第64話 嫌いじゃない
「……ノクト君の周りは、いい人たちばかりのようだな?」
「はいっ! みんな、とってもいい人たちです!!」
馬車の中で、レンカさんがおもむろに口を開いた。
昨日みたいに森の中でモンスターとかに警戒しなきゃって状況なら、そっちに意識の大半を持っていけたので割と大丈夫だったけど……
こういう馬車の中で2人っきりっていうのはね……思いっきり緊張しちゃう!
そんなわけで、レンカさんのほうから話しかけてきてくれたのは、ちょっと助かる。
「それで、しばらく行動を共にしていたということだったが……あ、いや、別に詮索するつもりではないから、無理に答える必要もないが……」
「いえ、大丈夫です」
そうして、ヨテヅさんが工房にスカウトされるまで一緒に冒険者をしていたって話をした。
また、故郷のホツエン村がモンスターに襲われて壊滅したって話はあまり深くしなかった。
だってねぇ……レンカさんとしても、そういう暗い話をされたら、いたたまれない感じになっちゃうだろうからさ……
それに「これから気合入れてくぞ!」ってタイミングには、あんまり向いた話でもないだろうし……
そのため、ヨテヅさんとササラさんが結婚したっていうおめでたい話をメインにした。
「そうか、結婚か……」
だが、それはそれでミスったかもしれない……
見た感じレンカさんは既に成人を迎えていると思われるので、結婚も可能だろう。
しかしながら、雰囲気的に結婚しているふうでもない……い、いや! その点については分かんないけど!!
「……おっと、変な気を遣う必要はないぞ?」
「は、はい……」
「私は昔からそういった方面に疎く、気付けば剣を振ったり魔法を撃ったり……という日々でな、ははは」
「へぇ、そうだったんですね? 僕も似たような感じといっていいのか分かりませんけど、父さんに剣術を中心として冒険者に必要な知識なんかを仕込まれていました」
「なるほど、道理で……昨日、ノクト君が森で見せてくれた能力の高さの合点がいったよ」
「えっ? そんなそんな……僕なんか全然、たいしたことないですよ」
「いやいや、私なりにDランク冒険者の実力というものを把握しているつもりだが、ノクト君はその水準よりずっと上だよ……実力的にはCランクでもおかしくないと思う」
「えぇっ!? ほ、本当……ですか?」
「ああ、もちろんだ……私は冗談をいえるタイプではないからな」
じ、実力的にはCランク……それはつまり! 父さんと肩を並べられるってこと!!
これは嬉しい……やった! やったぞォ!!
とはいえ、それなりにお世辞も入っていることだろうけど、ここは喜んでレンカさんの言葉を受け止めておこう……そのほうが幸せだし!
まあ、それで調子に乗ることなく、これからも精進していけばいいんだからね!!
「……ありがとうございます、レンカさん! そういってもらえて、これからますます頑張っていく勇気が湧いてきます!!」
「そうか……私の言葉に勇気付けられたといってくれるなら、嬉しい限りだよ」
「はい! それはもう! 無限の勇気が湧いてきます!!」
「ほう、無限か……それは凄い」
「あっ! えっと……ちょっと調子に乗り過ぎでしたね……あはは……」
「いや、そういうのは嫌いじゃない」
き、嫌いじゃない……レンカさん! 軽々しくそういう言葉を使ってはいけませぬ!!
僕がまだ子供だからいいものの……勘違いしちゃう男性続出ですよ!?
「……急に顔が赤くなったようだが……大丈夫か? 体調が思わしくないなら、回復魔法をかけるが?」
「あ、いえ、大丈夫です……ハイ!」
「……そうか? それならいいが……何かあったら、遠慮なくいってくれていいからな?」
なるほど、確かにレンカさんはそういう方面に疎そうだ……
くぅ~っ……レンカさんが男性なら、思いっきりイジりの的にできるんだけど、女性だからね……そういうのは控えておくべきだろう。
まあ、これでも僕は、紳士の端くれを自負する者だからね!
「……お客さん、ここらで昼休憩にしましょうか」
「ああ、分かった」
「はい!」
このとき、御者のオッチャンが昼休憩を打診してきたので、そのとおりにする。
この冒険者ギルドが手配してくれた馬車は、僕たちの貸し切り……うん、ぜいたくだね!
そのため、途中で止まって人の乗り降りとかがないので、割とハイペースで進んでいる。
とはいえ、今日1日で隣の街まで到着できるわけではないので、途中で宿屋のある比較的大きめの村に泊ることになる。
まあ、それはともかくとして、昼休憩が終わったら、また馬車の旅が再開されるわけだ。
そして、最初に比べて少しは打ち解けてきたが、それでもやっぱり緊張しながら2人っきりの時間を過ごす……
いや、御者のオッチャンもいるでしょって思われるかもしれないけど、基本的にオッチャンは馬車の操縦に集中しているからね……
そんなこんなで、馬車に揺られながら今日の目的地の村まで進む。
ああ、ちなみにだけど、道の途中でモンスターもたまに出現するけど、どれもゴブリンとかの弱い奴ばっかりで強い奴はいない。
そのため、気配がしたなって思ったら、すぐさまレンカさんが遠距離から魔法を撃っておしまいって感じ。
やっぱり、魔法は便利だなぁ……そう思わずにはいられなかった。
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