったというか……その……」
「はははは! いやぁ、スマンスマン、困らせるつもりはなかったのだ、許してくれ」
「あ、はい、大丈夫です」
「そうか、ノクト君は一人っ子だったか……」
「ええ、まあ……」
そして、このとき流れで話してくれたのだが、レンカさんにはお兄さんとお姉さんがいるそうだ。
ただ、お兄さんは既に亡くなっているとのことで、現在はお姉さんだけ。
しかもそのお姉さんも……なんと家出中だというじゃないか……
マジでお姉さん、何してるんだよ……
そんなわけでレンカさんは、冒険者として旅をしながらお姉さんを探しているらしい。
いや、もしかすると冒険者という身分は、一種のカムフラージュなのかもしれない。
……おっと、あまりお貴族様の世界について詮索するのはよくないだろう。
余計なことを知り過ぎて命を落とす……そういう人物が出てくる物語とかも何度か読んだことがあるしさ……
だから、あくまでも僕が知っているレンカさんは、姉を探している冒険者の1人ということ……それだけだ。
といいつつレンカさん自身、自分がお貴族様だってことはいってないんだけどね……
単に僕がそう察しているだけ……でも、たぶんそうだから、深くは言及しないでおこう。
……って、今考えたら……レンカさんの家の人に、僕が一緒のベッドで寝ていたということがバレたら……それこそマズいんじゃない!?
もしかしたら、不敬罪とか適用されちゃうんじゃ……僕、大丈夫かな……?
「……ん? 今度は顔色が悪くなったようだが……本当に大丈夫か?」
「い、いえ……その、はい……ご心配には及びません……そ、それでは、剣術の稽古に行きたいと思います」
「……そうか? まあ、体調自体は悪くなさそうだしな……とりあえず、私も行こう」
「はい、かしこまりました」
「おいおい、また急に畏まった話し方に戻ってしまったな……もっとリラックスしてくれて構わないのだぞ?」
「はい、善処いたします……」
「やれやれ、まったく……」
こうして、やや冷や汗をかきつつ、早朝の剣術稽古に向かうのだった……
そしてどうか……バレませんように……
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