第65話 あの後ろ姿……
「……着いたよ、お客さん」
「おお、着いたか……」
「ついに、ですね!」
依頼を出していた目的地の街に到着。
これにより、馬車の旅はひとまず終了。
「ご武運を祈ってますよ……それじゃあ、ワシはこれで……」
「ああ、ここまで世話になったな」
「ありがとうございます!」
現時点では、依頼を達成して帰る日がいつになるか分からないので、馬車は片道分しか用意されていない。
そのため、御者のオッチャンは僕たちの依頼達成を待つのではなく、次の運送に取り掛かるため、ここでお別れとなる。
そしてお別れの際、オッチャンは僕にだけ聞こえるよう耳元で小さく声をかけてきた。
「………………ボウズ、上手いこと姐さんをオトせるよう……祈っといてやるよ」
「えっ……えぇっ!?」
その言葉に僕がビックリしていると、オッチャンはニヤリと笑みを浮かべて去って行った。
い、いや……レンカさんとは、そんなんじゃないし……
っていうか、たぶん、お貴族様だし……
まったく……オッチャンは去り際にひどいイジりをかましてくるんだもんなぁ……
こんなことなら、僕もここまでの移動中でオッチャンを思いっきりイジるべきだったかな?
「……また顔が赤いようだが……大丈夫か?」
「い、いえ、問題ありません! きっと夕日に照らされたせいです!!」
近い! 近いよォ!!
顔を覗き込まれると、ドキドキしちゃうじゃないか……
「……そうか? それならいいのだが……とはいえ、明日は本格的にオークの集落を掃討に向かうのだ、体調も万全にしておいたほうがいいだろう……そうだ、寝る前に回復魔法をかけてやろう」
「えっ!? そこまでしなくても、大丈夫ですよ!!」
「いやいや、遠慮するな……なんだったら今もかけておくか?」
「そ、それより! 冒険者ギルドに到着の報告に行きましょう!!」
「……うむ……まあ、いいだろう」
ここまでの馬車の旅を経て思ったことだけど……レンカさんって、ある意味天然っていうか、鈍感っていうか……
初対面のときはクールビューティーな人って印象だったけど、ちょっと変わってきたといえるかもしれない。
「……ん? どうかしたか?」
「いえ、何も! それより早く行きましょう!!」
「……そう急がずとも、ギルドは逃げないぞ?」
そして感覚の鋭さも併せ持っているときたもんだ……
そんなことを思いつつ、この街の冒険者ギルドへ向かった。
まあ、既に向こうの街で手続きは済ませてあるので、実際のところ到着の報告はしなくても問題ない。
単純に依頼を達成さえすれば、それでオッケーとなる。
でもまあ、挨拶ぐらいはしておいたほうが、いろいろと円滑に進んでいいだろうって感じ……ギルド側としても、できることなら細かく冒険者の動向を把握しておきたいだろうしさ。
「……オークの集落を掃討!? ……あっ、大きな声を出してしまい、申し訳ありません……依頼のため遠くからお越しいただき、ありがとうございます……」
「いや、構わない」
パーティーリーダーとして、レンカさんが受付のお姉さんと話しているわけだが……最初に依頼の受注書を見て、受付のお姉さんが驚いていた。
まあ、この街の冒険者たちで手に負えなかった依頼らしいからね、それも無理はないかもしれない……
「……お、おい……今の聞こえたか?」
「ああ……あの依頼、まさかまだ受ける奴がいたとはな……」
「いや、どうやら遠征組のようだからな……あの依頼のヤバさを分からずに受注しちまったんだろう……」
「あ~あ、知らぬこととはいえ、バカな選択をしたもんだ……」
「……あれっ? あの後ろ姿……どっかで見たことがあるような?」
「な、なあ、それよりも……依頼を受けるのは、あの女とガキの2人だけ……ってこたないよな?」
「まっさかぁ~! あれはたぶん、雑用とか見習いだろ?」
「そ、そうだよな!? ほかに屈強な冒険者たちが宿屋とかにズラリとしてるよな!!」
「……じゃねぇの?」
「でも、あの依頼はヤベェって、念のため忠告しといてやったほうがいいんじゃねぇか?」
「だな……たとえペナルティを課されても、キャンセルしたほうがいいだろう」
「そういうけどよ、一応ギルドからもそういう説明はされてんじゃねぇの?」
「いやいや、分からんぞ? 離れてるだけあって、ほかの街のギルド職員が正確にヤバさを理解しているとは限らないからな……」
「……つーか、ここからだと横顔しか見えないけど、あの姉ちゃん……ものすげぇイイ女だぞ?」
「どれどれ……ホントだぁ!!」
「ここはひとつ、声をかけとくか……」
「おっ、そうだな! それに俺たちには……あの依頼について忠告してやるっていう大義名分があるんだからな!!」
「よっしゃ! 受付が終わったら……行くぞ!!」
「今夜の酒は旨くなりそうだ……うひひっ」
レンカさんをナンパしようだなんて不届きな男共がいるようだ……
これは許せん!!
「……ん? なんだ、あのガキ……こっちを睨んできたぞ?」
「舐めたガキだな……いっちょいわしたるか?」
「おいおい、相手はまだ子供だぞ? やめといてやれよ……」
「いや、ああいうガキには分からせといてやんねぇとな! そんでいつか『あのとき分からせてもらってよかった!』って思える日がくんだよ!!」
「……アッ! 顔を見て思い出した!! あれはミートボーイ!!」
「はぁ? なんだそりゃ?」
へぇ……この街にも僕のことを知ってる人がいたんだね?
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