第54話 待ち焦がれていた

「フフッ……今日は君と一曲、ダンスを踊らせてもらおうかな?」

「ブゴォッ!」

「そうそう、その意気だよ!」

「ブッゴォ!!」

「いいよ、いいよぉ~! いい感じに燃えてきたねぇ?」

「ブゴォ! ブゴォッ!!」

「そうだ! もっとだ! もっと心の底からバーニングしてくれなきゃ!!」

「……ブ、ブゴ……ォ……」


 おや? ちょっとばかりオークの勢いが弱まったような……?


「どうしたんだい? 君の鼻息は見せかけだけなのか~い?」

「……ッ! ブッゴォ!!」

「おっ! そうこなくっちゃ!!」


 そうしてしばらく、オークと武のダンスを舞う。

 フフッ……優雅でしょぉ?


「……ブ……ブゴォ……ブゴォ……」

「どうやら……体力の限界ってところかな?」

「……ブゴォ、ブゴォ……ブゴォ、ブゴォ……」

「もう一曲……は、無理かな? それじゃあ、ここまでだ……ありがとう、楽しかったよ!」


 そう一声かけて、剣を一閃。


「……ブ……ゴォ……ッ……」


 こうして、オークの討伐完了。


「さて……ここからが重労働……ある意味、本当の仕事のお時間です……」


 なんてぼやきながら、オークを1体お持ち帰り。

 まあ、Dランクに上がってからも、こうして日々の生活はほとんど変わっていない。

 変わったのは……ヨテヅさんと一緒に暮らしてないってことぐらいかな?

 そのことについて、もちろん寂しさはあるけど……でも、ササラさんと幸せになってくれて嬉しいって気持ちのほうが強い。

 ……ただ、それをネタにヨテヅさんをイジることができなくなったのが、残念といえば残念かもしれない。

 とはいえ、一緒に暮らしてないこともあって、イジる暇自体そんなにないっていうのはあるね。

 でもまあ、ヨテヅさんとササラさんの気遣いで夕飯にお呼ばれしたり、僕に会うため宿屋の食堂にご飯を食べに来たりしてくれる。

 それによって、時間は短くても割と毎日のように会っているので、そこまで孤独ってわけでもない。


「ま、寂しさを感じたら、こうしてオークとダンスを楽しめばいいんだからね! どうってことないさ!!」


 そんなことをいいながら、オークの重さから気を紛らわせる。


「街に戻れば、お肉が待っている~美味しい美味しい、オークのお肉が待っている~」


 なんて気分で作った適当な歌を口ずさみながら、街へ一歩一歩進んでいく。

 さあ、もうちょっとだ……頑張ろう。


「……フゥ……やっと着いた」


 オークの重さに耐えながら、ようやく街に、そして冒険者ギルドの建物に到着。

 そしていつものように、解体場で解体と引取を済ませ、受付へ。


「おかえりなさい、ノクト君!」

「どうもどうも~今日も頑張っちゃいました!」

「うんうん、毎日偉いねぇ~よしよししてあげる」

「これはこれは……照れますねぇ」


 ハーシィさんからのなでなで……プライスレス。


「チッ! あのガキ……」

「おいバカ! アイツはミートボーイだぞ!!」

「アッ……!」

「あ~あ、お前も解体されちまうわ」

「とはいったものの、お前の肉なんかモンスターぐらいしか食べたがらないだろうなぁ……いろんな意味でかわいそうに……」

「そ、そんなわけ……ない……よな? な!?」

「さて、どうだかなぁ?」

「まったく……舌打ちするにしても、よく相手を見てからするんだな」


 オッチャンたちの会話が聞こえてきたけど……いやだなぁ~そんなこと、僕がするわけないじゃないか。


「それじゃあ、今日の報酬もギルド口座に入金でいいかな?」

「はい、お願いします!」

「おっけ~」


 そんなこんなで、ギルドの用事を済ませたのだが……

 フフッ……フフフフフ……ついに! ついに僕が待ち焦がれていたこのときがやってきた!!

 それはッ! マジックバッグを買うお金が貯まったってことだッ!!

 やった! やったぞォ!!

 アハッ! アハハハハハハッ!!


「見ろよ、ミートボーイの奴……不気味に笑ってやがるぞ……?」

「……マズいな……本気でキレているのかもしれん」

「えっ!! お、俺……マジで解体されちゃうの!?」

「まあ……さすがにそこまではならないだろけど……」

「夜道には気を付けたほうがいいかもしれんな?」

「そ、そんなぁ……」


 ……おっと、喜びが溢れすぎちゃったね。

 というか夜道に気を付けろっていったって、そのとき僕は宿屋で寝てるし!

 ホントに、しょうがないオッチャンたちだなぁ~

 そんなことを思いつつ、オッチャンたちのほうへと向かう。


「……オッチャン、心配しなくても大丈夫だよ?」

「へっ? えっ?」

「僕はお肉大好きマンだからね……オークみたいな美味しいお肉の塊しかターゲットにしないよ、それじゃ!」

「はっ? えっ?」

「よかったな、勘弁してくれるみたいだぞ?」

「……ただし、この先お前は太ることができんかもしれんな?」

「なッ!! えッ!?」

「そっかぁ、美味しいお肉の塊……そういう意味にも解釈できるかぁ……」

「うむ、そういうことだ……」

「そんなぁ! 助けてぇ~!!」

「ま、太らんように、しっかり体を動かすこったな!」

「これを機に断酒したらどうだ? 少なくとも、今より飲む量は減らしたほうがいいだろう」

「うえぇ……」


 まあ、健康のためにも、お酒は控えめにね?

 なんて思いつつ、ギルドをあとにしたのだった。

 さて、それじゃあ……魔道具屋さんへ! レッツでゴー!!

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