第58話 そんなの、信じられないよ……

「……ギャ……ッ……」


 街が壊滅……


「ブゴ! ブゴブゴォッ……!!」


 村と街という違いがあったとしても、きっとそこには僕たちみたいな家族が住んでいて、ジギムやルゥみたいな友達と楽しく遊ぶ……そんな暮らしがあったはず……


「……ガヒュゥ……ヒュ……ゥ……」


 そして、ヨテヅさんとササラさんみたいな、幸せいっぱいの新婚さんだっていたはず……


「ゴボォ……ッ……」


 ほかにも、この街のように、優しくてステキな人がいっぱいいたはず……


「ギャヒィッ……!」


 それを……それをコイツらが……!!


「……ギ…………ゴッ……」


 次はどいつだ……お前か!?


「……ブ……ブゴ……」

「なんだよ……いっちょ前に命乞いか? そんなの知るかッ!!」

「…………ッ……」


 森の中で、目に付いたモンスターから手当たり次第に斬っていくだけの簡単なお仕事。

 そうして周囲に息のあるモンスターがいなくなったところで、金銭的価値のある奴だけ回収。

 そして、他領の知らない街とはいえ、壊滅したっていうショッキングな情報は、僕の思考の一部分を占めてしまっている。

 まあ、だからといって戦闘に支障をきたすってことはない……むしろ、不思議と精神が研ぎ澄まされる感じがするぐらいだ。

 そんなわけで、高い集中力でもって、モンスターを次々と屠っていく。

 そうすることによって、僕が今住んでいる街がモンスターから襲撃を受ける可能性を減らせるかもしれない……そんな気持ちもある。

 ……といえば、キレイに聞こえるかもしれないけど、その根底にはモンスターに対する復讐心が渦巻いていることも、正直に告白せねばなるまい。


「……さて、そろそろ街に戻ろうかな?」


 なんて呟きを一つして、街へ引き返す。

 そしてしばらく歩き、街に到着、そのまま冒険者ギルドへ。

 そこでいつものように、まずは解体兼保管場でモンスターの遺骸を引き取ってもらい、引取証明書をもらう。

 よっしゃ! それじゃあハーシィさんの笑顔を見に行きますかね!!

 なんて思いつつ、受付へ向かう。


「お帰りなさい、ノクト君」

「どうもどうも~!」


 そんな朗らかなノリでハーシィさんと挨拶を交わし、ギルドカードと一緒に引取証明書を提示。


「えっと……また凄い数のモンスターを討伐してきたのね……」

「はい! 我ながら、頑張っちゃいました!!」

「う、うん……そうね……でも、大丈夫? 無理してない?」

「ええ、無理なんかしてませんとも!」

「そっか……うん……でも、頑張り過ぎはダメよ?」

「確かに、ハーシィさんのおっしゃるとおりですね……ですが、僕も休息日をちゃんと設けてますから、心配ありませんよっ!」


 フフッ……ハーシィさんったら、相変わらず心配性だなぁ。

 でも、そこがあったかくていいところでもある。

 そのとき、掲示板のほうから気になる会話が聞こえてきた。


「ほう、オークの集落を掃討か……」

「どれどれ……うげっ! ジェネラルがいるじゃんかよ……やめやめ……」

「並のオークしかいない集落ですら悩むっていうのに……ナイトやマジシャンどころか、ジェネラルがいるんじゃなぁ?」

「ああ、絶対パスだ……」

「つーか、こんなん受ける奴いんのかねぇ?」

「まあ、報酬はいいみたいだが……」

「……ん? この依頼書……確か、隣の街のギルドでも見たような……?」

「あ、そうだよ! 俺も先週、ちょこっと遠征したとき見た記憶がある!!」

「おお、やはりそうだったか……」

「それなぁ……俺は月の半分をあっちで活動してるから知ってるけど……既に何組かパーティーが挑戦してて、そのどれもが勝てずに撤退を余儀なくされたって話だったはず……まあ、幸いにして、どのパーティーも重傷までで死んだ奴はいないみたいだけど……」

「ふぅん? 追い返されただけって感じか……」

「しかしながら、重傷って……それはそれで金銭的にキッツイだろうけどな……」

「ま、命あっただけめっけもんじゃね?」

「それはそれとして、オークの集落があるってなったら……脅威だよな? 少し前に街が壊滅させられた話もあったぐらいだし……」

「ああ、このまま放置してたら……その壊滅した街の二の舞いだろうさ……」

「するとこの依頼……あっちで手に負えなくなって回ってきたってところか?」

「……だろうな」

「ひやぁ~そんなん、余計に無理っス!」


 へぇ、お肉の集落……もとい、オークの集落かぁ。


「ねぇ、ノクト君……もしかして、あの依頼を受けるつもりじゃないでしょうね?」

「……あっ、え? え~と、その……受けてもいいかなぁ~って気はちょっとしてます……」


 オークジェネラル……まだ戦ったことはないけど、ナイトやマジシャンじゃ物足りなくなってきしなぁ……

 それに、打倒オーガを目指している身としては、ちょうどいいステップになりそうな気もするし……


「はぁ……やっぱりかぁ……たぶん、聞こえてきたから分かると思うけど、既に6つのパーティーが失敗しているわ……そして、ギルドの中では、領軍の出動を要請しようかと検討され始めてる段階なの……」

「あ、じゃあ、早く狩んなきゃですね?」

「いや、そうじゃなくてね……もう少し待てば、領軍が掃討することになると思うの……」


 領軍が? ホツエン村には来なかったのに?

 そんなの、信じられないよ……

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