第66話 オーク狩りのスペシャリスト

「え~と……なんだその、ミートボーイっていうのは……?」

「まあ、隣の街を拠点としてる冒険者じゃなければ知らないのも無理はないかもしれないが……」

「おいおい、もったいぶらずに教えてくれよ……」

「悪ィけど、俺の頭ン中では、あのガキ……もうボロ雑巾になってンぜ?」

「う~ん……ボロ雑巾になるのは、お前のほうかもしれん……」

「そんなんどうでもいいから、早く話せ」

「あ? どうでもいいだと?」

「はいはい、お前もちょっと落ち着いて……まずは話を聞こうぜ?」

「……チッ」


 そういえば、ホツエン村で父さんとかジギムとした模擬戦以外だと、あんまり対人戦っていうのはやってない気がする……

 一応、冒険者ギルドにも「盗賊の討伐」っていう依頼もないわけじゃないけど……僕はやってないからなぁ……

 まあ、最低でもDランクからだし、パーティー推奨の依頼だから、今までの僕には最初から選択肢に入ってなかったっていうのもあるけどね。


「まあ、俺もたまにあっちの街へ遠征に行くってだけで、ミートボーイの全てを知ってるってわけでもないが……とりあえず、子供ながら奴は既にDランク……それだけで、まず最低限のことは分かるだろ?」

「なッ!? ウソだろ……どこぞのボランティア精神あふれるパーティー様が、その辺のド新人を見習いとしてシゴいてやってるだけじゃなかったのか……?」

「てっきり俺も、Fランク……まあ、せいぜいEランク成り立てホヤホヤのイキったガキかと思ってた……」

「た、確かにそういわれると……雰囲気がある……ような?」

「とはいえ、ランクについては本題じゃない……奴の恐ろしいところは、新鮮なオーク肉を食べたいという理由だけで、毎日オークを何体も狩り歩いているってことなんだ……しかも、今回はあの女と一緒みたいだが、普段はソロだ」

「は? なんだそりゃ……」

「シンプルに理解不能だ……」

「あと、どうでもいいことかもしれないが、切り方にもこだわりがあるみたいでな、自分で解体までこなすそうだ……」

「なんつーか……変な奴……」

「わけ分かんねぇ……肉なんか、焼いたらどれも同じだろ?」

「えっと……まあ……さすがにそこまでいうつもりはないけど……かといって、切り方にこだわり過ぎるのもどうかと思っちゃうね……」


 いやいや、お肉っていうのは切り方で結構変わるもんだよ?

 まあ、僕もまだまだ精進する身ではあるけども……


「……なるほど! そういうことか!!」

「んあ? 何が『なるほど』なんだ?」

「要するにあのガキ……オーク狩りのスペシャリストってこったろ?」

「おっ! そうか!!」

「はは~ん、そこまでいう奴なら……期待していいんだろうな?」

「だがよぅ、あのオークジェネラル……ジェネラルってだけでもハンパじゃねぇのに……その上さらにヤベェ奴だぞ? 絶対!!」

「確かに……今まであのオークジェネラルに挑戦したパーティーだって、どれも実力は本物だったしな……」

「ああ、オークジェネラルの肉が食べたいとかそんな舐めた理由で挑んでいい相手じゃねぇ……」

「ま、そのミートボーイって奴がどれほどのもんか……お手並み拝見といこうぜ?」


 ふぅん? そんなに凄いのか……とはいえ、オーガほどではないだろう……

 僕の目標はオーガだ……その通過点として利用させてもらうぞ!


「それより、あの姉ちゃんに声をかけねぇの?」

「やめとけ……ガキとはいえ、Dランク相手にケンカするのはマズい……」

「えぇ……せっかく旨い酒が飲めると思ったのに……」

「ほら、お前もあのミートボーイとかってのに解体されたくないだろ?」

「うむ……ほかを当たったほうが賢明だろう……それにどうやら、あの女性冒険者も只者ではなさそうだしな……」

「えっ? そうなの?」

「気付いていなかったのか? あれでもかなり抑えているようだが……とても強い闘気を発している……いや、もしかしたら魔力持ちかもしれん」

「ゲッ……もしかして貴族!?」

「あり得るかもな……」

「なんでこんなところに……」

「なるほどね……だからあんだけ見た目がよかったってわけだ……」

「あ~あ、がっくし……」

「……ということは、あのお子様もお貴族様の可能性が?」

「あ、いや、それはないっぽい……確か、田舎の村から出てきた奴って話だったからな」

「……セーフ! 危うく貴族を脳内でボロ雑巾にするトコだったぜ!!」

「……お前はそのクセをどうにかしたほうがいいかもな……いや、心の中で思ってしまうのは仕方ないにしても、わざわざ口に出すべきじゃない」

「そいつはムツカシイ相談だ!」

「どこがだよ……」


 とりあえず、レンカさんをナンパしようという不届き者は考えを改めたようだ、よかったよかった。


「……それでは、あちらの街でも説明されたことだったとは思いますが、こちらからの説明は以上となります」

「ああ、分かった」

「それから、何か疑問やご不明な点などはありますか?」

「……いや、私からは何も……ノクト君は何かあるか?」


 ……おっと、僕に話が振られたようだ。

 でも、そうだなぁ……


「えぇと……そのオークジェネラルというのは、そこまで特別なんですか?」

「そうですね……今まで挑んだ冒険者たちは、口をそろえて異常な強さだったと申しておりました……」

「……でも、死人は出てないんですよね?」

「ええ、幸いにして……だからといって楽観視するのも考えものでしょうけれど……」


 そういう受付のお姉さんの顔色的にも、やはり今回のオークジェネラルの強さは特別らしい。

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