第67話 安堵

「……それでは、無事に依頼達成されることをお祈りしております……また、くれぐれもお気を付けください」

「ああ、任せてくれ」

「頑張ってきます!」


 こうして、この街の冒険者ギルドに到着の挨拶を終え、明日から本格的に依頼に取り掛かることとなる。

 というわけで、今日のところはもう遅いので、宿屋で一泊する。

 また、この街に来るまでのあいだ立ち寄った村には、いくつも宿屋があるわけではなかった。

 そのため選択肢がなかったが、この街には何軒もある。

 そこで僕ら……というかレンカさんが選んだのは、普段の僕が泊るレベルとそう大きく変わらない宿屋だった。

 正直、出身がお貴族様であろうレンカさんなら、普段はもっと高級な宿に泊まるんじゃないかな……とか思ってしまう。


「……浮かない顔をしているようだが……どうかしたか?」

「あ、いえ……レンカさんは本当にこの宿でよかったのかなぁ……と思いまして……」

「ああ、構わないぞ?」

「そうですか……」


 本当に気にしてないって顔だ……

 まあ、レンカさんがいいんだったら、それでいいけどね……


「……それにこの街の中では、ここが一番料理が美味しいと評判の宿屋だったからな!」

「な、なるほど……」

「うむ、この味……どうやら評判のとおりだったようだ!」

「あはは……それはよかったです」


 まあね、この宿屋も基本的な部分はしっかりしているからね、別にダメってわけではないんだ……単にあんまり高級感がないってだけだからさ……

 それでレンカさんとしては、装飾などの高級感よりも、料理の良し悪しのほうが大事ということらしい。

 この点について、特別僕に気を遣ったわけではないようで、少しばかり安堵もしている。


「……それにしても、私は別に2人部屋でもよかったのだぞ?」

「えっ!? いや、これまでもいいましたけど……それはマズいですよ……」

「……そうか? 私は君を信用しているのだがな?」

「そういってくれるのはありがたいですけど……」


 やはり、レンカさんは天然というか……鈍感というか……

 毎度毎度、僕が別々の部屋を取ることを強く主張しているので、今のところ2人部屋になったことはない。

 まあ、レンカさんの信用はありがたいけど……その反面、男として見られていないようで、切なくもある……

 おそらくレンカさんの感覚としては、僕はまだ子供って感じなんだろうね……

 一応、僕だってそれなりに男なんですよ、レンカさん……


「……ノクト君は夕食時になると決まって切なそうな顔になるな……ほら、おかわりを頼んでやるから、いっぱい食べて元気を出すんだ」

「はい……ありがとう、ございます……」


 レンカさんのこういうところ……年上に失礼かもしれないけど、かわいらしいなって気がするのも確かだ。

 まあ、それでも、男として見てもらえない切なさのほうが勝るけどね……とほほ……


「……さて、お気楽ムードはこれぐらいにして……明日から本格的に依頼開始となる」

「はい、そうですね……」

「皆が危険だといっていたオークジェネラル……その実力にもよるが、私はその者に付きっ切りとならざるを得ないかもしれない……」

「なるほど……その場合、僕が周りのオークを倒します」

「私としても、なるべく手こずることのないようにしたいが……こればっかりは、戦ってみないと分からないからなぁ……」

「そうですね……まあ、周りのオークは僕がキッチリ殲滅しておきますので、レンカさんは余計なことに気を取られることなく、オークジェネラルとの戦いに集中してください」

「ふふっ……それは頼もしい限りだ」


 正直、僕がオークジェネラルと戦ってみたいという気持ちもないではない。

 しかしながら、それはワガママというものだろうからね……ガマンしなきゃだ。

 でも、周りのオークを先に倒してから、加勢という形でならオークジェネラルと戦えるかもしれない。

 焦りは禁物ということを僕だって重々承知しているつもりだけど……

 それでもやっぱり、強い奴との戦闘経験を積めるのなら積んでおきたい。

 とりあえず、その場次第なところもあるけど……冷静に戦いながら、そのチャンスをうかがうとしよう。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、明日の予定を話し合った。


「……よし、だいたいのことはこれぐらいでいいだろう……あとは明日、最善を尽くして依頼遂行に当たるのみだ」

「はい! 足手まといにならないよう、僕も全力で頑張ります!!」

「ああ、頼りにしているよ」


 こうして話し合いは終わり、それぞれの部屋に戻って行った。


「……フゥ……明日はタフな1日になりそうだ……しっかり寝て、英気を養おう!」


 ……なんて思っていたら、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 というわけで応答したところ、レンカさんだった。


「えっと……どうかしましたか?」

「さっき回復魔法をかけてやるのを忘れていたからな、今かけてやろう思って来たんだ」

「えぇっ? そんな、大丈夫ですよ……」

「そう遠慮しなくていい……それに明日は大事な一日となるのだからな!」

「は、はあ……それなら、よろしくお願いします」


 ホントに……ただ照れてただけなんだけどね……

 でも、レンカさんのそういう気遣いは嬉しくもある。

 そうして、レンカさんの回復魔法をありがたく受けたのだけど……それはとても温かく、安らげるものだった。

 そしてなんとなく、母さんの温もりを思い出したのだった。

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